著者
熊野 純彦 木村 純二 横山 聡子 古田 徹也 池松 辰男 岡田 安芸子 吉田 真樹 荒谷 大輔 中野 裕考 佐々木 雄大 麻生 博之 岡田 大助 山蔦 真之 朴 倍暎 三重野 清顕 宮村 悠介 頼住 光子 板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、本研究の主要達成課題のうち、「各層(家族・経済・超越)の各思想の内在的理解」を中心とする研究がなされた。近現代日本の共同体論を再検証するにあたっては、2017年度で取り組まれた「和辻共同体論の参照軸化」に加え、家族・経済・超越それぞれの層に関連する思想を巡る形成の背景に対しても、テクストに内在した読解を通じて光を当て直す必要がある。以下、そうした問題意識のもとに取り組まれた、2018年度の関連実績のうち主要なものを列挙する。(1)研究代表者の熊野純彦は、著書『本居宣長』において、近世から現代に至るまでの代表的な思想家たちによる宣長の思想の受容過程を丹念に整理・検証することで、それを近代日本の精神史の一齣として提示することを試みた。それを踏まえたうえで改めて宣長のテクストの読解を行い、今日の時代のなかでその思想の全体像を捉えかえそうとしたところに、本業績の特徴がある。(2)研究分担者宮村悠介は、主に本研究の研究分担者からなる研究会(2018年9月)にて、研究報告「家族は人格ではない 和辻共同体論のコンテクスト」を行い、和辻倫理学の形成過程におけるシェーラーの影響と対話の形跡を、具体的にテクストをあげつつ剔抉した。これは、翌年度の課題である「思想交錯実態の解明」にとってもモデルケースとなる試みである。(3)超越部会では台湾の徐興慶氏(中国文化大学教授)を招聘、大陸朱子学と、幕末から近代に至るまで様々な思想に陰に陽に影響を及ぼしてきた水戸学の影響関係について知見をあおいだ(「「中期水戸学」を如何に読み解くべきか 徳川ミュージアム所蔵の関係資料を視野に」2018年)。これにより、広く東アジアの思想伝統と近世以降現代に至るまでの日本思想の受容・対話の形跡を実証的に検証することの重要性を改めて共有できたことは、本研究の趣旨に照らしても重要な意義を持つと思われる。
著者
板東 洋介
出版者
岩波書店
雑誌
思想 (ISSN:03862755)
巻号頁・発行日
no.1112, pp.30-50, 2016-12
著者
板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

三年間の研究の最終年度となる本年度は、(I)これまでで得られた国学の情念論の総まとめ、および(II)その近・現代日本への射程を探ることの二点を軸として研究が進められた。その中心的な成果は、論文「悲泣する人間-賀茂真淵の人間観-」(『倫理学年報』61集)にまとめられ、査読を経て公表された。本論文は国学四大人の一人・賀茂真淵の生涯と著作のうえで反復される死者への悲泣の情念の構造を明らかにした上で、その死者への悲泣を人間の基底的リアリティーとする思想が、人倫・国家・市場といった生者の共同体における効用を至上価値とする近世および近代の通念に対する根本的な反措定となっていることを明らかにしたものである。本論文は前半の思想史的な理解のみでなく、後半のアクチュアリティーの探究についても高い評価を受け、本年度の達成目標である上記の(I)・(II)の両方を達成する、本年度の中心的な業績であると位置づけることができる。また一般向けに日本思想史の最新の知見を提供する雑誌『季刊日本思想史』の『源氏物語』特集号に、「『源氏物語』享受の論理と倫理」を、巻頭論文として発表した。本雑誌は本年度中での出版には至らなかったが、平成24年6月発売を期して校正作業に入っており、すでに一般広告としても告知されている。本居宣長の「もののあはれ」がその具体的文拠を『源氏物語』にもつように、国学の情念論にとって『源氏物語』は大きな思想源泉である。本研究でも国学情念論解明のための予備部門としてその研究を予定し、実際に研究を進めていたが、最終年度になってその研究成果を広汎な読者をもつ雑誌に公表しえたことは、本研究の進展および一般へのその意義の周知という点で、大きな意義をもつものである。以上二点の論文を中心業績とする本年度の研究は、研究全体の総括と、一般へのその意義の提示という両面において、着実な成果を挙げたと判断できる。