著者
柳原 恵
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.55-73, 2012 (Released:2013-11-30)
参考文献数
59

本稿では岩手に「内発」したリブの存在とその思想の内実について、当事者のライフストーリーを中心として考察する。岩手の農村部において性差別への批判的視座を持ち活動してきた人物の一人としてまず、女性達の読書・学習サークル「麗ら舎読書会」を主宰する詩人・小原麗子(1935-)を取り上げ、麗ら舎設立までの経緯をライフストーリーから追う。小原は経済的に自立し、読み書きできる時間と場所を持つことを指す「自活」を目指してきた。小原らの活動の舞台となる麗ら舎は、小原の「自活」が実現できる場として設立された。小原と活動を共にしてきた読書会会員・石川純子(1942-2008)は、民主的な家庭の中にあるジェンダー構造を問題化した。岩手は封建的「家」と近代的「家庭」が並存している地域であり、こうした地域性がリブ思想を醸成する契機ともなった。石川と小原は「家」と「近代家族」の連続性を看破し、共通する問題からの解放を模索していった。石川は女性の身体とセクシャリティをめぐる問題にも取り組んだ。「孕み」と「お産」を通じて自分を東北の「農婦」であると認識し、疎外された〈女〉の経験と身体性を取り戻そうとする。その思想は、都市部のリブとも通じるが、決定的な差異は取り戻す対象として「東北」という場所性が含まれることである。麗ら舎読書会の主軸の一つに、戦没農民兵士とその母を弔う千三忌がある。千三忌は性差別・植民地主義などの複合差別の様相を認識し、それを乗り越えようとする小原の思想を背景として開催されている。以上、小原と石川は〈女〉であることを起点とし、民主的「家庭」が内包する抑圧性を批判し、女の身体性と母性を問い直し、複合差別への抵抗を実践してきた。近代が作り上げてきたジェンダー構造を疑問視し、問い直していく彼女らの思索と活動は岩手におけるリブであると評価できる。
著者
柳原 恵梨 杉本 達哉 佐藤 哲観
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-5, 2022 (Released:2022-01-13)
参考文献数
18

【緒言】悪夢は緩和ケアの臨床において珍しくない症状の一つだが,がん患者における研究は乏しい.今回われわれは,一般的な不眠治療で緩和されない悪夢による苦痛に対し柴胡加竜骨牡蛎湯が有効だった症例を経験した.【症例】82歳,男性.悪性リンパ腫による疼痛,倦怠感と悪夢を伴う不眠を認めた.身体症状はステロイドで改善したが,悪夢と不眠は持続し,一般的な不眠治療には不応であった.柴胡加竜骨牡蛎湯を投与したところ速やかに悪夢と不眠が改善した.【考察】柴胡加竜骨牡蛎湯は,他の睡眠剤や抗不安薬などに比べて有害事象の懸念が少なく,がん患者の悪夢の治療に安全かつ有効に使用できる可能性がある.【結語】柴胡加竜骨牡蛎湯が進行がん患者の悪夢を改善した.
著者
柳原 恵
出版者
日本オーラル・ヒストリー学会
雑誌
日本オーラル・ヒストリー研究 (ISSN:18823033)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-119, 2014-09-06 (Released:2018-12-10)

This paper focuses on the anniversary of the death of a peasant soldier and his mother, called Senzo-ki, observed by Urara-Sha Reading Group in Kitakami city, Iwate prefecture, and reveals how local feminists question the relationship between war and women in Iwate by analyzing the life stories of two local feminists in the reading group; Obara Reiko and Ishikawa Junko. They consider that wartime sexual violence against women is linked to peacetime gender inequality, and reinterpret women's experiences of war in Iwate from a feminist perspective. Senzo-ki is neither an event to honor the spirits of the war dead nor a peace movement characterized by maternalism like many other women's movements in Japan. Succeeding to the history of postwar peace movements in this area critically, it objects to the militarization of women.