著者
森下 翔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.005-021, 2020 (Released:2020-10-08)
参考文献数
30

本論の目的は、人間と実在の峻別を前提とする「自然主義的な」科学とは異なるものとして自らの実践を定位する科学者たちの実践を記述することにある。西欧近代を支配する自然主義的な存在論は、自然科学における表象主義的認識論と平行して形成されてきた。近年の科学論では、自然主義的存在論の特徴である実在の連続性と内的世界の離散性はさまざまな仕方で批判されてきた。しかし現在もなお、物理を代表とする科学実践は表象主義的認識論を、少なくとも部分的には自らの実践の妥当な記述として受け入れることが可能であり続けている。本論では、「物理」を表象主義的な実践として捉えながら、自らの実践を「物理」とは異なる「非自然主義的」なものとして捉える固体地球物理学者たちの実践の特徴を、「融合」という概念のもとに描き出す。決定論的な予測が困難な複雑系を扱う固体地球科学者たちは、ベイズ統計学を基礎とする確率論的な手法に基づき地球の内部状態を推定する。彼らの実践は、「観測データへの不信」や「ア・プリオリなデータ」といった一見すると奇妙な観念によって特徴づけられる。「融合」の科学においては人間の仮定や評価が一種の「データ」として扱われ、モデルとデータは単純に「比較」されるのではなく、「インバージョン」や「データ同化」によって観測データがモデルへと「取り込」まれる。このことにより、人間の評価と観測データが渾然一体となった「成果」が生み出される。そのような「成果」は、もはや世界と人間の二元論を前提とした「客観的な表象」ではなく、観測データと人間のモデル評価が独特の仕方で入り混じったハイブリッドなイメージである。
著者
鹿野 祐介 肥後 楽 小林 茉莉子 井上 眞梨 永山 翔太 長門 裕介 森下 翔 鈴木 径一郎 多湖 真琴 標葉 隆馬 岸本 充生
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.279-295, 2022-11-01 (Released:2022-11-14)
参考文献数
35

The Research Center on Ethical, Legal, and Social Issues (ELSI) at Osaka University and mercari R4D started a practical joint research project in 2021 to innovate based on the concept of ELSI and responsible research and innovation (RRI). This paper describes the research and practice conducted in this joint project on (A) upgrading the ethics review process for research and development, (B) assessing AI-based solution technologies and strengthening AI governance, and (C) conducting a feasibility study for participatory technology assessment on quantum technology, respectively. In this paper, we illustrate the methods and processes of this project, as well as the results of these individual studies, and share critical reflections on the ELSI/RRI knowledge production processes from the perspectives of both ELSI researchers and members of the private sector. Our results provide evidence of the contribution to innovation governance in science and technology from ELSI/RRI research and the knowledge of the humanities and social sciences.
著者
森下 翔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.449-469, 2014

本論の目的は科学実践における存在者の「実在性(reality)」について、人類学的な考察を試みることである。科学が歴史主義的・実践論的に理解されるようになって以来、私たちの持つ科学のイメージは大きく変化してきた。本論は科学実践における実在性をめぐる議論について、近年の実践論的科学論が科学実践における実在性の概念を局所化・歴史化したことを評価しつつ、そのプロセスを「表現と物質性の接続」というスキームへと還元してきたことを批判する。本論では地球物理学の一分野である測地学における「観測」と「モデリング」の実践について記述することを通じて、「観測網」や「図」などの具体的な構成要素と密接に結びついた-「表現」や「物質性」に還元される手前に存在する-存在者のさまざまな実在化の様態を示す。考察では「実在化のモード」という概念の導入を通じてこれらの様態の関係を考察し、実践における存在者の実在形態の多様性を分析する方途を模索する。
著者
森下 翔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.449-469, 2014-03-31 (Released:2017-04-03)

本論の目的は科学実践における存在者の「実在性(reality)」について、人類学的な考察を試みることである。科学が歴史主義的・実践論的に理解されるようになって以来、私たちの持つ科学のイメージは大きく変化してきた。本論は科学実践における実在性をめぐる議論について、近年の実践論的科学論が科学実践における実在性の概念を局所化・歴史化したことを評価しつつ、そのプロセスを「表現と物質性の接続」というスキームへと還元してきたことを批判する。本論では地球物理学の一分野である測地学における「観測」と「モデリング」の実践について記述することを通じて、「観測網」や「図」などの具体的な構成要素と密接に結びついた-「表現」や「物質性」に還元される手前に存在する-存在者のさまざまな実在化の様態を示す。考察では「実在化のモード」という概念の導入を通じてこれらの様態の関係を考察し、実践における存在者の実在形態の多様性を分析する方途を模索する。