著者
今中 忠行 森川 正章
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

【1】HD-1株宿主-ベクター系の開発HD-1株を宿主とした形質転換系を構築することを目的としてまず、各種抗生物質に対する耐性をしらべた。その結果、カナマイシン(Km)、テトラサイクリン(Tc)、アンピシリン(Ap)、クロラムフェニコール(Cm)、カルベニシリン(Cd)に対する耐性は全くなく(5μg/ml以下)、ストレプトマイシン(Sm)に対しては10μg/mlが生育限界濃度であった。続いてこれまでに開発されたPseudomonas属を含むグラム陰性細菌に広く利用されている広宿主域ベクターや大腸菌用のベクターなどを中心にエレクトロポレーション法によるHD-1株の形質転換実験を行った。それぞれのベクターにコードされている各種薬剤耐性を獲得した細胞を形質転換体として選択した。その結果、グラム陰性用広宿主域ベクターRSF1010によってHD-1株の形質転換が可能であることが判った。細胞を懸濁する溶液としては10%グリセロールが適していると思われた。実際に、Sm耐性株(形質転換体)からプラスミドを抽出してアガロースゲル電気泳動で調べた結果、RSF1010の存在が確認できた。この結果は、RSF1010はHD-1株細胞内で独立複製可能であることも示している。種々の条件を検討した結果、HD-1株の形質転換最適条件は以下の通りである。宿主(HD-1株),定常期前期菌体:ベクター,RSF1010(Sm^r):選択圧,Sm20μg/ml:電気パルス(方形波):電界強度,5kV/cm:パルス幅,1ms:遺伝子発現までの培養時間,3時間。以上の条件で得られる最大形質転換頻度は3.3×10^<-5>transformants/viable cell、最大形質転換効率は1.1×10^5transformants/μgDNAであった。【2】アルカン/アルケン生合成経路の解明まず、生物学的にCO_2からアルカン/アルケンを合成する経路のなかで最も研究が遅れており、実際反応律速になっている可能性が高いと思われる脂肪酸からアルカン/アルケンへの変換反応について検討した。緑藻類などを用いた研究成果からは脂肪酸から直接アルカン/アルケンを合成しているのではなく、脂肪酸からアルデヒドになった後アルカン/アルケンに変換される可能性が示唆されている。そこでHD-1株が最も多く蓄積していたヘキサデカン(C16)の前駆物質であると予想されるパルミチン酸あるいはヘキサデカナ-ルを使ってアルカン/アルケンの生成が実際に起こるかを調べた。^<14>C-パルミチン酸は市販のものを利用した。^<14>C-MEKISAデカナ-ルは入手不可能であったため^<14>C-パルミチン酸から化学合成した。アルカン/アルケンの生成反応は以下のようにして行った。基質である^<14>-パルミチン酸あるいは^<14>C-ヘキサデカナ-ルを含むリン酸緩衝液(pH7.0)/1%Triton X-100をナスフラスコ内でArガス通気により脱酸素処理する。同様に脱酸素処理した細胞抽出液を嫌気性ボックス内で添加後密栓する。これを遮光した湯浴中で37℃24時間保温した。反応産物を含む疎水性画分をクロロホルム抽出し、基質のみで保温したコントロールと共にシリカゲル60TLC(ヘキサンおよびヘキサン,ジエチルエーテル,ギ酸)で展開し、脂肪酸あるいはアルデヒド画分(Rf=0.5-0.7)をアルカン/アルケン画分(Rf=0.9以上)を厳密に分けて回収した。液体シンチレーションカウンターによりそれぞれの放射活性を測定した。この結果から、微量であるが細胞抽出液を加えた場合にのみアルカン/アルケの生成が確認できた。さらに脂肪酸にくらべてアルデヒドの方がアルカン/アルケンの生成率が良いことから、細菌においても脂肪酸はアルデヒドを経由してアルカン/アルケンに変換されることが強く示唆された。現在細胞抽出液をカラムクロマトグラフィーなどにより分画して、本酵素活性(アルデヒトデカルボニラーゼ)の精製を目指している。
著者
濱田 昌子 五味 満裕 森川 正章
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-24, 2022-06-30 (Released:2022-07-25)
参考文献数
28

本研究では,全部床義歯プラークの菌叢解析を行い,主要構成菌種を用いたプラークモデルを再構築し,義歯洗浄剤による除去効果の有効性評価を行った。全部床義歯床部からプラークを回収し,次世代シーケンサーによるメタ16S rRNA遺伝子配列解析を行い,主要構成細菌種がStreptococcus salivarius,Veillonella dispar,Actinomyces meyeri,Rothia mucilaginosaであることを明らかとした。これら細菌4種と真菌Candida albicansを供してレジン上にプラークモデルを再構築し,義歯洗浄剤による除去効果を評価した。プラークモデルを洗浄した後に生菌数を測定したところ,洗浄剤は約4 logの除菌効果を有することが明らかとなった。また,洗浄後にプラークモデルの蛍光染色観察を行ったところ,洗浄剤がプラークに対する剝離効果を有し,細菌をほぼ死滅させることが示唆された。本研究では,新たなデンチャーモデルプラークを創出し,全部床義歯洗浄剤評価系の基盤を構築した。
著者
森川 正章 菅原 雅之 鈴木 和歌子 三輪 京子
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.799-804, 2014-12-01 (Released:2015-12-01)
参考文献数
29

およそ60兆の細胞からなるヒトには100〜1,000兆もの細菌が住んでいることが近年明らかとなり,動物と微生物の深いかかわりが注目されている.一方,肥沃な土壌1グラム中には1~10億程度の細菌が含まれおり,植物と微生物ともやはり深いかかわりがある.植物根の周辺域いわゆる根圏や内生の微生物が植物の成長などに重要な役割を果たすことも古くから知られている.実に今から100年以上前の1908年のサイエンス誌に“Pure cultures for legume inoculation(マメ科植物の純粋培養)”という記事で細菌の影響の排除がいかに難しいかを論じている.このように土壌植物の根圏に関する研究は長い歴史をもち根粒菌や菌根菌をはじめとする多くの知見が蓄積されてきた.一方,水生植物と微生物とのかかわりに関する研究は歴史が浅くまだ未解明の点が多い.私たちは,水生植物の一つであるウキクサからその成長を顕著に促進する表層付着細菌を複数発見している.本稿では,これら水生植物成長促進細菌とその作用機構の特徴について解説する.
著者
森川 正章 鷲尾 健司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

微生物が固体表面に付着して形成する高次構造体をバイオフィルムと呼ぶ。バイオフィルムでは細胞が高密度に存在するため、細胞間コミュニケーションが頻繁に起こり、個々の細胞が培養液中に浮遊した状態とは異なる挙動を示す。本研究課題では、環境微生物がバイオフィルム形成に伴って発現するユニークな特徴を発見し、その分子機構を解析した。さらに、バイオフィルム形成によって獲得するストレス耐性を各種環境汚染物質分解細菌に適用し、地球にやさしい持続的環境修復技術の基盤開発に成功した。