著者
佐藤 康宏 板倉 聖哲 三浦 篤 河野 元昭 大久保 純一 山下 裕二 馬渕 美帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間が都市をどのようにイメージしてきたかを解明するために、日本・中国・ヨーロッパの典型的な都市図を取り上げ、作品を調査し、考察した。研究発表の総目録は、研究成果報告書に載る。以下、報告書所載の論文についてのみ述べる。佐藤康宏「都の事件--『年中行事絵巻』・『伴大納言絵巻』・『病草紙』」は、3件の絵巻が、後白河法皇とその近臣ら高位の貴族が抱いていた恐れや不安を当時の京都の描写に投影し、イメージの中でそれらを治癒するような姿に形作っていることを明らかにした。同「『一遍聖絵』、洛中洛外図の周辺」は、「一遍聖絵」の群像構成が、平安時代の絵巻の手法を踏襲しつつ本筋と無関係な人物を多数描くことで臨場感を生み出していることを指摘し、その特徴が宋代の説話画に由来することを示唆する。また、室町時代の都市図を概観しながらいくつかの再考すべき問題を論じる。同「虚実の街--与謝蕪村筆『夜色楼台図』と小林清親画『海運橋』」は、京都を描く蕪村晩年の水墨画について雅俗の構造を分析するとともに、明治の東京を描く清親の版画に対して通説と異なる解釈を示す。ほかの3篇の論文、馬渕美帆「歴博乙本<洛中洛外図>の筆者・制作年代再考」、板倉聖哲「『清明上河図』史の一断章--明・清時代を中心に」、三浦篤「近代絵画における都市と鉄道」も、各主題に関して新見解を打ち出している。
著者
小川 裕充 板倉 聖哲 桝屋 友子 田中 秀隆 朴 亨國 大田 省一 羽田 正 秋山 光文 浅井 和春 後小路 雅弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

設備備品につては、「西洋人アジア旅行記」5,663点(マイクロフィッシュ16,453枚)、「西洋人アジア伝道旅行記」231点(マイクロフィッシュ1,585枚)を一括購入し、ヨーロッパの世俗・宗教両面から伝統アジアを捉える旅行記を基本研究資料として公開している。絵画班:小川は、平成17年度、シンガポール亜州文明博物館新収の中国絵画コレクション50数点の悉皆調査を行った。また、板倉・田中・五十嵐とともに、オーストラリア所在中国・日本絵画調査を実施し、オーストラリア絵画のディジタル・ファイルを購入した。18年度は・板倉とともに、東アジア・東南アジア所在中国絵画調査を実施した。調査対象は台湾:石允文コレクションなど3個所、シンガポール:呉起駒コレクションなど2個所、香港:香港中文大学文物館・香港藝術館、計7個所であり、撮影作品数無慮7百点に上る。彫刻班:浅井・朴は、東京国立博物館収集東南アジア仏教彫刻スライド資料2万点のディジタル画像化、及びプリントアウトをすべて完了し、資料整理の基礎となる基本カード作成もほぼ半数の1万点に及ぶ。また、東博資料のデータの不備を解消し、画像資料をさらに充実させるべく実施した、インドネシア調査(17年度)では、調査撮影対象は、ボロブドゥル遺跡など約70個所、作品4千点に上り、データを再点検し、ディジタル画像資料3万点を追加した。タイ・マレーシア・カンボジア調査(18年度)では、調査撮影対象は、バンコク国立博物館など、約10個所、ディジタル画像資料1万6千点、作品数約2千5百点を追加した。絵画班・彫刻班の調査作品は、個人研究とは別に、班として目録を収載する。なお、絵画班:西・後小路・桝屋・井手、建築班:羽田・大田は、別途、調査研究を進めたため、基盤Aの研究成果としては、研究成果報告書に論文1点を全文掲載し、他は本概要にリストアップするにとどめる。
著者
中里 成章 鈴木 董 山本 英史 大木 康 桝屋 友子 板倉 聖哲 大石 高志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本プロジェクトは、ネットワークの態様と文化表象の生産の2点に着目して、東アジア、西アジア及び南アジアのエリートの比較研究を行い、アジアのエリート研究のための新しい視点を構築することを目的とした。また、画像による研究と文献による研究を結合し、アジア研究の新たらしいスタイルをつくることも目標に掲げた。研究成果の概要は次の通りである。1.新しい視点の構築。アジアの前近代社会の発展の中に近代性を見いだし、伝統と近代という二項対立的な枠組み自体を否定して、エリート研究の新しいモデルを構築しようとする方向。その逆に、近代化論を洗練し精緻にすることで、エリート研究の新たな展開を図ろうとする試み。また、下層エリートの文化生産の様態の研究を進め、それを媒介にしてエリート文化を民衆文化に接合し、両者の相互作用を明らかにしようとする問題提起。大略この3つの視点から方法上の試みが行われた。2.ネットワークの態様。さまざまな研究が行われたが、特に成果があったのは、系譜の比較史的研究であった。系譜に記録された親族ネットワークをめぐって、系譜編纂の主体、系譜の虚構性、記録形式の変化の歴史的意味、親族組織が系譜作成に先立つのか、その逆か、等々の視角から活発な討論があった。この成果は論文集『系譜の比較史』として近く刊行する予定である。3.文化表象の生産。オスマントルコやインドに見られる言語世界の多元的構造が、文化表象の生産にどのような意味をもったか。近代のアジアにおいて文化生産の基本的な制度的枠組みをなしていた検閲制度の実態はいかなるものであったか。また、デザインのような商品化された文化生産は、アジアではどのような歴史をもつのか等の問題に関する研究が行われた。検閲に関する成果は『東洋文化』86号の特集「日本の植民地支配と検閲体制」として既に刊行した。4.画像と文献の研究の結合。テキストに書かれた戯曲の場面を挿絵としてヴィジュアル化するときにいかなる問題が生じるか、等々のテーマに関する新鮮な研究が多数行われた。