- 著者
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植松 孝悦
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
- 雑誌
- 日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.2, pp.231-235, 2021
症例は医療従事者30歳代女性。右皮膚温存乳房全切除術とシリコンインプラントで乳房再建後,術後ホルモン療法継続中に新型コロナワクチン2回目接種後にワクチン接種側である左鎖骨下に腫瘤を自覚。2回目ワクチン接種4週間後の定期受診時の超音波検査で左鎖骨下に集簇する2個の10mm のリンパ節腫大を認めた。いずれも楕円形で,リンパ節皮質のび漫性かつ均一な肥厚とわずかであるがリンパ節門が確認され,反応性リンパ節腫大,特に新型コロナワクチン接種後の反応性リンパ節腫大と診断して経過観察とした。2回目ワクチン接種12週間後に施行した超音波検査で左鎖骨下リンパ節の縮小が確認された。新型コロナワクチン接種に伴うワクチン接種側の片側性リンパ節腫大,特に腋窩リンパ節腫大は,医師をはじめとする医療従事者が知っておくべき新型コロナワクチン接種後の臨床所見として,世界中の乳がん検診や乳房画像診断に関係する学会や団体で注意喚起が始まっている。新型コロナワクチン接種後,早くて1~2日でワクチン接種側の片側性リンパ節腫大が発症し,10週間後まで持続することが現在までに報告される。検診マンモグラフィや検診超音波検査は,ワクチン接種前に施行するか,2回目ワクチン接種後少なくとも6~10週間の間隔をおいてから施行することが推奨される。乳癌患者の術前,術後の必要な画像検査は延期することなく積極的に施行すべきであるが,その場合の新型コロナワクチン接種は健側の三角筋もしくは大腿部に接種を勧めるように助言する。基本的に2回目ワクチン接種後6~10週間以内のワクチン接種側の片側性リンパ節腫大の患者に対して,積極的な画像検査は不要で,臨床的な経過観察が推奨される。2回目ワクチン接種後6~10週間を超えて持続するか増大するリンパ節腫大は,超音波検査をはじめとする積極的な画像検査による精査が必要である。ワクチン接種に伴うリンパ節腫大は,反応性リンパ節腫大の典型画像を呈するので,ワクチン接種歴と接種部位の情報があれば,その診断は容易である。したがって,ワクチン接種歴と接種部位の検査前問診が重要である。国民に対しては,新型コロナワクチン接種後の反応性リンパ節腫大は,病気ではなく,心配ない自然な症状と所見であり,むしろ良好な免疫反応を獲得している徴候であることを説明して,安心してもらうことが大切である。