著者
柳井 浩
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.249-281, 1982-09

我国の医療保険制度に於ける薬価基準の改訂法は、今期の実勢取引価格分布の90%点を以って、次期の薬価基準とする、いわゆる90%バルク・ライン法を中心としている。筆者らはすでに、薬価基準の推移を記述する数学モデルーうまみ巾ーモデルーを提起したが、本研究はこれを基礎として、さらに、2薬業者間の入札競争によって、納入価格が定まるモデルを構成し、一連のシミュレーションを行なって、その結果を検討したものである。すなわち、2薬業者は各々自社内で、はり値の下限ー限度価ーを設定し、薬価基準を上限として、この区間である分布にしたがってはり値を定め、これを医家に提示する。これに対し医家は、薬価基準とはり値の差額ーつまり医家の利益ーを2薬業者について比較し、その大なる方を購入するというモデルである。このモデルによって、180通りの条件の組合わせの各々について、5期間にわたって、薬価基準、市場占有率、粗利益等々を追跡した。特に、薬業者にとって、最も関心があるものと思われる、粗利益の累計に対して、各々の初期のうまみ巾(=初期薬価基準-(原価+流通経費))や限度価が、どのような影響を与えるかを、シミュレーションの結果から調べ、これを中心に薬業者が、営利企業として、どのような行動をとるのかについて推論を展開した。また、初期うまみ巾で不利な立場に立ったものが、値下げによって利益をふやそうとする行動の効果についても検討した。