著者
樋口 麻里 Higuchi Mari ヒグチ マリ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.193-210, 2017-03-31

社会学 : 研究ノート質的データ分析支援ソフトウエア(CAQDAS: Computer-Assisted Qualitative Data Analysis Software)を、有効に利用するには、各ソフトウエアがどのような分析を行うために開発されたのかを理解する必要がある。そこで本稿では、主要なソフトウエアであるAtlas.ti7とNVivo11を取り上げ、それぞれの機能の特徴から、各ソフトウエアの背景にある分析方法に対する考え方を探った。その結果、次のことが示唆された。Atlas.tiは、データに即した抽象度の低いコードを作成し、それらを関連づけながら概念を構築する機能を特徴としていた。これは、データの文脈に根差した分析を重視する、グラウンデッド・セオリー・アプローチの方法に適合的であった。一方、NVivo は、ミックスド・メソッド・アプローチといった、より多様な方法への対応を志向していた。これは、コーディングの機能に、概念構築とデータの分類という二つの異なる機能が備わっていることから考えられる。この機能は、量的データを含む大量のデータを分類して、データ全体の特徴を把握することに適していた。Behind the functionalities of analytical software, there is a methodological philosophy as to how analysis should be done. It is essential to understand such philosophies of each CAQDAS (Computer-Assisted Qualitative Data Analysis Software) in order to use them appropriately for qualitative data analysis. For this reason, this paper explores the functionalities of Atlas.ti7 and NVivo11 to elucidate their philosophical differences. The Atlas.ti can easily handle codes with low abstraction, which enables users to consider the relationship between codes and to construct concepts or theories grounded on data. The NVivo aims to respond to various methods. It emphasizes extracting the characteristics of large amounts of data by examining the data diversely with applying two functions of coding: constructing concepts and classifying the data.
著者
樋口 麻里 Higuchi Mari ヒグチ マリ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.39, pp.29-43, 2018-03-31

社会学 : 研究ノート質的データの分析力の養成には、分析の手順について知ることに加えて、データの分析練習を重ねること、そして分析練習の時に生じる疑問について議論することが有効である。これらを授業時間内で実施するには、作業時間の短縮と、授業参加者全体で分析を検討する分析過程の可視化が必要である。これらを実現するツールとして、QDAソフトウェアの利用が考えられるが、授業に効果的に活用するには、QDAソフトウェアの機能と分析法との対応を把握する必要がある。そこで本稿では、主要なソフトウェアであるMAXQDA12の機能の特徴について、Atlas.ti7とNVivo11との比較から探った。そして、作業時間の短縮と分析過程の可視化にMAXQDA12の機能をどのように利用できるのか、また機能と分析法との対応について、漸次構造化法とKJ法をとりあげて検討した。その結果、MAXQDA12は抽象度の低いコードからの分析を重視するAtlas.ti7と、抽象度の高いコードをふることでデータの分類に力を入れるNVivo11の中間に位置するソフトウェアと考えられた。また基本的機能の特徴から、初学者にも利用しやすいと考えられた。作業時間の短縮と分析過程の可視化については、紙媒体では授業中での実践が難しい同時比較を簡便に行えることを示した。MAXQDA12は階層構造によるコードの整理を重視していることから、帰納的アプローチを基盤としつつも、演繹的アプローチにも寛容な漸次構造化法やKJ法に適合的であった。To train analytical skills of qualitative data, in addition to knowing the procedure of the analysis methods, it is effective to practice data analysis repeatedly and discuss questions raised at the time of the practice. In order to conduct it within limited class hours, it is necessary to shorten the analysis work time and to visualize the analysis process for discussing the way of analysis for all class participants. QDA software is one tool to realize this aim. In order to use QDA software effectively in class, it is necessary to consider the correspondence between each function of the QDA software and the analysis method. In this paper I focus on one major type of QDA software, MAXQDA 12, and explore its functional characteristics through comparison with Atlas.ti7 and NVivo11. Then I examine how the function can be used to shorten the analysis work time and visualize the analysis process. In addition, I explore how MAXQDA12 functions correspond to analysis methods. MAXQDA12 can be positioned between Atlas.ti7, which emphasizes creating concepts from codes of low abstraction, and NVivo11, which intends to classify data by code of high abstraction. From characteristics of basic functions of MAXQDA12, it is considered that beginners can start using the software easily. For shortening the analysis work time and visualizing the analysis process, I give an example of the simultaneous comparison which would be diffi cult to implement in the class when using paper media. Concerning the correspondence of software functions to analysis methods, MAXQDA12 puts importance on organizing codes by layers, which is compatible with those incorporating a deductive approach based on an inductive approach such as the KJ method and the gradual structuring method (Zenji-Kōzōka-Hou).
著者
樋口 麻里
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学文学研究院紀要 (ISSN:24349771)
巻号頁・発行日
vol.167, pp.31-74, 2022-07-19

身体的または精神的な脆弱性が相対的に大きく労働が困難な人々は,いかにして「社会に必要な成員」として承認されるのか。本稿は,これらの人々に対するケアの保証を主張するエヴァ・F・キテイのケアの倫理を足掛かりに,精神障がいのある人(以下,精神障がい者とする)にケアを提供する専門職スタッフの経験的データの分析から,この問いへの回答を試みる。ケアの倫理は,身体的または精神的な脆弱性を依存の発生源とみなし,脆弱性に留まる人には他者に「お返し」をする能力がないと捉える。そのため,労働が困難なほどの脆弱性をもつ依存者は,ケアの一方的な受け手と位置づけられる。他方,依存者からの「お返し」に焦点を当てた,実証的研究は十分に行われていない。そこで本稿では,労働が困難で様々な社会関係を喪失している精神障がい者へのケアを行う,フランスの専門職スタッフへのインタビュー調査とケア現場の参与観察調査のラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)による分析から,ケアの実践を明らかにすることで,依存者から依存労働者に対する「お返し」の有無を考察する。分析の結果,スタッフは本稿で「ユマニテ」と名づける,社会の規範や制度を反省的に捉え直す哲学をケアのお返しとして,精神障がい者から受け取っていた。ユマニテを受け取ることで,スタッフは精神障がい者が社会的に排除される現状に疑問を持ち,社会の全体的な統合には脆弱性をもつ人々の社会的連帯への参加が不可欠であると認識していた。以上から,脆弱性をもつ人々が社会に必要な成員として承認される可能性として,ユマニテの社会への提供が示唆された。
著者
山中 浩司 岩江 荘介 香取 久之 野島 那津子 樋口 麻里
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究期間中、希少疾患当事者53件(医療費公費負担対象疾患(インタビュー実施時)25件、2)その他希少疾患20件、3)未診断8件)に対して56回のインタビュー調査を実施した。うち、40件については、2017年3月に、病の経験と社会的認知に関係する11項目について中間報告書(162頁)をまとめ、関係者に送付し、概要を協力団体のウェブサイトに掲載した。40件の聞き取りデータ(のべ76時間)から、希少疾患患者における「社会的宙づり状態liminality」を明らかにし、成果の一部については、国内外の学会で報告を行った。また、こうした状態の中核をなす就労問題について、関係者から意見聴取も行った。