著者
鳩山 由紀夫
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.106-122, 1979-06

本論文はDerman(1963)によって導入されたマルコフ型劣化を伴なう機械の保全問題の拡張である。拡張は系が閉じたループをなしていること、取替でなく修理問題であること、及び複数の修理施設をもつことに見られる。即ち、系は、有限個の劣化の状態をもち劣化の進行がマルコフ鎖で記述される単一の稼動機械と、同一機能をもつ有限個の予備機械、及び修理の種類毎に異なる複数の修理施設とからなる。各時点において、稼動機械を修理すべきか否かを決定することが問題となるが、その決定の際に、稼動機械の劣化の程度、修理がなされるときに要求される修理の種類、更に各修理施設で修理中の機械の数が情報として与えられる。修理がなされるときには、機械は修理の種類に対応した修理施設に直わに送られ、修理が開始され、同時に予備機械の一つが新たに稼動を開始する。修理時間は修理施設に依存する幾何分布に従うものとし、修理後は新晶同様の状態に戻ると仮定する。予備機械の用意が間に合わないときには、一つの機械の修理が終了する迄稼動は休止せざるを得ず、この間ペナルティが課せられる。その他のコストとしては、作動費用、材料費及び労賃を考慮している。以上のモデルを設定し、割引率を考慮した総期待費用、乃至は平均期待費用を最小とする最適保全政策が如何なる形となるかを考察する。ここで、修理の種類を固定したとき、稼動機械の劣化がある限界を越えたときのみ修理を施し、又稼動機械の劣化の状態を固定したとき、修理の種類がある限界を越えないときのみ修理を施すという二次元のコントロールリミットポリシーを提案し、緩やかな条件の下で最適政策がこの形となることを示す。次にコスト等を一般化し、更に保全員が各修理施設に一人づつの場合にも同様の議論がなされることを確認し、最後に解法に触れている。
著者
田口 東
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.85-108, 2005-12
参考文献数
9
被引用文献数
8

本論文では, 東京首都圏の電車を利用する通勤通学客を対象として, 利用者均衡に基づいて, 出発駅から到着駅への交通需要をほぼ時刻表の通りに運行される電車に配分するモデルを提案する.乗客は朝の定期券利用者のうち約700万人を対象とし, 電車はJR線私鉄線合計128路線の始発電車から午前10時台に終着駅に到着する通勤電車のほとんど(約7500本)を対象とする.電車のダイヤおよび交通需要が時間依存である場合を扱うために, 電車の時刻表を基に, 各駅における各電車の発着をそれぞれ頂点で表し, 駅間の電車の運行を頂点間の枝で表してネットワークを作成する.これによって, 確定した離散的な時間の経過を頂点間の移動で表すことができるので, 電車ネットワーク上の移動を計算する問題を静的な利用者均衡配分問題として定式化することが可能となる.そして, 2000年に行われた大都市交通センサスデータからOD交通需要を求めて利用者均衡配分を計算し, 同じセンサスに記録された実際の乗客の移動と比較して計算結果の妥当性を確かめる.その上で, 応用問題として時差出勤による混雑緩和の可能性を調べること, 南北線全線開通にともなう乗客数変化の予測を行って実際の利用数と比較することを行う.ここで提案した手法によって, 首都圏のような広い範囲の公共交通機関を利用する移動に対して, 詳細な検討を行うことができるひとつのツールが得られたと考えている.
著者
HATOYAMA YUKIO
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.164-181, 1977
被引用文献数
3

Discrete time Markov maintenance models are coupled with the theory of control of queues. Each system has an operating machine, spare machines and a repair facility. A decision maker has the option of opening or closing the repair shop when there are machines waiting for repair service, as well as the option of repairing or leaving an operating machine. A two-dimensional control limit policy is defined, and sufficient conditions for the optimality of a two-dimensional control limit policy are obtained for each model.
著者
Masato Koda Hiroyuki Okano
出版者
The Operations Research Society of Japan
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.469-485, 2000 (Released:2017-06-27)
参考文献数
17
被引用文献数
4 4

