著者
大槻 涼 村上 優香 小林 護
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>概要</b></p><p></p><p> 駒澤大学マップアーカイブズは、駒澤大学が所蔵する地図資料の周知、保存、活用を目的として、2004年に始まった、学生主体のプロジェクトである。設立から10年以上経過した現在も、新規地図資料の収集と整理作業を継続している。学生が主体であることと、現在も整理作業が続いていることの2点は他に例のないプロジェクトである。これまでに成果として2冊の目録、『駒澤大学所蔵外邦図目録』(2011)と『駒澤大学所蔵外邦図目録 第2版』(2015)を刊行した。刊行以降も駒澤大学の学内から外邦図を含む新たな地図資料の受け入れを行い、整理作業と目録編纂作業を行なっている。次期地図目録編纂にあたり現状を報告する。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>外邦図とは</b></p><p></p><p> 明治期から第二次世界大戦終戦まで、旧日本陸軍参謀本部・陸地測量部が作成した、日本領土以外の地域の地図である。駒澤大学には、多田文男教授(1966〜1977)より寄贈された外邦図を中心としたコレクションが所蔵されている。『駒澤大学所蔵外邦図目録 第2版』時点で、収蔵されている地域は、樺太千島126枚、朝鮮1277枚、台湾97枚、中国3196枚、インド1293枚、東南アジア1641枚、オセアニア地域188枚、アメリカ国内111枚、ヨーロッパ34枚、海図947枚など、地域としては中国が多い傾向にある。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>新規受け入れ資料</b></p><p></p><p> 駒澤大学外邦図目録 第2版の刊行(2016年)以降、新たに図書館と駒澤大学地理学科から新しく地図資料を受け入れた。この中には前述の外邦図ばかりではなく、国内を対象地域とした旧版地形図や、海図、兵要地誌、航空図のほか、関東大震災発生時の消失地域図といった主題図、海外の旅行図も含まれる。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>新規受け入れ資料の概要</b></p><p>駒澤大学図書館から地理学科地図室へ移管:454枚(航空図7枚含む外邦図のほか、日本国内の主題図や中国の地質図などが含まれる。) 地理学科所蔵の旧版地形図:2234枚 駒澤大学外邦図目録に未収録資料:204枚</p><p>外邦図22枚</p><p></p><p>海外の領域の海図10枚</p><p></p><p>旧版地形図23枚</p><p></p><p>米軍作成都市計画図18枚</p><p></p><p>駒澤大学 地理学教室からの受け入れ資料</p><p></p><p>高木正博名誉教授から 79枚</p><p></p><p>橋詰直道教授から 401枚</p><p></p><p>(千葉県内の二万分の一正式図と全国の五万分の一の地形図など)</p><p></p><p></p><p></p><p><b>学生主体の地図整理作業の意義</b></p><p></p><p> 駒澤大学マップアーカイブズの活動の特徴として、学生主体であることが挙げられる。作業方針や資料の収集、日々の整理作業は、課外活動として学生自身の自主的な活動で行われている。確かに目録の完成だけを目指すのであれば業者やアルバイトに依頼する方が短時間で完了することが期待できる。しかし、学生が時間をかけ、一枚一枚地図を読み取ってリスト化する作業の過程では作製年代や目的、作製方法、用途も様々な地図を直接読み取る経験を得ることができると考えられる。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>駒澤大学マップアーカイブズの活動</b></p><p></p><p> 現在、学部生17名(1年生1名、2年生5名、3年生2名、4年生9名)、大学院生1名が週1回(90分)集まり整理作業を行なっている。未整理の地図資料については駒澤大学での整理番号(駒大番号)を付け、図幅名、縮尺、経緯度、製作者などを読み取りリスト化している。すでにリスト化が完了している地図は地域ごとやコレクションごとに分類し整理を続けている。また、受け入れた地図資料のうち、未整理のコレクションは地図ケースに納め管理している。</p><p></p><p> また、駒澤大学学園祭「オータムフェスティバル」や駒澤大学禅文化博物館での企画展示、地理学科の授業への資料提供を実施している。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>今後の展望</b></p><p> これまでの外邦図、海図ばかりではなく、多くの地図資料を盛り込んだ、第3版の目録編纂作業を実施している。また、作製されてから70年以上が経過した地図も多く、退色や劣化、破損が目立つ資料も多い。今後はこうした地図の修復や管理も行う予定である。</p>
著者
小林 護
