著者
森本 浩之 水谷 陽子 浅井 友詞 島田 隆明 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0110, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】人間のバランスは視覚、前庭覚、体性感覚の情報を入力し、中枢で処理した後、運動神経を介して出力している。その中でも視覚情報は重要な役割を果たしており、全感覚の約60%を占める。動作の中で頭部や眼球が動き、網膜の中心の像が2~4°ずれると見えにくくなる。そのため、vestibuloocular reflex:VORとcervicoocular reflex:CORの働きで、視覚情報を補正している。また眼球追視(smooth pursuit:SP)も複雑な脳での処理システムにより調節している。今回、立位バランスにおける頭部・眼球運動に着目し、重心動揺計を用いて視覚情報の刺激(SP)や、VOR・CORの影響について検討したので報告する。【方法】対象は、同意を得た20歳~34歳(平均:23.4歳)の健常な男女10人。重心の測定は、Neurocom社製BALANCE MASTERにより立位時の重心を評価した。被検者はバランスマスター上に立ち、眼から70cm前方に視標追視装置を設置し固視点を映し出した。負荷方法は1)固視2)追視運動(SP)3)固視したままの頚部の左右回旋(VOR・COR)の3条件にて行った。さらにバランスマスター上にFORMを置き、同様の3条件の計測を行い、各条件間の総軌跡長を比較した。また、計測環境は、その他の外乱刺激が入らないよう暗室で行い、頚部回旋はメトロノームを用いて1秒間に1動作の設定とし、頚部の回旋範囲は60°に設定した。各設定時間は10秒間とした。【結果】FORMなしの立位時での重心の総軌跡長は、5.85±2.06cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、5.38±2.67cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、5.42±2.01cmであった。また各条件間に有意差はなかった。FORMありの立位時での重心の総軌跡長は、18.10±3.08cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、17.77±4.81cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、15.18±3.44cmであった。SP群とVOR・COR群のみ有意差が認められた。また、FORMの有無での各条件間に有意差を認めた。【考察】FORMの使用で体制感覚入力の抑制を行った事により、体制感覚が立位バランスに大きな影響を与えていることが示唆された。また、体制感覚の抑制で、立位保持とVOR・COR群に有意差がなかったことから、視覚情報と前庭器官のみでも立位バランスを保持することが可能であると考えられる。しかし、VOR・COR群と SP群に有意差があったことから、視覚情報の混乱と体性感覚の抑制により動揺が大きくなったと考えられる。これは、日常生活において、突然の視覚情報の変化、例えば振り向き動作時の風景の変化に視覚情報が対応しきれずにバランスを崩す可能性があると考えられる。
著者
森本 浩之 浅井 友詞 中山 明峰 加賀 富士枝 和田 郁雄 水谷 陽子 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1152, 2011

【目的】<BR>世界では前庭機能障害によるめまいや姿勢不安定に対するリハビリテーションが古くから数多く行われている。日本においては一部では行われているものの一般的ではない。<BR>前庭機能障害患者は非常に多く、また前庭機能障害に対するリハビリテーションを必要としている患者も少なくはない。<BR>今回我々は前庭神経腫瘍摘出後6年経過し、前庭障害の改善がみられなかった症例に対するリハビリテーションを経験し、良好な結果を得たので報告する。<BR>【方法】<BR>症例は60歳の男性で、6年前に左前庭神経腫瘍の摘出術を行った。その後、抗めまい剤などの薬物治療を継続して行っていたが、めまい感、姿勢不安定感などの症状が改善しないためリハビリテーションを行うこととなった。<BR>リハビリテーションはCawthorne、Cookseyらが報告したものをもとにAdaptation、Substitution、Habituationを行った。Adaptationは文字が書かれたカード(名刺)を手に持ち、カードの文字が正確に見える状態でカードと頭部を水平および垂直方向に出来るだけ早く動かした。Substitutionは閉眼にて柔らかいパッドの上に立たせた。Habituationは問診やMotion Sensitivity Quotientにて、めまい感や姿勢不安定感が強くなる動きを選択し、その動作を繰り返し行わせた。リハビリテーションの時間は1回50分、頻度は週に2-3回、また病院でのリハビリテーション以外にHome exerciseとして上記のAdaptation、Habituationを毎日行い、合計3週間行った。