著者
藤田 真帆 波留 健一郎 岩松 友里香 小濱 顕士 志戸岡 茜 渡辺 將平 髙田 和真 川元 大輔 長津 秀文 横山 尚宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0851, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】握力は容易に測定できる上肢機能の重要な指標の一つである。先行研究で高齢者の体力測定の結果から,握力と大腿四頭筋の筋力との関連や,スポーツ選手は握力と下肢筋力に相関があるとの報告をしている。四肢周径は骨格筋の肥大や萎縮を簡易に評価でき,筋力との関係性があると述べている。InBody570を用いた身体組成計は骨格筋量や脂肪量などを簡便に計測することが可能であり,測定器の妥当性や信頼性に関する報告は散見される。しかし,握力と四肢周径,骨格筋量との関係性は一定の見解が得られていない。我々は運動習慣のない若年者を対象に3者の関連性を分析し,臨床的意義があるか検討した。【方法】対象は運動習慣のない健常成人男性20名(年齢:20.8±1.7歳,身長:169.5±5.5cm,体重:62.9±12.6kg,利き側:右)とした。全対象にInBody570(BIOSPACE社製)を用い,右腕(RA),左腕(LA),右脚(RL),左脚(LL)の筋肉量を測定した。握力はデジタル握力計(竹井機器工業社製)を使用した。肢位は立位で,左右の上肢を体側に下垂させた状態で最大握力を測定。四肢周径はメジャーを使用,仰臥位で計測した。前腕周径は最大膨隆部(FC),上腕周径は肘屈曲位で最大膨隆部(AC),大腿周径は膝蓋骨上縁10cm(TC),下腿は最大膨隆部(CC)を測定した。統計処理は左右別に握力と四肢周径,部位別筋肉量との関連についてピアソンの相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】左握力(39.7±6.5kg)はLA(2.6±0.4kg),LL(8.2±0.9kg),左FC(25.3±2.4cm),左AC(28.2±3.9cm),左TC(44.6±4.4cm),左CC(35.7±2.8cm)とすべての項目で有意な相関を示さなかった。右に関しては握力(41.4±6.5kg)と右FC(25.6±2.1cm)(r=0.45,P<0.05),握力と右AC(29.0±3.8cm)(r=0.45,P<0.05),握力とRA(2.6±0.5kg)(r=0.47,P<0.05),握力とRL(8.2±0.9kg)(r=0.58,P<0.01)に有意な相関が認められた。握力と右TC(45.1±4.4cm),握力と右CC(35.9±2.9cm)において,有意な相関が見られなかった。【結論】右握力は,右FC,右AC,RA,RLで相関を認めた。周径は筋肥大の指標となることが知られており,利き手に関しては握力で上肢の筋量と筋力を予測できる可能性が示された。右TC,右CCとは相関を認めなかった。これは握力が下肢の筋肥大に必ずしも反映されない事が考えられた。さらに先行研究では,筋量よりも筋力の方が相対的に低下するとの報告があり,右握力はRLとの相関を認めたが,右TC,右CCと相関がなかったと考える。左の握力は全項目で相関がなかった。利き手に関する研究で,握力は上肢周径など軟部または機能的測度では利き手優位の傾向が現れやすいと報告しており,そのため相関がなかったと考える。これらの結果から,運動習慣のない若年者は握力が下肢筋力を測る指標になりえない事が示唆された。
著者
山下 喬之 横山 尚宏 川元 大輔
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.517-521, 2022 (Released:2022-10-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

〔医学・医療系教育とVR〕近年,Virtual Reality(VR)の教育実践が盛んに行われ始め,効果検証も始まりつつあるが,理学療法教育分野での報告は少ない.〔先端技術教育と理学療法教育へのVR導入〕Information and Communication Technology(ICT)を活用した教育は,コロナ禍以降の進化も必要であり,VRは理学療法士養成教育においても業界の様々な課題を解決に導ける可能性を秘めている.〔開発と課題〕カメラとパソコン,通信環境のみで,仮想現実空間における臨床疑似体験を可能とする教材を開発した.導入コスト,映像編集・加工のスキル,通信環境や新しい教育方法に対する慣れに関する課題が挙げられた.〔実践案〕VRの導入を現実的にする提案を,既存のサービスを活用した教材配信,学習者既有のデジタル端末で視聴できる教材の制作と,簡易ゴーグルを使った方略の工夫としてまとめた.
