- 著者
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楠見 友輔
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.1, pp.206-224, 2023 (Released:2023-04-01)
人間を世界と切り離して分析する研究法では,大加速する地球規模の危機に人間自身が巻き込まれている現代社会の問題を解決することが困難である。このような状況下で,質的研究の内部において,ドゥルーズの哲学,ニューマテリアリズム,ポストヒューマニズム等の理論とともに思考し,反-表象主義,物質と人間の対称性,脱人間中心主義を標榜するポスト質的研究を希求する運動が生じている。ポスト質的研究は,倫理-存在-認識論という独自の立場から研究を行うため,調査と分析の過程や論文の文体は,伝統的な研究と大きく異なっている。さまざまなデータと研究者は脱領土化・脱層別化された内在平面で内-作用し,新しい知識を創造することが目指される。ポスト質的研究で用いられる造語と転義に親しむこと,ポスト質的研究への批判を概観すること,ポスト質的研究の重要な特徴をつかむことを通して,本稿は,質的研究のフレームを開き,ポスト質的研究の可能性を拓くことを目的とする。