10 0 0 0 OA 日本美術の素性

著者
河野 元昭
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.37-63, 2010-11

日本美術の美しさはシンプリシティーに求めることができる。まず初めに、その理由を材質と形式の点から考え、次にシンフ゜リシティーの内容について、直観的、心象的、装飾的、詩歌的、諧謔的の五つに分けて論じたわけである。日本絵画の特質は、一言でいってシンプリシティーである。そのもとになった中国絵画と比較することによって、はっきりと理解することができる。しかし、このような日本美術のシンプリシティーは、同時に圧倒的迫力やモニュメンタリティーに弱いという欠点を生むこともないではなかった。明治時代の小説家二葉亭四迷が、日本人の大和魂というものは純粋であるけれども、徹底性を嫌うという欠点をも生んだと指摘していることは、きわめて興味深く感じられる。ところで、実をいうと、シンプリシティーは美術だけの特質ではなく、衣食住をはじめ技術・学問・文学・芸能・音楽・宗教など、日本文化全般にわたる特徴でもあるといってよいであろう。これらの場合も、単に簡潔純粋というだけではなく、複雑なものをそのように見せる意識が働いていたことを見逃してはならない。それでは、なぜ日本文化全体がシンプリシティーによって特徴づけられるのか、今後はこの問題を考えてみたいと思っている。その際ヒントになりそうなのは、近代の文豪島崎藤村が、日本に和歌や俳句の如く、ごく単純な詩形が発達してきた理由は、われらの心に経験することがあまりに複雑であるからではないかと指摘している点かもしれない。
著者
佐藤 康宏 板倉 聖哲 三浦 篤 河野 元昭 大久保 純一 山下 裕二 馬渕 美帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間が都市をどのようにイメージしてきたかを解明するために、日本・中国・ヨーロッパの典型的な都市図を取り上げ、作品を調査し、考察した。研究発表の総目録は、研究成果報告書に載る。以下、報告書所載の論文についてのみ述べる。佐藤康宏「都の事件--『年中行事絵巻』・『伴大納言絵巻』・『病草紙』」は、3件の絵巻が、後白河法皇とその近臣ら高位の貴族が抱いていた恐れや不安を当時の京都の描写に投影し、イメージの中でそれらを治癒するような姿に形作っていることを明らかにした。同「『一遍聖絵』、洛中洛外図の周辺」は、「一遍聖絵」の群像構成が、平安時代の絵巻の手法を踏襲しつつ本筋と無関係な人物を多数描くことで臨場感を生み出していることを指摘し、その特徴が宋代の説話画に由来することを示唆する。また、室町時代の都市図を概観しながらいくつかの再考すべき問題を論じる。同「虚実の街--与謝蕪村筆『夜色楼台図』と小林清親画『海運橋』」は、京都を描く蕪村晩年の水墨画について雅俗の構造を分析するとともに、明治の東京を描く清親の版画に対して通説と異なる解釈を示す。ほかの3篇の論文、馬渕美帆「歴博乙本<洛中洛外図>の筆者・制作年代再考」、板倉聖哲「『清明上河図』史の一断章--明・清時代を中心に」、三浦篤「近代絵画における都市と鉄道」も、各主題に関して新見解を打ち出している。
著者
河野 元昭
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.12, pp.9-21, 2007-11

日本文人画誕生の秘密を解くためには、岡倉天心が『東洋の理想--特に日本美術について--』において指摘したような日本文化の本質的な性格を知らなければならない。その表層だけを眺めてはならない。これは日本文化について考察する際、つねに忘れてはならないことだが、日本文人画の場合には、とくに心に留めておく必要がある。それは中国絵画との関係がきわめて密接だからである。その基本的様式が中国絵画によって規定されているからである。そして日本文人画家の中国憧憬が誰よりも強かったからである。本論は『芥子園画伝』など中国画譜の学習と、荻生徂徠が重視した唐話学を改めて取り上げることによって、日本文人画誕生における中国憧憬の重要性を指摘したものである。
著者
河野 元昭
出版者
國華社 ; 1889-
雑誌
國華 (ISSN:00232785)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.30-32,7, 2013-03