A new stochastic learning algorithm using Gaussian white noise sequence, referred to as Subconscious Noise Reaction (SNR), is proposed for a class of discrete-time neural networks with time-dependent connection weights. Unlike the back-propagation-through-time (BTT) algorithm, SNR does not require the synchronous transmission of information backward along connection weights, while it uses only ubiquitous noise and local signals, which are correlated against a single performance functional, to achieve simple sequential (chronologically ordered) updating of connection weights. The algorithm is derived and analyzed on the basis of a functional derivative formulation of the gradient descent method in conjunction with stochastic sensitivity analysis techniques using the variational approach.
著者
鳩山 由紀夫
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.224-242, 1980-09

確率的に故障する機械の取替問題は従来盛んに研究されているが、この論文では、取替時に故障部品の下取りが行なわれ、又交換部品をいくつかの種類の中から選択出来る場合に如何に取替部品の選択を行なうべきかを考察する。具体的には次の問題を考える。あるシステムと、そのシステムに欠くことの出来ない一部品を取り上げる。システムはある有限時間丁動作することを要求される。部品の故障はシステムの故障を導くので、残り時間t(t > 0)で部品が故障した場合、直ちに新都晶と取替えなければならない。ここで部品にはタイプがn種類存在し、どのタイプの部品に取替えるかが問題となる。簡単化の為に、各タイプの部品の故障は指数分布に従うものとする。この仮定は実際の故障分布の第一近似と見傲されよう。取替費用としては、タイプiの部品をjの部品に取替えるときC(i、j)かかるとする。部品の故障時に新部品を購入して取替を行なうが、購入時に故障部品を下取りするケースはしばしば存在する。このような場合、取替費用は新部品の購入費のみでなく、故障部品にも依存する。この設定の下で、期待費用を最小とする取替方式を決定したい。実例としては、車のタイヤやバッテリー等を取替える際の製品の選択とか、ステレオコンポネントのプレーヤー等を交換する際の製品の選択問題などを頭に描くと良いと思われる。一般の取替費用の場合に、いくつか解の性質が得られるが、特に劣モジュラー関数で与えられるとき、以下の性質が導かれる。残りt時間でタイプi(j)の部品が故障したとき、タイプi*(j*)が最適な取替部品であるとすると、i < jならばi* < j*となる。これは最適政策を計算する際に利用される。なお、劣モジュラー関数の仮定は、下取り価格が2部品問の互換性などで表わされる場合にはかなり妥当と思われる。その他、販売戦略等に依り全てのタイプが下取り可能とは限らない場合についても同様な議論がなされる。下取り価格が故障部品のタイプのみによって決定される場合には、最適な取替部品のタイプは故障部品に依存しない。更に、最適取替費用は残り時間tに関して区分的に線形な凹関数となることが示され、実際、陽に最適取替政策及び費用が導かれる。最後に、考察すべき部品が唯一つとは限らないケースを扱う。それらが直列、並列、直並列等につながっている場合、多くは単一部品の問題に帰着されることを示す。
著者
Naoya Uematsu Shunji Umetani Yoshinobu Kawahara
出版者
The Operations Research Society of Japan
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.41-59, 2020-04-30 (Released:2020-05-01)
参考文献数
28

