著者
森山 成彬
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.114-122, 1989-02-15

Ⅳ.Bobon以降現在まで ドイツのSnellを言語新作研究の始祖とすれば,ベルギーのBobon, J. はその中興の祖といえる。彼はまず1943年の論文9)で,それまでの諸研究を総括したあと,言語新作を欠陥症状troubles déficitairesの優位なものと,反応的な障害troubles réactionnelsの優位なものに分けた。前者は言語中枢の器質的病変も示唆され,同時に機能的な障害としても,入眠時や心的興奮時の自動的な言語活動,曖昧な表現,記憶の保持と喚起の障害,情動障害などを示すものである。後者の反応的な障害の言語新作は,①消し難い強烈な妄想体験,②新しい概念を表出しようとする努力,③非病理的な言葉の改作,④言葉の魔術性への信仰,⑤想像の世界へ埋没する代償的活動,⑥遊戯的な活動,などの側面をもつ。 Bobonが1947年に報告した症例10)は,無音の"e"を発音したり,r・t・er・ment・ancreなを語尾に加える。この患者に薬物を注射し半睡状態にすると,逆に言語新作の度合が減少することから,Bobonはこれらの遊戯的な言語新作が意志的なものであるとした。別な症例11)は「アクロバット的」な言語新作をし,日本語の話し言葉を〈evanes〉と称して,〈Jenefolenbette Serrntlesito〉を日本語だと主張する。この患者は5カ月で症状改善し言語新作をやめた。56歳の緊張病の男性例12)は,年月を経るに従ってparalogie→schizophasie→言語新作へと進展する。その言語新作は方言を組み合わせたもので,Bobonは戯れの機制を指摘した。Bobonはさらに1952年には自説を集大成して,言語新作の全体像を整理する13)。
著者
森山 成彬
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1290-1295, 1988-12-15

I.はじめに 言語新作néologismeとは,新しい言葉あるいは,既存のとは異なる新しい表現の謂である71)。Lantéri-Laura, G. ら51)によれぱ,néologismeという語の初出は1735年で,哲学書のなかで使われ,科学・技術用語の創出,および死語や外国語からの借用による新語をさしていた。しかし,その実体は言語体系そのものの独創から,言葉の意味の微妙なズレまで多様であり,それが次頁表のように,多種の類語を派生させる理由にもなっている。 こうした言語新作を精神分裂病者が生み出してきた事実は,多くの精神医学者の注目をひき,その研究史は少なくとも19世紀中葉まで遡ることができる。彼らはそこに病者の体験が凝集されていると信じ,様々の症例を集め検討した。
著者
渡辺 俊三 豊嶋 秋彦 大場 昭一 飯塚 稔 植本 雅治 森山 成彬 小泉 明 一之瀬 正興 寺田 光徳 RICHARDOT Dominique 大西 守 浜田 秀伯 藤谷 興一
出版者
弘前大学
雑誌
弘前醫學 (ISSN:04391721)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.167-175, 1984-03

フランスP市の日本人小・中学校児童の外国文化への適応について検討を加えた.対象は日本人学校児童122名(男71,女51)であった.今回のアンケート調査は32項目よりなり,外国文化への適応の評価と印象,外国語能力の自己評価,日本とフランスの関係についての評価などよりなる. このアンケートを統計数理学的方法で検討を加えた.結果は,外国文化への適応の評価は概ね比較的良好であった. さらに,適応への重要な因子として,外国語の能力があげられ,外国語学習への積極的態度が観察された.