- 著者
-
小山 なつ
横田 敏勝
- 出版者
- Japan Society of Pain Clinicians
- 雑誌
- 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.2, pp.103-115, 2000-04-25 (Released:2009-12-21)
- 参考文献数
- 83
- 被引用文献数
-
1
各種神経栄養因子とその受容体は, 脊椎動物の神経系の発生を調節する. 神経栄養因子の原型である神経成長因子 (NGF) が胎生期に作用しないと, 生まれる前に一次侵害受容線維が死滅する. ヒトの先天性無痛無汗症は, NGFの受容体TrkAの遺伝子の変異によって発生する. 成熟後も神経栄養因子は一次感覚ニューロンの遺伝子発現を調節する. 例えば, 一次侵害受容ニューロンの約半数がNGF, 残りの約半数がグリア細胞由来神経栄養因子 (GDNF) の作用を受ける. NGFは炎症による痛覚過敏にも関与する. 炎症が起こった局所のNGF産生が増え, 侵害受容線維の熱刺激感受性を直接的, 間接的に高める. 局所の肥満細胞はNGFに反応して増殖し, 活性物質を放出して, 侵害受容線維を過敏化する. NGFは侵害受容線維の中に取り込まれて細胞体に運ばれ, テトロドトキシン抵抗性Naチャネルの遺伝子を発現させて, 侵害受容線維の興奮に影響する. またNGFは脳由来神経栄養因子 (BDNF) の遺伝子発現を高める. BDNFは脊髄内に放出されて, 二次侵害受容ニューロンの伝達物質に対する感受性を高める. 末梢神経が切断されるとNGFの取り込みが止まり, 細胞体での遺伝子発現が伝達型から再生型に変わり, 異常興奮を引き起こす.