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>伝統的建造物群保存地区(以下、伝建地区)とは、1975年の文化財保護法改正によって生まれた町並み保存を目的とした制度である。翌1976年に指定が始まり、2018年4月1日現在43道府県97市町村117地区が指定された。伝建地区制度とそれまでの町並み保存の取り組みとの違いは、建造物の群体である町並みを丸ごと一体として保存するべき文化財して定義した点と国からの指定ではなく市町村からの選定であるという点にある。伝建地区を扱ったこれまでの多くの研究は、対象地域を一つに絞った個別分析であり、さらにいずれの研究においても、伝統的町並みの保存活動が行われるようになった1970年代以後の事象を扱っている。このことは、対象となる地域の歴史や伝建地区が保存の必要が語られるようにになる以前の状況から現在までの経年変化や、周辺の関係性についても考察されていない。そこで発表者は、伝建地区を見る上では、その地区がなぜ残存したのかについて地区がもつ地理的要素から伝建地区を理解する必要があるのではないかと考えた。つまり、伝建地区は単独で存在するのではなく、地域の歴史や都市化の影響を受けながら残存してきたと考える。よって特に市街地内伝建地区と、その周囲地域も含めたフィールド調査と文献調査から、近代化した市街地の中にあって古い町並みを残すこととなった要因を考察することが重要であると考える。本研究は市街地内に立地する伝建地区(以下、市街地内伝建地区)の成立とその残存要因(市街地内において伝統的な街並みが残存するに至った要因)を地域の地理的特性を複合的に分析することで明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p>調査・解析の結果。以下のことが明らかになった。市街地内伝建地区の成立と残存の主要件として3つが考えられる。それは文献資料調査による(1)対象地域の経済力、(2)非戦災・非災害、GIS解析によって明らかになった(3)対象地域を含む周辺地域の中心市街地の移動。</p><p></p><p>(1)経済力:市街地内伝建地区の多くは、「小江戸」と呼ばれ栄えた川越市川越地区などの商業物流の中心地として経済的に発展した町であったことがあげられ、他の武家町や寺町もまた特権的な立場の町として経済的に富が集積した地域であったと言える。</p><p></p><p>(2)非災害・非戦災:残存要因としては震災や大火といった偶発的な自然災害を免れたことや戦災による被害を被らなかったことがあげられる。現在残存する市街地内伝建地区とはこういった諸要因が重なった場所であると考えられる。</p><p></p><p>(3)中心地の移動:伝建地区が鉄道の敷設と駅の建設に伴い都市の中心地が移動し、結果として遺存的に残った町が含まれることを指摘できる。この例として、かつては港湾都市として栄えた倉敷市倉敷川畔地区があげられる。明治期以降、交通の主役は街道から鉄道へ短期間に交代した。それに伴い中心市街地がこれまでの街道沿いから鉄道駅前に移動たことにより、旧街道沿いの伝建地区を含む中心市街地は衰退し、鉄道駅周辺の新たな中心市街地が都市の中心となり発達した。結果として古い町並みを残す旧中心市街地が新しい中心市街地に隣接または内包される形で残されたといえる。</p>
著者
小林 護 村上 優香 大槻 涼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.151, 2020 (Released:2020-03-30)

外邦図とは、明治以降第二次世界大戦終戦まで、旧日本軍参謀本部・陸地測量部などが作成した、日本領土以外の地域の地図である。外邦図の多くは軍事用に制作されたため、実情は秘密にされてきた。また、大戦末期のひっ迫した状況や終戦時の混乱によって多くの資料が消失したため全体として何種類、何枚作られてきたかというようなデータは残っていない。また日本の敗戦直後、連合軍が進駐してくる前に多くの外邦図が焼却された(塚田・富澤2005)。 戦後70年以上が経過し、現在の景観と比較すれば、環境や土地利用、都市域など様々な変化を長期的な視点で読み取ることができると考えられる。 駒澤大学には9481枚の陸図外邦図が所蔵されている。しかし、これまでは一覧形式の目録しか作成していなかったため所蔵地図の分布や網羅状態の直感的な把握は難しかった。また、外邦図と現代では地名が大きく異なる地域が多いため、必要な地図を探すには緯度経度の数字から探すほかなかったため活用するのに多大な労力がかかっていた。そこで、目録に掲載されている図郭範囲の緯度経度データを基にインデックスマップを作成した。駒澤大学以前には岐阜図書館によるものや、それを元に発展させた東北大学附属図書館/理学部地理学教室による外邦図デジタルアーカイブ内で公開されているインデックスマップが知られている。 インデックスマップの作成にはGISソフトであるArcGIS10.7.1(ESRI)を使用した。駒澤マップアーカイブズ(2015)の各図幅の緯度経度情報を基に四端のポイントを自動処理で作成し、ArcGISの追加ツールである「ジオメトリ変換ツール」を用いてその4ポイントをつなぐ四角形のポリゴンを作成した。外邦図の中には陸地測量部が一から作成したものの他に占領時に現地で徴用しそのまま複製したものも多く含まれる。それらの地図には本初子午線を一般的な英グリニッジではなく独自の子午線を用いているものがある。それらはいずれも英グリニッジを基準とした経度に補正して用いた。また、測地系はWGS84を用いた。戦前に作られた外邦図は当然WGS84ではなくベッセル楕円体などの旧来の測地系を採用しているため多少の誤差が予想される。(1)所蔵外邦図の分布や傾向が明らかになり、面的把握が容易になったことによって従来の目録ではわかっていなかった様々な事実が後述のように明らかになった。(2)ESRI社が提供するベースマップと重ね合わせたところ予想の通り数100mの誤差が確認できた。これは前述の通り測地系の違いによるものと、当時の未熟な測量技術による測量誤差が複合して発生したものと考えられる。 駒澤大学の外邦図コレクションは東北大学らのコレクションと比較すると不完全なものであることは経験則で把握されていたが、地図の形になったことによりはっきりとわかるようになった。 従来全図幅がほぼそろっていると考えられていた地域についても実際には相当量の歯抜けがあることが判明した。 駒澤大学が所蔵する外邦図の中には緯度経度の情報がないものも一定数存在している。座標がない地図はGISを用いた処理でインデックスマップを作成できないため今後、手作業での同定が必要となる。 また、目録作成時の入力ミスと考えられる不自然な形状の地図も幾分か発見された。従来は目視による確認のみとなっていた目録記載情報の新たな確認方法としての活用も期待できる。