The submodular function maximization is an attractive optimization model that appears in many real applications. Although a variety of greedy algorithms quickly find good feasible solutions for many instances while guaranteeing (1−1/e)-approximation ratio, we still encounter many real applications that ask optimal or better solutions within reasonable computation time. In this paper, we present an efficient branch-and-cut algorithm for the non-decreasing submodular function maximization problem based on its binary integer programming (BIP) formulation with an exponential number of constraints. Nemhauser and Wolsey developed an exact algorithm called the constraint generation algorithm that starts from a reduced BIP problem with a small subset of constraints and repeats solving a reduced BIP problem while adding a new constraint at each iteration. However, their algorithm is still computationally expensive due to many reduced BIP problems to be solved. To overcome this, we propose an improved constraint generation algorithm to add a promising set of constraints at each iteration. We incorporate it into a branch-and-cut algorithm to attain good upper bounds while solving a smaller number of reduced BIP problems. According to computational results for well-known benchmark instances, our algorithm achieves better performance than the state-of-the-art exact algorithms.
著者
中桐 裕子 栗田 治
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.83-105, 2004-12

本研究では, ある商品やファッション, その他の嗜好が一瞬にして人々の間に広まり, その後短期間のうちに忘れ去られてしまうといった社会的なブームに着目し, この現象をモデル化して解析する.ある特定のブームに参加する顧客の状態を「ブーム前」, 「ブーム」, 「ブーム後」, 「定着」の4つに分割した上で, 状態を変化させる顧客の数が直前の状態にある顧客数に比例すると仮定して線形微分方程式モデルを作成し, ブーム前後の定着顧客数比やブームのピーク時刻など諸特性値を算出した.このモデルは, 我が国における「即席めん消費ブーム」, 「焼酎ブーム」や「サッカーブーム」時の実データを説明するのに有効であると結論付けられ, モデルによってブーム特性の地域差やブームによる定着顧客数の増加について定量的に説明することができた.本研究で提案したモデルは非常に簡便・単純であり, モデル拡張による適用範囲の拡大などが望める.
著者
Tomoyuki Iori Toshiyuki Ohtsuka
出版者
The Operations Research Society of Japan
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.114-133, 2020-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
20

This paper proposes a necessary optimality condition derived by a limit operation in projective space for optimization problems of polynomial functions with constraints given as polynomial equations. The proposed condition is more general than the Karush-Kuhn-Tucker (KKT) conditions in the sense that no constraint qualification is required, which means the condition can be viewed as a necessary optimality condition for every minimizer. First, a sequential optimality condition for every minimizer is introduced on the basis of the quadratic penalty function method. To perform a limit operation in the sequential optimality condition, we next introduce the concept of projective space, which can be regarded as a union of Euclidian space and its points at infinity. Through the projective space, the limit operation can be reduced to computing a point of the tangent cone at the origin. Mathematical tools from algebraic geometry were used to compute the set of equations satisfied by all points in the tangent cone, and thus by all minimizers. Examples are provided to clarify the methodology and to demonstrate cases where some local minimizers do not satisfy the KKT conditions.
著者
中桐 裕子 栗田 治
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.44-63, 2002-03
参考文献数
10

本研究は,従来のモデルでは追従しきれない成長現象を記述するモデルとして,階層構造を有する成長現象の微分方程式モデルを取り上げ,考察を加えるものである.ある種の成長現象は,η種の性質を順番に取得するといった「階層的な」構造を持っている.そこで本研究では,ある段階の性質を身に付ける個体数の成長速度が,その段階および直前の段階の性質を入手している個体数に依存するという仮定を設けて,『段階的成長微分方程式モデル』を作成した.同様の仮定から,宅地化を経て市街化面積が広がる様子を上手く記述するモデル等が提案されているが,本研究では,従来の研究にはなかった多段階成長の連立微分方程式に着目して,これに一般解を与える.モデルの適用例としては,特にゲーム機の売上データを取り上げた.ハード購入希望者→ハード購入者→ソフト購入者といった階層的な構造を定式化したモデルを実データに当てはめた結果,発売直後のハード売上を再現するには,段階的成長モデルが有効であることが確認できた.更にこのモデルを応用して,値下げキャンペーンによる売上増を記述できる簡便なモデルを作成することに成功した.過去の分析例や今回の研究成果より,ゲーム機売上の記述に留まらず,他の社会現象の中にも,このモデルによる記述が有効な局面も存在するのではないかと考えられる.
著者
片岡 達 茨木 俊秀
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.71-93, 2008-12
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

