著者
林紀 代美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.472-483, 2003-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
3 4

本稿では,中国におけるトラフグ養殖と輸出,および日本市場の対応を考察する.その成果を,フグ流通,水産物流通の空間構造を検討する一助とする.中国の養殖業者は,高収益を得るため,高級魚であるトラフグの養殖に着手した.日本との立地条件などの違いから,異なる養殖手法が開発され,日本より低密度で大量の生産が行われている.今後は,生産拡大により生じる供給過剰への対策が必要で,中国国内でのフグ食自由化,市場形成が望まれる.今日の日本のトラフグ流通は,低価格の中国産フグが新たな構成要素として加わり,集荷地域が海外へも拡大するとともに,フグ利用・消費層が広がった.調理・提供の都合から生産するフグのサイズの目標が決まるなど,販売・消費のニーズが,流通の構造や構成要素とその活動,要素間の相互関係を規定する大きな要因となっている.また,中間魚輸入や,市場卸売業者によるフグ食文化の紹介や中間魚取引の仲介も確認された.
著者
林紀 代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.491-511, 2001-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究は,下関漁港・商港において,水産物流通の空間構造を解明することを目的とする.この際水産物輸入取扱を含めて,特に集出荷活動に注目して生産から消費の空間全体を検討する.下関漁港は1970年代以降水揚が減少し,漁港市場の集荷では搬入物が増加した.買受人の活動は周辺地域への分荷供給を行う「地廻り」に中心が移った.集出荷地域は周辺地域を中心にほぼ関東以西に広がる.下関商港では,東アジアを中心に貝類やフグなど特色ある輸入水産物を扱う.中継輸送を介して全国出荷する.活動で中心的役割を果たすのは水産物輸入業者である.しかし結節点に関係業者が集積する漁港の集出荷活動の場合と異なり,彼らは必ずしも下関に所在せず,下関の業者に業務を委託する場合もある.両港の活動は一部相互関係を持っが,両港に関わる流通展開は独立している.下関は特徴の異なる港湾,活動空間を並存する水産物流通の空間構造を形成せざるを得ない.