1 0 0 0 OA 情動と記憶

著者
數井 裕光 須賀 楓介 掛田 恭子 上村 直人 樫林 哲雄
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.258-265, 2018-12-25 (Released:2019-01-09)
参考文献数
22

情動によって増強された記憶を情動性記憶と呼ぶ.本稿では,アルツハイマー病(AD)患者を対象とした2つの研究,すなわち実生活における阪神淡路大震災に対する記憶を評価した研究と統制された情動性記憶課題を用いた研究の結果を通して,AD患者でも情動によってエピソード記憶が増強されることを示した.さらに情動性記憶の成立には扁桃体が関与すること,情動によるエピソード記憶の増強作用には視覚性記憶が関与することを示唆する研究結果を紹介した.最後に心的外傷体験の記憶が視覚的イメージを伴って繰り返し想起される心的外傷後ストレス障害の症候を情動性記憶の観点から考えてみた.
著者
樫林 哲雄 数井 裕光 和田 佳子 徳増 慶子 横山 和正
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.239-247, 2016-09-25 (Released:2016-11-04)
参考文献数
17

本症例は脳挫傷による前向性健忘,逆向性健忘,前頭葉症状を呈した.治療の経過で場所の定位障害が残存し,リハビリテーションで正しい現在地を再学習するうちに場所の見当識に混乱が生じて,重複記憶錯誤が出現した.頭部MRIで認められた障害部位は左上前頭回下部,右下前頭回で,IMP-SPECTではこれらの部位に加えて,後部帯状回の取り込み低下を認めた.重複記憶錯誤消失前後でIMP-SPECTを比較したところ左上前頭回下部,右下前頭回に加えて後部帯状回の血流も改善していたことから,重複記憶錯誤の出現に前頭葉と後部帯状回の機能低下が関与していることが示唆された.
著者
上村 直人 藤戸 良子 樫林 哲雄
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.310-316, 2020-09-30 (Released:2021-10-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1

近年, 高齢者と自動車運転の問題, 特に認知症と自動車運転は社会的にも問題化し, 臨床現場でも様々な対応や試みが行われている。さらに 2017 年 3 月 12 日からは 75 歳以上の高齢ドライバーは 3 年ごとの免許更新時と基準行為と呼ばれる特定の交通違反を犯すと, 更新を待たずに認知機能検査を受検することが必要となった。その結果, 認知症が疑われる第一分類に判定されれば, 医師の診断を受けることが義務化された。現在, わが国では認知症と判定されれば, 現行法でも既に自動車運転が禁止されているが, どのような状態であれば運転を中断すべきか, という医学的基準や評価方法は確立されていない。認知症といっても軽度から重度まで, また認知症の原因疾患によっても事故の危険性には差異がある可能性があり, 今後さらなる医学的検討が必要である。そこで今回, 臨床現場における認知症と運転行動の関連性のほか, 現時点での課題について解説した。