著者
八木 淳子 桝屋 二郎 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

東日本大震災後に誕生し、直接の被災体験のない、激甚被災地在住の子どもとその母親223組を対象として、子どもの認知発達や情緒・行動上の問題、母親のメンタルヘルスや被災体験などについて調査を継続した。研究調査3年目となる今年度の第2回追跡調査への参加は179組であった(補足率80.3%)。ベースライン調査の結果において、発達の遅れが認められた子どもたちやメンタルヘルスの問題に苦悩する母親ら、ハイリスク家庭に対して、保育所や地域の専門機関等との連携によって支援を実施し、第1回追跡調査結果においては、子どものIQの平均値の改善が認められ、情緒と行動上の問題(臨床域)を呈する子どもの割合も減じた。3年目は子どもたちが小学校に入学し、保育所をベースとした集団が拡散したことから、調査への参加のはたらきかけや会場の集約など、現地調査実施上の課題が多くなったことが、捕捉率の低下につながったと考えられる。母子ともに改善傾向にある家庭が確実に存在する一方で、母親へのインタビューにおいて、本調査に参加している児の兄弟・姉妹について相談されることも少なくなく、被災地で子どもを養育すること自体が不安など心理的負荷のかかるものであり、その影響を受けて苦悩する家庭との二極化が懸念される。現在、3年目調査結果を解析中であるが、2年目の結果からも母親のメンタルヘルス、特にMINIの結果は大きくは改善しておらず、存続していくことが予想されるため、相談支援を継続するとともにその介入効果についても検証を進める。これらの結果を受けて、大災害から数年後を見越した「子どものこころのケア」や「発達支援」の計画においては、震災後に誕生した乳児とその家庭をも支援対象として含めておくことの重要性について提言していく。
著者
八木 淳子 桝屋 二郎 福地 成 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

東日本大震災から8年余りが経過するが、現在でも、特に激甚被災地において、さまざまな被災の影響が残存する。我々は震災後の1年間に岩手・宮城・福島の沿岸被災地で誕生した子どもたちを対象に、子どもの発達やメンタルヘルス、社会適応について包括的に把握し、ハイリスクな状態にある子どもたちに多層的かつ専門的な支援を実施してきた。 調査開始初年度には、子どもの認知発達と母親のメンタルヘルスに関する深刻な状況が窺知されたが、ベースライン調査から3年が経過し、特に子ども達の発達・行動面で良好な改善が認められる。本研究チームは、これまでの基盤の上に今後9年間、追跡調査と多面的支援を実施していく予定である。
著者
桝屋 二郎 井上 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.229-236, 2021-02-15

抄録 いじめへの対応として,被害者ケアを語られることは多いものの加害者ケアが取り上げられることは少ない。このことは「被害者中心のいじめ像」の理解のみが先行する結果を生んだ。しかし,いじめ行為を直接起こしたのは加害者側であり,加害者への適切なケアは欠かせない。加害者もさまざまな心理・社会的基盤を持っており,時として精神障害を抱えていることもあることが判明している。また,いじめの背景には加害者個人の特性・ストレス状況・基盤障害だけでなく,大集団内に存在する小グループの特性や相互関係性などが複雑に相響しあっている。したがって,いじめ加害についてのアセスメントは個人だけでなく,集団力動にも必要となる。いじめ事態においては加害者に被害者を含めた他者への共感力があるかが抑止の大きなポイントになる。共感力を育むような加害者への適切なケアが結果として,未来の被害者をなくすことに繋がることを我々は忘れてはならない。