大学の卒業研究などで,学生をどの研究室に配属させるかを決定する問題が生じる.学生や研究室にはそれぞれ配属関係を構築したいと考える相手がいるが,様々な理由により研究室の配属人数は限られるため,全員の第1希望が実現するとは限らない.本論文では,学生と研究室双方の希望を考慮し,合理的に配属先を決定する方法について論じる.本方式では,まず学生側の希望を反映させた研究室の定員を定めた上で,学生と研究室の双方の希望を考慮した合理的な配属を実現させる.具体的には,安定結婚問題の概念を一般化させ,本問題に適した配属の安定性を定義し,明示された半順序と暗黙の全順序という2つの概念を定めた上で,合理的配属を得る手法を提案する.さらに,この手法の計算量の解析および計算実験による確認を行う.
著者
Keisuke Sato Yoshitsugu Yamamoto
出版者
The Operations Research Society of Japan
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.112-130, 2009 (Released:2017-06-27)
参考文献数
12

This paper presents a study on the recently proposed linear inequality representation of Arrovian Social Welfare Functions (ASWFs). We correct and show several sufficient conditions on preference domains for the linear inequalities of the representation to form integral polytopes. We also show that a given probabilistic ASWF induces a real vector satisfying the inequalities.
著者
YUKIO HATOYAMA
出版者
The Operations Research Society of Japan
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.164-181, 1977 (Released:2017-06-27)
被引用文献数
2 3

Discrete time Markov maintenance models are coupled with the theory of control of queues. Each system has an operating machine, spare machines and a repair facility. A decision maker has the option of opening or closing the repair shop when there are machines waiting for repair service, as well as the option of repairing or leaving an operating machine. A two-dimensional control limit policy is defined, and sufficient conditions for the optimality of a two-dimensional control limit policy are obtained for each model.
著者
福田 恵美子 脇田 祐一朗
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.38-55, 2009-12
被引用文献数
2

本論文では,2008年現在形成されている自公連立政権の振る舞いを,提携構造を考慮した投票力指数(CS値)(G.Owen,1977)とそれを指標とした提携形成ゲーム(Hart-Kurz,1983)を用いて考察する.本研究では,二院制における衆議院の優越を考慮し,再審議での投票力指数に対する割引因子が0.3167以上であれば自公連立が提携形成ゲームにおいて安定であることを示した.また,他の安定な連立の考察を通じて,公明党が自公連立を堅持する誘因があるという知見を得た.さらに,2005年の郵政民営化法案を巡る衆議院解散についても同様の分析を行い,当時,特定の法案の成立を目指しており,かつ再審議での投票力指数が大きくなかったことが,解散に踏み切った要因である可能性を示した.
著者
プレマチャンドラ I.M 森村 英典
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.112-133, 1985-06

小切手現金化窓口で、平均50分にも及ぶ長い待ちが生じている。この銀行では、到着客はcashierのところで小切手を差出すと、番号札を渡されて待つ。cashierは何人かの客の差出した小切手の内容をscroll bookに書込むとそれをofficerに小切手とともに渡す。(step1) officerは小切手の正当性(預金残高が確かにあること等)を調べた後、支払承認のサインをscroll bookに記入する。(step2) bookに記入された小切手全部に対する承認が終ると、bookは再びcashierに戻され、番号札と引替に現金が支払われる。(step3) 通常scroll bookは複数なので、step2の作業が行なわれている間、step1の作業は、次の客の集団に対して、別のbookを利用して実行され、officerから処理済のbookが戻された時点で中断して、そのbookをstep2に廻し、cashierはstep3の作業にとりかかる。このように、この待ち行列システムは、step2のサービス終了によってstep1のサービス時間が規定され、それが集団の大きさを定め、次のサービス時間に影響する、という形で進行するのでかなり複雑であり、正面から確率論的取扱いをすることは難かしい。たまたま、長い待ちを生んでいる現状なので、流体近似モデルを作って解析を試みた。現実の挙動をできるだけ追うような形でシミュレーションモデルも作り、その結果と流体モデルからの結果とを比較すると、少なくとも現状程度の待ちのあるときは、かなり良く合う。そこで、流体モデルによって、待ちを減少させるために、一度にbookに書込む客の数をどのようにするのがよいかを考え、野放図にその数を増やさず一定に押さえる方がかえって良い結果の得られることを示した。また、このモデルは、流体近似の適用可能性を探る一例となると思われたので、サービス時間分布、サービス速度、初期時点における客数等を変えて計算値とシミュレーション値との相対誤差を調べてみた。この結果、初期時点から窓口が空くようなことが起こらない限り、トラヒック密度が1にかなり近くなっても、流体モデルはなお有効であろうとの見通しを得た。
著者
西浦 博
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.20-37, 2009
参考文献数
51