<BR>評価は3週間のリハビリテーション前後にDizziness Handicap Inventoryの日本語版(以下DHI)、VAS(めまい感、姿勢不安定感)、Neurocom社製Balancemaster<SUP>&#9415;</SUP>にて4つのCondition(Condition 1:開眼・硬い床、Condition 2:閉眼・硬い床、Condition 3:開眼・柔らかい床、Condition 4:閉眼・柔らかい床)における重心動揺の総軌跡長を計測した。<BR>【説明と同意】<BR>本研究の主旨を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>DHIは、リハビリテーション前では44点、リハビリテーション後では32点であり改善がみられた。<BR>VASは、リハビリテーション前ではめまい感49mm、姿勢不安定感51mm、リハビリテーション後ではめまい感31mm、姿勢不安定感24mmで、めまい感・姿勢不安定感ともに改善がみられた。<BR>重心動揺は、リハビリテーション前ではcondition 1が4.27cm、condition 2が6.23cm、condition 3が9.49cm、condition 4が61.34cm、リハビリテーション後ではcondition1が3.26cm、condition 2が2.93cm、condition 3が6.44cm、condition 4が61.17cmであり、すべてのConditionにおいてわずかではあるが重心動揺の減少がみられた。特にCondition 4においてはリハビリテーション前では3回中2回は転倒により計測不能であったが、リハビリテーション後では3回全てにおいて計測する事が可能であった。<BR>【考察】<BR>前庭神経腫瘍摘出後の後遺症に関して、3週間のリハビリテーションでDHI、VAS、重心動揺において効果が認められた。Girayらは慢性前庭機能障害患者に対し4週間の短期的なリハビリテーションを行い、その効果を報告している。今回も先行研究と同様に3週間の短期的なリハビリテーションで効果を認めることができた。<BR>今回の症例では手術から6年経過していたが中枢代償が完成されておらず、めまい感や姿勢不安定感が残存していた。前庭機能障害に対するリハビリテーションは、平衡制御システムの障害に対し本来身体に備わっている可塑性を促進させ、かつ残存している健常機能で消失している機能を置換・代用し、平衡機能を向上させることを目的としている。今回前庭リハビリテーションを行ったことにより前庭および視覚・体性感覚が刺激され、その結果中枢代償が引き起こされめまい感や姿勢不安定感が改善したと考えられる。<BR>今回は3週間での短期的なリハビリテーションであったが、6ヵ月後までの効果を認めている報告もあり、さらなる平衡機能の向上が期待できると考える。今後もリハビリテーションを継続して行い、経過を追っていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>日本においては前庭機能障害に対するリハビリテーションは確立されていない。前庭障害の患者は多く、リハビリテーションを必要としている患者も多く、今後症例数を増やし前庭障害に対するリハビリテーションを確立していくことが課題である。
著者
若林 諒三 浅井 友詞 佐藤 大志 森本 浩之 小田 恭史 水谷 武彦 水谷 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101957, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】立位安定性は、外界に対する身体の位置関係を視覚、前庭感覚、足底感覚、固有感覚情報により検出し、それらの求心性情報が中枢神経系で統合され、適切な運動出力が起こることで保たれている。立位安定性を保つ上で特に重要となるのが、自由度の高い頭部の運動を制御することである。頭部の制御は、前庭感覚、頚部からの求心性情報をもとに頚部周囲筋が協調的に活動することで、姿勢変化に応じて頭部の垂直固定、意図した肢位での保持、外乱刺激に対する応答が可能となる。そのため、前庭機能障害や頚部障害の患者では前庭、頚部からの求心性情報の異常により立位安定性が低下することが報告されている。また、健常成人においても静止立位と比較して頭部回旋運動時の立位重心動揺は有意に増加することが報告されている。一方、頚部関節位置覚は前庭感覚とともに頭部の位置・運動情報を中枢神経系に提供していることから、頭部運動時の立位安定性に関与する可能性が考えられるが、その関連性は明らかでない。したがって今回、頭部回旋運動時の立位安定性と頚部関節位置覚の関連性についての検討を目的に研究を行ったので報告する。【方法】健常成人25 人(28.6 ± 6.1 歳)を対象とした。被験者に対して頚部関節位置覚の測定および頭部正中位での重心動揺、頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定を行った。頚部関節位置覚の測定は、Revelらが先行研究で用いているRelocation Testを使用した。椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着させ、200cm前方の壁に投射させた。安静時の投射点に対する、閉眼で頚部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点の距離を測定し、頚部の角度の誤差を算出した。測定時に被験者の後方にビデオカメラを設置し、我々が開発した解析ソフトを使用して解析を行った。