著者
石黒 良和 榎本 玲子 山上 精次
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-14, 2015-03

本研究では幼児を対象に, 向社会的行動, 感情的役割取得, 対人的問題解決の学年による水準の変化を検討するとともに, 3者間の関連性を検討した。向社会的行動とは他者からの見返りを期待せずに, 他者への利益のために起こす対人行動のことである。役割取得とは他人の感情, 思考, 観点, 動機, 意図を理解する能力のことである。対人的問題解決とは対人的な葛藤に直面した場面に適した対処法を導き出したり, 他者に対する社会的行為の結果を予測する能力のことである。感情的役割取得は学年に伴い一貫して水準が上昇していた。それに対して対人的問題解決は年長の幼児のみ他学年の幼児よりも有意に水準が高く, 感情的役割取得と比較すると成長に時間を要することが考えられる。向社会的行動は年長および年中の幼児が年少の幼児よりも有意に平均値が高かった。また, 向社会的行動に対して感情的役割取得および対人的問題解決の双方とも正の影響を与えていることが明らかとなった。このことから感情的役割取得, 対人的問題解決の水準が高いほど, 向社会的行動の水準も高いという関連性が示唆された。
著者
榎本 玲子 山上 精次
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 心理学篇 (ISSN:21858276)
巻号頁・発行日
no.1, pp.61-69, 2011-03

外界の物体と身体との直接的な相互作用が行われる身体周辺の空間を身体近傍空間という。複数のモダリティの刺激に反応する多感覚ニューロンの働きにより規定されているこの空間では,複数モダリティからの感覚情報が統合されるため,他の領域とは異なる空間知覚特性がある。そして、この空間の表象は,ダイナミックかつ機能的な可塑性を持ち,身体部位や道具の機能,使用経験などにより変化することを多くの研究が実験的に示している。その一方で,ここ数年では,そのような多感覚ニューロンの働きが身体近傍空間における単一モダリティの刺激処理にも影響を与える可能性を示唆した証拠が増えつつある。本レビューでは,これらの研究を概観し,身体近傍空間における空間知覚の特性とその可塑性について論議する。