- 著者
-
土屋 十圀
- 出版者
- Ecology and Civil Engineering Society
- 雑誌
- 応用生態工学 (ISSN:13443755)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, no.1, pp.21-27, 1999-05-31 (Released:2009-05-22)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
-
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最近,多自然型川づくりは実施事例も重ねて随分洗練されてきた.しかし,在来種の植生を使ったり,市街化以前の生息環境を目標とするなどよい方向にあるが,未だ,巨石を使いすぎたり,低水路部を固め強制的に蛇行させるといった事例も見られる.また,河川周辺環境を考慮せずエコデザインのコンセプトを曖昧のまま実施すると箱庭的な川づくりになることがある.したがって,河川の流域特性,背後地の環境などその地域のプリミティブな自然度,多様度を基本に考えないと工法だけに特化して過剰な手を加えることもある.自然復元,再自然化のもつその場所,その地域の意味付け,考え方を明確にする必要がある.また,多自然型工法は施工後の生態系の変化を長期的に観察し,各種工法を十分検証するまでには至っていない.多自然型の川づくりの適用に当たってはマニュアル化ができにくいために大河川と中小河川,農山村地域と都市域の違いなど川の個性や流域特性を十分考慮することが最も重要な観点であることを述べた.本報ではこれまでの河川生態系に関する文献,知見から河川生態系の撹乱と要因に関して整理した.その中で自然的な撹乱,人為的な撹乱の要因を示し,区分して見ることの重要性を示した.また,多自然型川づくりの個別の工法だけに目を奪われることなく流域全体からその手法の適用方法を考えることの重要性について矢作川,アメリカのキスミー川の事例を取り上げて解説した.更に,ヨシを保全している中小河川の複断面河道の水理模型実験による検討事例を取り上げた.低水河岸にヨシ帯のある場合,粗度係数の増加を伴い,最大で計画流量の約70%程度の流量しか流れないことを示した.従って,多自然型川づくりの今後の適用方法と課題はエコデザインとしての目標を明確化するとともに粗度係数の増加に伴う河川計画との調整の重要性に関して指摘し,考察した.