著者
井上 猛 小山 司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.291-297, 2009-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はほとんどすべての不安障害亜型に対して有効であるが,その作用機序は十分に解明されていない.われわれは恐怖条件づけストレス(conditioned fear stress;CFS:以前に逃避不可能な電撃ショックを四肢に受けたことのある環境への再曝露)を不安・恐怖の動物モデルとして用い,不安・恐怖とセロトニンの関連について検討してきた.すくみ行動を不安の指標として用いると,ベンゾジアゼピン系抗不安薬と同様に,SSRIはラットのCFSで抗不安作用を示す.SSRIの両側扁桃体基底外側核への局所投与はCFSで抗不安作用を示した.さらに,CFSによって扁桃体基底外側核のc-Fos蛋白発現は亢進し,SSRI全身投与はCFSで抗不安作用を示すと同時に,CFSによるc-Fos蛋白発現を抑制した.以上のことから,SSRIの不安障害への効果は扁桃体に対する抑制効果を介していることが示唆された.
著者
志村 哲祥 田中 倫子 岬 昇平 杉浦 航 大野 浩太郎 林田 泰斗 駒田 陽子 高江洲 義和 古井 祐司 井上 猛
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.783-791, 2018-07-15

抄録 2015年から義務化され運用されているストレスチェックでは,標準的な問診票では「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」「心身のストレス反応」を測定し,これに基づいて産業医面談の対象となる「高ストレス者」を抽出している。一方で,ヒトの心身に影響を与えるのは職業上の要因だけでなく,特に睡眠は,さまざまな経路を介して心身の健康に影響を与えることが知られており,業務以外のストレス要因として重要である。本研究で,睡眠とストレスチェックの各指標の関連を分析したところ,睡眠は心身のストレス反応に対して強い影響を与えており,仕事のストレスと同等かそれ以上である可能性も示唆された。
著者
志村 哲祥 井上 猛 高江洲 義和
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

初めに、高校生において睡眠へ影響を与えている生活の要因を調査しました。たとえば、カフェインを夜に摂取すると2倍、寝床の中でスマホを使用していると3倍、睡眠の問題が生じやすく、また、欠席には起床時刻の影響が大きいことが明らかになりました。次いで、睡眠の問題があり欠席の多い高校生へ、上記の知見をもとにした睡眠指導をする群としない群に無作為に割り当てたランダム化比較試験を行いました。その結果、睡眠指導をした群では睡眠が有意に改善すると同時に、欠席率が半減し、退学者も大幅に減少しました。本研究により、学生の欠席や退学を、睡眠という観点から改善させることができることが明らかになりました。
著者
桝屋 二郎 井上 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.229-236, 2021-02-15

抄録 いじめへの対応として,被害者ケアを語られることは多いものの加害者ケアが取り上げられることは少ない。このことは「被害者中心のいじめ像」の理解のみが先行する結果を生んだ。しかし,いじめ行為を直接起こしたのは加害者側であり,加害者への適切なケアは欠かせない。加害者もさまざまな心理・社会的基盤を持っており,時として精神障害を抱えていることもあることが判明している。また,いじめの背景には加害者個人の特性・ストレス状況・基盤障害だけでなく,大集団内に存在する小グループの特性や相互関係性などが複雑に相響しあっている。したがって,いじめ加害についてのアセスメントは個人だけでなく,集団力動にも必要となる。いじめ事態においては加害者に被害者を含めた他者への共感力があるかが抑止の大きなポイントになる。共感力を育むような加害者への適切なケアが結果として,未来の被害者をなくすことに繋がることを我々は忘れてはならない。
著者
大森 哲郎 井上 猛
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