本稿は感染症の検疫期間の決定手法を提案するとともに,検疫による予防効果の考え方の理論的基礎を構築する.感染した可能性のある人に対して通常の生活から一定期間だけ分離あるいは生活行動制限をする検疫は,国内に常在しない感染症の侵入を防ぐボーダーコントロールに欠かせない感染症対策である.これまでに検疫時の医学的検査や法制度に関する議論が行なわれてきたが,具体的な検疫期間の決定手法や特定の検疫期間が与えられたときの流行拡大を防ぐ疫学的効果は詳しく検討されてこなかった.感染症流行の数理モデルを用いて,検疫が感染者侵入を防止する効果を理論的に明らかにする.まず,異なる疫学的指標によって様々な検疫の効果を検疫期間の関数として定義し,それぞれの効果の違いと必要な疫学的情報を明らかにする.これまでの検疫期間は潜伏期間のみを用いて議論されてきたが,感染しても症状を呈さない不顕性感染者を明示的に考慮することによって,より豊富な検疫期間の検討が可能なことを示す.また,様々な検疫の直接的効果を提示するだけでなく,感染者が検疫の網の目を潜り抜けて侵入した場合の流行動態も検疫期間の関数で考えることにより,検疫が侵入先に及ぼす疫学的効果を明らかにする.特に,侵入者によって流行が発生する確率と検疫による流行の遅れをモデル化する.具体的事例として新型インフルエンザを想定した数値計算例を提示し,本稿の手法が様々な感染症の検疫に関する意思決定に役立つことを示す.
著者
三浦 英俊
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.89-105, 2006-12
被引用文献数
1

本研究は,都市間の最短旅行時間に基づく利用者予測人数を指標として,我が国の主要4島(北海道,本州,四国,九州)内の移動に対して新しい空港の立地の効果を予測する.はじめに沖縄を除く46都道府県の県庁所在地最寄駅を都道府県の代表点として,全ての代表地点間の待ち時間を含む最短旅行時間データをソフトウェア「駅すぱあと」を用いて計測する.次に,島嶼地域を除く全国市+東京都特別区代表点を出発・到着ノードとする交通ネットワークモデルを作成する.モデルはノードとして空港,新幹線駅を加えて,リンクは航空路,新幹線,在来線によって構成される.交通ネットワークモデル作成の目的は対象地域の待ち時間を含む最短旅行時間をシミュレートすることにある.このモデルに"もらいうけ"システムと名付けた航空便設定方法を用いて新空港および航空便を追加し,利用者数を見積もる.既存空港間の航空便利用者数をもとに,300kmを超える地域間旅行者数が人口の積におおよそ比例することを利用して新空港の利用者数の推定を行う.さらに1便あたりの平均乗客数から立地候補点の評価を試みる.
著者
山崎 諭 小市 俊悟 鈴木 敦夫
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.31-52, 2013-12

