- 著者
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桝潟 俊子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.4, pp.535-553, 2010-03-31 (Released:2012-03-01)
- 参考文献数
- 25
福島県下郷町の大内は,江戸初期から,会津西街道の宿駅として栄えた集落である.明治期における輸送・交通革命から置き去りにされた大内は,山間僻地の一寒村として,「循環する時間」を豊かに包み込んだ「生きられた空間」を形成していた.ところが,戦後の経済復興をへて1960年代後半に入った頃から,ダム開発や改正文化財保護法にもとづく「重要伝統的建造物群保存地区」としての選定,観光・リゾート開発など,近代化の波が相次いで大内を急襲し,大内の人びとは翻弄された.本稿の課題は,大内を事例としてとくに宿場保存と観光開発に焦点をあて,大内における「空間的実践」のもとで,近代をどのような差異の次元で囲い込み,近代に抵抗する秩序やシステムがどう示されているのか,探ることにある.この課題に接近するために,近代における大内の「空間的実践」をたどる.観光地・大内の「表象の空間」は,「地域の生活システムの保全を最優先に考える営み」をとおして形成された.その結果として,大内の「表象の空間」には,「循環する時間」が流れる「生きられた空間」が重層的に紡ぎだされていた.大内における「空間的実践」のなかに,「生きられた空間」と「循環する時間」を豊かに包み込んだ「オルターナティブな社会的編成の生産過程」へ接続していく認識回路が見いだせるように思う.