著者
水多 陽子 栗原 大輔 東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.25-30, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
24

生命現象を生きている状態,かつ生体内で観察することは極めて重要である. 近年,生命科学の分野では,様々な蛍光プローブを用いたイメージング技術の発展や,撮像機器の開発により,細胞や組織内外における分子のリアルタイムな挙動が次々と明らかになってきた.2光子励起顕微鏡は深部到達性,低浸襲性といった,生体深部のイメージングに適した特性を持つ顕微鏡である.我々は植物の深部で起こる生命現象を「生きたまま」解析するため,2光子顕微鏡を用いて植物組織の深部イメージングに挑戦してきた.本稿では,最新の2光子励起顕微鏡を用いた植物深部のin vivoイメージングについて,その特徴と利点を簡単に紹介したい.
著者
栗原 大輔 水多 陽子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.81-86, 2017 (Released:2018-04-06)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

蛍光タンパク質を用いることにより,一細胞レベルだけではなく,オルガネラ,あるいは一分子レベルでの蛍光観察が可能となってきている.しかしながら,植物には,不透明なからだ,内部に気相を含む器官構造,クロロフィルを初めとする自家蛍光物質という,多くの障害が存在する.そのため,切片などを作製することなく,外部から直接,植物の内部形態を蛍光観察することは困難であった.近年,内部を均一な溶液で満たし,またクロロフィルを除去することで,からだを透明にし,丸ごと植物組織を蛍光観察する透明化技術が開発されてきた.本総説では,各種透明化技術の長所・短所を紹介し,実際に透明化技術を用いて蛍光観察する上で注意する点について解説する.
著者
栗原 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究ではヒストンH3リン酸化の可視化により、染色体構造構築メカニズムの解明を目指したが、平成20年度は植物におけるヒストンH3 Thr3をリン酸化するHaspinのシロイヌナズナホモログの細胞分裂期における機能解析、またヒストンH3 Ser10およびSer28をリン酸化するAtAUR3について植物体における機能解析を行った。昨年度までにAtHaspinがvitroにおいてH3 Thr3およびThr11をリン酸化することを明らかにしていたが、タバコ培養細胞BY-2において、AtHaspinを過剰発現したところ、分裂期にH3 Thr3のリン酸化パターンがより広がることが明らかになった。このことはAtHaspinが少なくとも細胞内においてもH3 Thr3をリン酸化することを示唆している。またAtAUR3の機能を明らかにするために、RNAi法を用いてAtAUR3を発現抑制したシロイヌナズナ形質転換体を確立し解析したところ、野生型と比べて根の伸長速度が遅くなっていた。また根の細胞を顕微鏡観察したところ、細胞分布が野生型とは異なっていた。また、AtAUR3は胚においても発現が見られることが予想されたため、胚において染色体が可視化できるH2B-tdTomato形質転換体を構築し、Auroraキナーゼ阻害剤によってAtAUR3を機能阻害したところ、全ての染色体が正常に赤道面に整列する前に染色体が分離するという染色体分離異常が認められた。このように本研究では、遺伝情報を均等に分配するという,生命の根幹をなす過程である細胞分裂において重要な染色体動態に、ヒストンH3をリン酸化するAtAUR3およびAtHaspinが植物において重要な役割を担っていることを明らかにした。
著者
栗原 大輔
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-89, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
46

細胞周期の中でも細胞分裂期はダイナミックな染色体動態を伴う過程であり,その動態の美しさは古くから研究者たちを魅了している.安定した遺伝情報の継承のために必須な染色体動態は,様々な分子が関わる精巧なメカニズムによって制御されている.染色体分配に失敗すると直接異数染色体につながり,遺伝情報のバランスに狂いが生じ,細胞死やガン化を引き起こすため,動物の研究では医薬の分野も含めて精力的に研究が行われているが,植物ではほとんど明らかになっていない.著者らはこれまで,シロイヌナズナ,タバコを用いて染色体動態を制御する分裂期キナーゼ,オーロラキナーゼの同定および機能解析を進めることによって,植物における染色体動態制御機構を明らかにすることを進めてきた.本稿では,近年次第に明らかになりつつある染色体動態の制御機構とともに,植物における染色体動態研究の現状と展望を解説する.