本研究では,災害時に代替経路が確保された道路ネットワークを実現するために,どの道路を改良すればよいかという問題に対して,解決への一つの指針を示す数理モデルを提案する.そのために,まず,代替経路の厳密な定義を与えた.その定義は,災害時における道路寸断に対する耐性と,目的地までの所要時間に着目した定義となっており,それを満たす経路を増加させることで,災害に備えた道路ネットワークの実現を図る.提案する数理モデルにおいて,改良すべき道路は線形計画問題の解として得られる.その線形計画問題は,最短経路問題の感度分析により得られる情報と,最短経路と代替経路の候補となる経路の重複率を用いて定式化される.また,その問題は連続型ナップサック問題へ書き換えることができ,それにより,改良する道路の優先順位も明確になる.具体的な問題例として,(i)愛知県庁と大阪府庁間,(ii)愛知・静岡県主要都市間,および(iii)関東の一部の主要都市間について,既存道路の整備による代替経路の確保を想定した計算機実験を行った.(i)については,平成7年の道路データを用いたところ,平成17年開通の新名神高速道路に類似した経路が得られたが,これは本研究で提案するモデルの有効性を示していると考えられる.(ii)については,平成15年の道路データでは,新たに得られる代替経路は沿岸部を通る経路に限られるが,それに新東名高速道路のデータを加えたところ,浜松・静岡間に新東名高速道路を用いた代替経路を確保することができた.この結果は,本研究で提案するモデルの有効性を示すとともに,新東名高速道路により静岡県の道路ネットワークが危惧される東海地震に対して頑健になったことを示すものと考えられる.(iii)については,災害時に機能する代替経路が得られる一方で,改良予算によっては既存の代替経路が消失することを紹介する.これは,改良予算のみを制限とする提案モデルの問題点とも言え,今後の課題である.
著者
一森 哲男
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.1-14, 2013-12

この論文は議員定数配分問題を扱う.すなわち,人口に比例して議席を配分するテーマを扱う.本論文の目的を具体的に言えば,著者が最近提案した配分方式である緩和除数方式が比例方式であることを証明し,歴史上の五つの議席配分方式(Adams方式,Dean方式,Hill方式,Webster方式,Jefferson方式)との関連性を明らかにすることである.妥当な配分方式はすべて比例方式なので,当然,緩和除数方式も比例方式であるべきである.これら5方式の内,2方式しか緩和除数方式ではないが,5方式全体との関係を俯瞰することは重要である.
著者
末吉 俊幸
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.261-275, 1997-06
被引用文献数
4

本研究の目的は最小絶対値法が現在広く使われている最小二乗法に匹敵しうる種実用性の高い回帰分析手法であることを示すことにある。本論文の前半では、18世紀にさかのぼり、その歴史的考察を行うとともに、最小絶対値法を目標計画法の視点で考察する。後半では、最小絶対値法に関する統計理論とその統計的検定への応用を示した。重要なことは、最小絶対値法も最小二乗法も数理計画法でモデル化され、従来とは違った理論展開と応用可能性が開けることにある。
著者
井山 俊郎
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.237-257, 1981-09

この論文では、一方の工程が複数個の指数作業時間を持つステーションから成る2工程生産ラインを解析する。最初に、このラインを隠れマルコフモデルとして解析し、生産率、平均仕掛品数等を解析する手順が示される。また、双対モデルに対する解析手順も示され、双対モデル間の種々の関係が議論される。この結果、一方の生産ラインの特性はその双対モデルから完全に求められることが明らかとなる。次に、ステーション数の生産率に及ぼす影響を調べるため仮想Buffer容量なる尺度が導入される。この結果、仮想BUffer容量はステーション数の影響を端的に表わすこと、さらにこの仮想Buffer容動機型の漸近線を持ちしかもこの漸近線は仮想Buffer容量を精度よく近似していることが示される。最後に、この仮想Buffer容量の漸近線を求める簡単な手順が示される。