著者
柳田 征司
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.186-174, 2008-01-01

抄物研究の現在は、戦前に研究をはじめた第一世代の研究者が世を去り、戦後から六〇年代までに抄物論文を発表しはじめた第二世代が研究成果をまとめ、他方七〇年以後抄物論文を発表しはじめた第三世代が研究を推し進めている、そういう時期として捉えられる。抄物の発掘・整備について言えば、日本語史上の通説を覆すような資料を含む厖大な量の資料が伝存しており、これを推進しなくてはならない。抄物による言語の研究は、価値の高い資料によって日本語の歴史の根幹に関わる問題を解明し、更にはその全体を説明することを目指さなくてはならない。抄物はそのための思索をするにふさわしい沃野である。しかし、他方で資料や用例の報告なども軽視してはならない。
著者
柳田 征司
出版者
青土社
雑誌
ユリイカ (ISSN:13425641)
巻号頁・発行日
vol.16, no.12, pp.p238-246, 1984-11
著者
柳田 征司
出版者
至文堂
雑誌
国語と国文学 (ISSN:03873110)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.1-10, 2002-11
著者
千本 英史 小川 豊生 深澤 徹 大谷 俊太 礪波 美和子 伊藤 聡 柳田 征司
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

「国文学」という学問は二〇世紀に成立した。芳賀弥一の『国文学史十講』が冨山房から出版されたのは一八九九年の十二月である。それから百年が過ぎ、研究領域の拡大および深化は、研究方法の多様化とともに、「正当的作品」自体の意味をきわめて不安定な、宙づりな存在とした。ことは文学の一分野にとどまらない。すべての分野における「正当」なるもの、「標準」なるものの見直し、「正当」と「虚偽」二分割の思考の枠組み自体が問われようとしているといえる。こうした情況のなかでもう一度、古来の「偽書」の系譜をたどり、それぞれの作品に込められた文学史の力動を再発見し、そのことをとおしていま一度、「文学」という営為を検証しなおしたいと考えた。そのために、思想史的、歴史的文献をも含めて、個々の偽書の体系的把握が必要となる。関心が重層しながらも、多分野にわたる研究者によって、共同チームを組み、それぞれの分野での偽書を検討し、それぞれの分野の特性を明らかにし、そこで得られたもののうちから、代表的なものを選び、それに注釈作業を行い、さらにその特性を解明していった。研究期間の間に「偽書」についての興味が多分野から見られたが、たとえば「月刊言語」の特集や、佐藤弘夫氏著『偽書の精神史 神仏・異界と交感する中世』でも、いまだ「偽書」は断片的に扱われている段階である。これまでの研究の成果を生かしつつ、早急に「偽書」全体を俯瞰する叢書が提供されることが望ましい。これについてはすでに、科研メンバーを中心に、さらに幅広い研究者に呼びかけて、三〜五巻程度の叢刊の刊行を準備し、原稿も相当部分集まりつつある。諸般の事情から、いまだ第一巻の刊行も遅れている状況であるが、早急に刊行体制を再構築したい。現在確認できているところでいえば、秘伝・口伝を特徴とする中世期の「偽書」と平安〜鎌倉の人物に仮託した近世記の「偽書」(擬書)との間には、性格付けに一定の差異がみられる。両者のありようの性格的な断絶と継承の関係を、さらに成立の背後の社会的な視野を加えつつ検討する必要があると思われる。さらに中国を始めとする周辺諸国の「偽書」との比較検討は、まだ研究の緒についたばかりである。今後の進展を期したい。