著者
柴田 眞美
出版者
Japanese Society of Equine Science
雑誌
Japanese Journal of Equine Science (ISSN:09171967)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.45-54, 1993-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
12

本研究では,体表のレリーフ表現について調べた前報に引き続いて,古今東西の造形作例(267作例)に描かれたウマのポーズについて,独自の指標を用いて実際のウマの歩行運動中の位相と比較し,その表現方法の特性について検討した。 分析指標を作成するために,数頭の実馬に各種の歩行運動をさせ,それをVTRカメラで撮影した。その映像からウマの動作を1コマ毎(30Hz)に作図し,こたらの位相を着地肢の組合せによって分類し,作例分析のための指標とした。各作例について,そこに描かれたウマの着地肢の組合せ,四肢の配置パターン,そして全体の姿勢,の3つの視点から分析指標と照合し,描かれた歩法とその四肢の位相を判定した。 その結果,全体の83%にあたる222作例が,分析指標のいずれかの位相に分類する事ができた。また,描写頻度の高さから判断して,造形上で好まれるポーズは,次に示すグループとして捉えることができた;両後肢で立ち上がっているポーズ,対角前後肢が着地している速歩のポーズ,四肢全てが地から離れているリーピングギャロップもしくは同じ位相の飛越のポーズ,1方の前肢と両後肢が着地している常歩のポーズ,両後肢が着地しているリーピングギャロップもしくは同じ位相の飛越のポーズ,の5ポーズ,あるいはこれらに類似したポーズである。一方,造形表現上であまり用いられないポーズは,四肢すべてが着地している駈歩のポーズ,両前肢と一方の後肢が着地している常歩もしくは同じ位相の駈歩のポーズ,対角前後肢が着地している駈歩もしくは同じ位相の襲歩のポーズ,両前肢が着地しているリーピングギャロップもしくは同じ位相の飛越のポーズ,一方の前肢が着地している襲歩,同じ位相のリーピングギャロップ,もしくは同じ位相の飛越のポーズであった。 さらに,時代あるいは地域別にその作例を検討した結果,美術解剖学の分野で「詩的真実」と呼ばれている「造形表現と実体との相違」について考察する際に大変興味ある問題がいくつか提示された。
著者
柴田 眞美
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.119-127, 2008-01

前報で美術解剖学的分析を行なった,わが国鎌倉時代ごろの作とされる,「騎馬図巻」について,作家の目で観察し,記述するという,研究ノートとしての試みをした。前報においては,馬学的,美術解剖学的に分析したのであった。すなわち,その視点は,分析的,客観的を旨としていたのである。しかし,本,研究ノートにおいては,そのような,いわば学術的たらんとする時にどうしても抱いていた,なにか,枷のかかったような状態から,自らを解放し,「絵画の制作者」の視点で,自由に,この作例について語ってみたかった。「騎馬図巻」の中から,古今東西に描かれた,多くの作例によく登場するポーズである三場面を抽出し,類似ポーズの他作例,他作風のものと比較した。このような試みは,制作を第一義とする者にとっては,非常に呼吸のしやすい心地であった。しかし同時に,姿勢,肉付け,アクセントなどについて語るとき,どうしてもその「強弱緩急を云々」となり,歯がゆさも残った。今後,実際に筆をとって,模写などをし,その中で,肌で得た感触を記述していきたい。
著者
柴田 眞美
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.99-109, 1995-01
被引用文献数
1

騎乗者の全身の姿勢について分析した前回に引き続き,今回は脚部に着装する長靴の問題点を抽出する目的で,馬術のベテラン3名を被験者とし,鞍馬上での各扶助動作および歩行動作時の,履物の相違による動作の難易等についての自由発言による聞き取り調査と共に,フィルムリサーチングを行なった。その結果,普段長靴を着用している被験者は,長靴に対して脚が自由になり,履いていないかの様な感覚を要求しているものの,実際には,今日のように鞍や鐙を用いる馬術に於ては,革製長靴の有する脚の支持性(足根,足底,踵部)が,素足やゴム製長靴等に比べて,扶助動作に対して有用である事が判明した。しかし,馬術用革製長靴にも,扶助動作を繰り返すうちに,ヒトの踵と長靴の踵部がずれてくるなどの欠点があり,この点について,足根部の改良の他に靴底の動きの改良の余地があることが示唆された。伝統を重んじ制約がある中で能力と美を追求する馬術における,服装や馬具をより機能的にそして美的に改良するためには,ヒトとウマの生物としての構造や運動機構に照らした分析が今後更になされねばならない。