頚部関節位置覚の測定は、左右回旋それぞれ10 回行い平均値を代表値として算出した。頭部正中位での重心動揺の測定は、Neurocom社製Balance Master®を使用して、modified Clinical Test of Sensory Interaction on Balanceにて行った(以下Normal mCTSIB)。Normal mCTSIB の条件1 は開眼・固い床面、条件2 は閉眼・固い床面、条件3 は開眼・不安定な床面、条件4 は閉眼・不安定な床面である。頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定はNormal mCTSIBと同様の条件下で行い(以下 Shaking mCTSIB)、測定中の頭部回旋運動をメトロノームで0.3Hzに合わせて約60°の範囲で行うよう被験者に指示した。重心動揺の指標には重心動揺速度(deg/sec)を使用した。また、測定中に転倒したものは解析から除外した。統計処理はSPSSを使用し、Relocation TestとNormal mCTSIBおよびShaking mCTSIBの相関関係をピアソンの相関係数を用いて検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】日本福祉大学ヒトを対象とした倫理委員会の承諾を得た後、対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】Relocation Testの平均値は5.36 ± 2.06°であった。Normal mCTSIBのすべての条件においてRelocation Testとの相関関係は認められなかった。Shaking mCTSIBの条件1 においてRelocation Testとの間に中等度の相関(r = 0.42)が認められた。【考察】本研究の結果より、健常成人において、Shaking mCTSIBの条件1 とRelocation Testとの間に中等度の相関関係が認められた。Honakerらの先行研究によると頭部回旋運動は立位安定性を低下させることが報告されている。また立位安定性保つ上で頭部の運動を制御することが必要であり、頭部の位置・運動に関する求心性情報を伝える頚部関節位置覚の正確性が重要であると考えられる。したがって、本研究では頚部関節位置覚と頭部回旋運動時の立位安定性との間に中等度の関連性が認められたと考えられる。また今回、Relocation TestとNormal mCTSIBやShaking mCTSIBの条件2、3、4 との間には相関関係が認められなかった。姿勢制御においては頚部関節位置覚以外にも、前庭感覚、視覚、足底感覚などの感覚系を含め様々な因子が関与する。本研究では健常成人を対象としており、閉眼や不安定な床面などで一部の感覚系が抑制された条件下では前庭感覚などの感覚系の個人差が反映されるため、頚部関節位置覚との相関関係が認められなかったと推察される。【理学療法学研究としての意義】日常生活活動において頭部を動かす機会は多く、姿勢安定性を保つために頭部の運動を制御することは重要であると考えられる。本研究において頚部関節位置覚が頭部回旋運動時の姿勢安定性に関連することが示されたことから、高齢者やバランス機能低下を有する患者において頚部関節位置覚の評価を行い、それを考慮した治療プログラムを立案することの必要性が示唆された。
著者
池松 弘朗 依田 雄介 大瀬良 省三 今城 眞臣 門田 智裕 加藤 知爾 森本 浩之 小田柿 智之 大野 康寛 矢野 友規 金子 和弘
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.1051-1053, 2014-06-25

はじめに 早期大腸癌の治療方針について,pTis(M)癌はリンパ節転移の報告がないことから,内視鏡的摘除の絶対適応病変とされている.しかし,その一方で,pT1(SM)癌は約10%の割合でリンパ節転移があることが報告1)されており,海外の多くの国ではリンパ節郭清を伴う外科手術が施行されている.また,過去の手術検体を対象にした,pT1癌のリンパ節転移のrisk factorに関する報告も多く認められる2). 本邦では,それらの報告を根拠に,リンパ節転移のriskの少ない病変を内視鏡的摘除の適応病変としている.「大腸癌治療ガイドライン2014年版」3)では,内視鏡的摘除後のpT1癌の経過観察条件として,垂直断端陰性例において,(1) 乳頭腺癌,管状腺癌,(2) 浸潤度<1,000μm,(3) 脈管侵襲陰性,(4) 簇出G1のすべてを満たすものとし,それ以外の病変は郭清を伴う追加腸切除を考慮すると記載されている. 内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)に代表されるような内視鏡治療技術の進歩に伴い,多くの早期大腸癌を内視鏡的に完全摘除することが可能になった4)5).その一方で,内視鏡的に脈管侵襲,簇出を診断することは困難であるため,完全摘除生検としての内視鏡的摘除を先行し,病理所見を確認した後でpT1癌の治療方針を決定したらどうかという意見も存在する.また,さらなる内視鏡的摘除の適応拡大が学会・研究会などで議論されており,今後ますます完全摘除生検としての内視鏡的摘除が議論の的になることが予想される. 本稿では,いくつかの側面から大腸pT1癌に対する内視鏡的完全摘除生検の必要性と問題点を概説し,現時点での筆者らの意見を述べたい.