著者
春名 匡史 板野 哲也 立花 孝 田中 洋 信原 克哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】Wind-up期である,踏み出し脚の膝が最も高く挙がった時点(以下KHP:Knee Highest Position)における体幹アライメントや身体重心位置が,early cocking期である踏み出し脚接地時(以下FP:Foot Plant)に影響を及ぼすといった報告が散見される。しかし,この点を定量的に検討した報告はほとんど見当たらない。そこで今回,KHPにおける体幹アライメント・身体重心位置が,FPの体幹アライメントに実際に影響を与えるか否かを定量的に検討した為報告する。【方法】対象は,踏み出し脚の膝を軸脚側の上前腸骨棘より挙上して投球を行った様々な競技レベルの野球選手55名とした(年齢9-30歳)。左投手は右投手に変換して分析を行った(以下左右は右投手を想定して記載する)。KHPにおける上半身重心位置,骨盤左回旋・後傾角度,体幹伸展・右側屈角度の5つの変数群と,FPの骨盤左回旋角度,体幹伸展・右側屈角度の3つの変数群に対し,正準相関分析を行った。なお,重心位置と体幹・骨盤角度では単位が異なる為,変数は標準化を行った。上半身重心位置は合成重心法により算出した点の,水平面上における軸脚足部長軸方向の位置を,つま先方向を正として求め,軸脚足部長軸の長さで規格化した。骨盤運動はカメラ座標系に対する骨盤座標系の回転を,体幹運動は骨盤座標系に対する胸部座標系の回転をそれぞれオイラー角で表現した。有意水準は5%とした。【結果】正準相関分析の結果,第1正準変量では,正準相関係数がr=0.656(p=0.002)で,正準負荷量は,KHPの変数群では上半身重心=-0.017,骨盤左回旋=0.518,骨盤後傾=-0.915,体幹伸展=0.963,体幹右側屈=0.007であり,FPの変数群では骨盤左回旋=0.072,体幹伸展=0.914,体幹右側屈=-0.268であった。KHPの体幹屈曲伸展,骨盤前後傾,骨盤回旋,上半身重心,体幹側屈の順に,FPにおける体幹伸展への影響度が高かった。第2正準変量以下は正準相関係数が有意でなかった。【結論】本検討の結果より,KHPにおいて体幹がより伸展位,骨盤がより前傾位であると,FPの体幹伸展が大きくなると考えられた。しかし,有意な正準相関係数が認められ,正準負荷量が高値であったものは,FPの変数群では体幹伸展のみであった。FPでの不良動作として頻繁に述べられる,「体の開き」を表すと考えられるFP骨盤左回旋等は,KHPによる有意な影響はみられなかった。つまり,KHPによるFPへの影響は,定量的には限定的であった。この為,実際の臨床において,KHPの影響によりFPの不良な体幹アライメントが生じていると考える時は,慎重な検討が必要である。
著者
吉田 道弘 奥村 文浩 板野 哲 物江 孝司 松波 加代子 稲垣 佑祐 藤田 恭明 望月 寿人 小川 観人 高田 博樹 祖父江 聡 妹尾 恭司 伊藤 和幸
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.512-519, 2008-11-25
参考文献数
17

症例は71歳,C型肝硬変の男性.近医にて肝腫瘍を指摘され,平成17年4月当院紹介受診し,肝細胞癌治療目的で入院となった.肝機能は,Liver damage B, Child-Pugh Grade B(7点).肝両葉に多発する肝細胞癌で,進行度はStage III,転位右肝動脈を有する症例であった.4月,7月に計2回chemolipiodolizationを行なったが,肝癌はさらに増大した.そこで,10月17日に大動脈留置型特殊リザーバーシステム(System-I)を留置し,左右肝動脈に1週間毎交互にlow dose FP療法(LFP)を計4クール施行した.退院後は外来でLFPを4クール施行した.その結果,腫瘍マーカーは,AFPは2,479.9 ng/m<i>l</i>から5.6 ng/m<i>l</i>, PIVKA IIは7,979 MAU/m<i>l</i>から25 MAU/m<i>l</i>と著明な改善を認め,画像上多発肝癌は消失し,CRが得られた.<br> 転位肝動脈を有する症例に対する肝動注化学療法を行う際には,血流改変による一本化が必要となる.しかしながら肝細胞癌の場合,血流改変を行うと,肝動注化学療法で治療効果が得られない癌病変に対し,肝動脈化学塞栓術(TACE)が困難となってしまうことも少なくない.System-Iは,血流改変を行わず,既存の血管を温存して肝動注化学療法を行うことができる有用なシステムであると考えられた.<br>