著者
帖佐 梨菜 早崎 奈央 永田 直樹 吉留 直希 鮫島 啓太郎 高田 和真 田口 光 川元 大輔 横山 尚宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】ヒトの運動機能を定量的に評価することは,臨床において効果判定やプログラム立案に極めて重要となる。多用途筋機能運動評価装置バイオデックスシステム3(以下:BIODEX)はヒトの筋力を正確に測定し,数値が可視化できるため数多くの研究機関で使用されている。ただし,場所が制限される事や高価であるため,使用する施設は限られている。一方,Hand Held Dynamometer(以下:HHD)は,測定方法が簡便であるため,理学療法領域において幅広く使用されている。一方,体重計はどの家庭にも存在する。体重計はBIODEXやHHDと比較し,鉛直方向にしか計測ができない。しかし,測定方法を工夫することで,等尺性収縮を定量的に評価することが可能ではないかと考える。本研究は,BIODEXで表された数値がHHDや体重計と相関関係があるかを三角筋とハムストリングスで実施し,自宅で簡便に筋力測定が可視化できるかを検討することを目的とした。【方法】対象者は本校に在籍する学生20名で,整形外科的,神経学的に既往のない学生を選出した。平均年齢は20±1.92歳,平均身長は166.5±8.7cm,平均体重は61.2±8.9kgであった。測定肢は三角筋,ハムストリングスともに右上下肢で統一した。三角筋・ハムストリングスの計測課題はBIODEX上で端座位とし,大腿部・骨盤部・体幹をベルトにて固定,両上肢は胸の前で交差して手掌面を胸郭上部で固定するように指示した。膝関節90°屈曲位でアーム回転軸と膝外側裂隙中心部が一致するようにシートの高さ・前後長を調整した。筋力はisometricで測定し,最大筋力を5秒間保持,3セット実施した。各セット間のインターバルは30秒とした。HDDと体重計による測定課題として,三角筋はベッド上端座位の肢位で肩関節屈曲90°,肘関節伸展位とした。前腕遠位部に抵抗を加え,5秒間保持するように指示した。被験者が代償動作を起こさないように最大限留意した。ハムストリングスの測定肢位はベッド上腹臥位とし,体重はベッドに預け,股関節45°屈曲位,両下肢は下垂させ,足底が接地しないように指示した。HDD,体重計の計測ともに,被験者は両下腿を地面と平行に保持し,検者は下腿遠位部に鉛直方向へ抵抗を加えた。HHDと体重計の筋力測定は検者が体重計に乗り,被験者に重力方向に抵抗を加えた時の体重と,抵抗を加える前の体重との差を重力(9.8N)で除して算出した。統計学的解析は相関係数を用いてBIODEX,HHD,体重計で測定した筋力の一致度を分析した。また,3者の関係については回帰分析を用い,回帰式を算出した。有意水準は5%未満とした。【結果】三角筋の最大収縮はBIODEXで31.9±14.9N,体重計は81.3N±30.9N,HHDは79.9±27.4Nであった。ハムストリングスの最大収縮はBIODEXで60.6±22.9N,HHDで221.5±80.3N,体重計は217.6±76.8Nであった。三角筋の相関係数はHHDと体重計(r=0.99;P<0.01),BIODEXとHHD(r=0.98;P<0.01),BIODEXと体重計(r=0.97;P<0.01)すべてに有意な相関関係が示唆された。ハムストリングスの相関係数はHHDと体重計(r=0.98;P<0.01),BIODEXとHHD(r=0.85;P<0.01),BIODEXと体重計(r=0.91;P<0.01)と,すべて有意な相関関係が示唆された。回帰式において,三角筋のBIODEXとHHDの関係はy=2.382x-9.752,BIODEXと体重計の関係はy=0.251x-5.956を示した。ハムストリングスのBIODEXとHHDの関係はy=3.572x+7.184,BIODEXと体重計の関係はy=3.526x+1.576となった。【考察】本研究の結果,全ての項目において有意な相関関係を示唆した。先行研究において,HHDと体重計は相関関係があるという報告がある。本研究は先行研究を支持する結果となり,HHDと体重計の相関関係があることを証明した。BIODEXは筋力測定において正確な数値を表す装置として認知されている。臨床で広く使われるHHDと一般家庭にも存在する体重計が,BIODEXと相関関係を示唆した。今後は症例の自宅においても,体重計を使用することによって,工夫次第で筋力を数値化し正確に測定できると考える。筋力の数値化はMMTのような主観的な筋力評価と違い,治療の効果判定や症例の目標設定など,臨床で有用な客観的評価となるのではないだろうか。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,BIODEXとHHD,BIODEXと体重計ともに高い相関関係がみられた。HHDは施設に,体重計は施設や自宅にほぼ存在する。筋力の可視化が可能となれば症例自身が筋力向上を確認でき,目標を持ちやすく,心理面にも好影響を与えるのではないかと考える。