視察法および赤外線センサー運動量測定装置を用いて移所運動や常同行動を観察し、覚醒剤反復投与による行動過敏性(逆耐性)形成のさいの、グルタミン酸の関与を行動学的に検討した。また覚醒剤大量投与時にみられるドーパミン(DA)やセロトニン神経変性のメカニズムを、DAとグルタミン酸の放出動態を指標に、脳内透析実験を用いて研究した。覚醒剤とNMDA受容体競合的拮抗薬の併用反復投与は、非競合的拮抗薬の場合と同様に、行動過敏性形成を阻止することを明らかにした。このことから行動過敏性形成におけるNMDA受容体の関与が一層明確になった。覚醒剤を大量投与すると、DA放出は線条体と側坐核の両部位で昂進するが、グルタミン酸放出は線条体のみで昂進することを示した。DA神経変性は線条体に限局するので、グルタミン酸放出の昂進はこれと関連する可能性がある。セロトニン神経変性は、両部位において等しく認められるので、グルタミン酸放出の昂進は直接には関連しないと思われる。NMDA受容体拮抗薬は、セロトニン神経変性もDA神経変性と同様に抑制するが、その作用点は今後の検討課題である。さらに、NMDA型グルタミン酸受容体刺激に引き続き細胞内では一酸化窒素(NO)の生成が促進され、これが生理的に重要な意味を有するという最新の知見に導かれて、一酸化窒素合成阻害薬が覚醒剤の急性行動効果や行動過敏性形成にどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、急性行動効果については、移所運動促進作用および常同行動発現作用ともある程度抑制することを示した。また行動過敏性形成については、移所運動の過敏性には影響がないが、常同行動に関しては、いくぶん減弱させることを見い出した。以上の実験所見から、覚醒剤精神病の発現にグルタミン酸神経伝達が関与していることが示唆される。
著者
井上 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.155, 2021-02-15

小児期の虐待,不適切な養育からはじまり,思春期・青年期のいじめ,成人期のハラスメント,老年期の虐待まで,他者からの攻撃は人間にとって最もつらく,しかも長期に心身に影響を与えるストレスである。小児期の虐待,いじめ,トラウマをはじめとする小児期逆境体験については,本誌61巻10号(2019年10月)特集「トラウマインフォームドケアと小児期逆境体験」で取り上げた。同特集は小児期の逆境体験に気付くこと,そしてトラウマインフォームドケアの重要性を指摘している。 最近,小児期にいじめを受けた体験が自殺につながること,さらに長期にわたり心身に悪影響を及ぼすという疫学的研究が報告され,いじめが長期的には精神疾患発症の原因となることも明らかになってきた。いじめに気付き理解することといじめを無くすることが,個々人の健康のみならず公衆衛生,あるいは国家経済の観点からも重要であると思われる。
著者
井上 猛
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.20-28, 2018-10-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
29
被引用文献数
2

1999年に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が本邦臨床に導入されて,不安症の治療および病態の理解は大きく進歩した。選択性が強く,セロトニン再取り込み阻害作用以外の作用機序をもたないSSRIが不安症治療に有効であることから,脳内で細胞外セロトニン濃度を増やすことが,直接不安症の症状を改善させるということができる。さらに,不安・恐怖の神経回路が1993年以降に詳細に解明されたことを契機に,SSRIが扁桃体に作用し,その神経機能を抑制することにより抗不安作用をもたらすこと,その作用は5-HT1A受容体への刺激を介していることが動物実験で明らかになった。これらの動物実験から得られた仮説はfMRIを使ったヒトの画像研究でも支持されている。SSRIの作用機序解明により,不安症の病態と治療を神経回路,神経伝達物質の観点から不安症の病態を理解し,新規治療法を開発することが将来可能になることが期待される。
著者
西村 敏博 江口 哲治 井上 猛 斉藤 正男 前島 靖 真嶋 政文 平地 克也
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. D, A publication of Industry Applications Society (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.117, no.9, pp.1085-1091, 1997-09
参考文献数
17
被引用文献数
5 4

Cardiac pacemaker has to be changed in three to five years for the battery life. A patients must be performed an operation whenever a patient is changed cardiac pacemaker. The method employing secondary rechargeable battery is researched to extend the battery life. The secondary rechargeable battery is transcutaneously charged from outside the body. This paper presents a transcutaneous energy transmission system for a rechargeable cardiac pacemaker battery. The transcutaneous energy transmission system is constructed with a high frequency resonant inverter, a transcutaneous transformer and a rectifier circuit. The secondary transformer is piled and the coupling coefficient and the conversion efficiency are measured with an experimental set up. The results show as follows. The best diameter of the primary center core is 15[mm]. The best output voltage frequency is 10[kHz].