著者
中里 成章 鈴木 董 山本 英史 大木 康 桝屋 友子 板倉 聖哲 大石 高志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本プロジェクトは、ネットワークの態様と文化表象の生産の2点に着目して、東アジア、西アジア及び南アジアのエリートの比較研究を行い、アジアのエリート研究のための新しい視点を構築することを目的とした。また、画像による研究と文献による研究を結合し、アジア研究の新たらしいスタイルをつくることも目標に掲げた。研究成果の概要は次の通りである。1.新しい視点の構築。アジアの前近代社会の発展の中に近代性を見いだし、伝統と近代という二項対立的な枠組み自体を否定して、エリート研究の新しいモデルを構築しようとする方向。その逆に、近代化論を洗練し精緻にすることで、エリート研究の新たな展開を図ろうとする試み。また、下層エリートの文化生産の様態の研究を進め、それを媒介にしてエリート文化を民衆文化に接合し、両者の相互作用を明らかにしようとする問題提起。大略この3つの視点から方法上の試みが行われた。2.ネットワークの態様。さまざまな研究が行われたが、特に成果があったのは、系譜の比較史的研究であった。系譜に記録された親族ネットワークをめぐって、系譜編纂の主体、系譜の虚構性、記録形式の変化の歴史的意味、親族組織が系譜作成に先立つのか、その逆か、等々の視角から活発な討論があった。この成果は論文集『系譜の比較史』として近く刊行する予定である。3.文化表象の生産。オスマントルコやインドに見られる言語世界の多元的構造が、文化表象の生産にどのような意味をもったか。近代のアジアにおいて文化生産の基本的な制度的枠組みをなしていた検閲制度の実態はいかなるものであったか。また、デザインのような商品化された文化生産は、アジアではどのような歴史をもつのか等の問題に関する研究が行われた。検閲に関する成果は『東洋文化』86号の特集「日本の植民地支配と検閲体制」として既に刊行した。4.画像と文献の研究の結合。テキストに書かれた戯曲の場面を挿絵としてヴィジュアル化するときにいかなる問題が生じるか、等々のテーマに関する新鮮な研究が多数行われた。