著者
プレマチャンドラ I.M 森村 英典
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.112-133, 1985-06

小切手現金化窓口で、平均50分にも及ぶ長い待ちが生じている。この銀行では、到着客はcashierのところで小切手を差出すと、番号札を渡されて待つ。cashierは何人かの客の差出した小切手の内容をscroll bookに書込むとそれをofficerに小切手とともに渡す。(step1) officerは小切手の正当性(預金残高が確かにあること等)を調べた後、支払承認のサインをscroll bookに記入する。(step2) bookに記入された小切手全部に対する承認が終ると、bookは再びcashierに戻され、番号札と引替に現金が支払われる。(step3) 通常scroll bookは複数なので、step2の作業が行なわれている間、step1の作業は、次の客の集団に対して、別のbookを利用して実行され、officerから処理済のbookが戻された時点で中断して、そのbookをstep2に廻し、cashierはstep3の作業にとりかかる。このように、この待ち行列システムは、step2のサービス終了によってstep1のサービス時間が規定され、それが集団の大きさを定め、次のサービス時間に影響する、という形で進行するのでかなり複雑であり、正面から確率論的取扱いをすることは難かしい。たまたま、長い待ちを生んでいる現状なので、流体近似モデルを作って解析を試みた。現実の挙動をできるだけ追うような形でシミュレーションモデルも作り、その結果と流体モデルからの結果とを比較すると、少なくとも現状程度の待ちのあるときは、かなり良く合う。そこで、流体モデルによって、待ちを減少させるために、一度にbookに書込む客の数をどのようにするのがよいかを考え、野放図にその数を増やさず一定に押さえる方がかえって良い結果の得られることを示した。また、このモデルは、流体近似の適用可能性を探る一例となると思われたので、サービス時間分布、サービス速度、初期時点における客数等を変えて計算値とシミュレーション値との相対誤差を調べてみた。この結果、初期時点から窓口が空くようなことが起こらない限り、トラヒック密度が1にかなり近くなっても、流体モデルはなお有効であろうとの見通しを得た。