- 著者
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比樂 憲一
遠西 昭寿
- 出版者
- 一般社団法人 日本理科教育学会
- 雑誌
- 理科教育学研究 (ISSN:13452614)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.53-60, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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自然科学においては,実際に実験ができないような状況ではシミュレーションが行われる。観察結果がよく一致するシミュレーションを選択することで「どのようになっているか」を理解しようとする。本研究は,「月は日光を受けて輝き,私たちの周りを公転しているので日光の当たる角度が変わり,形が変化して見える」という理論からなる理論モデルに基づくシミュレーションを行い,実際の観察事実と理論モデルとの一致によって,この理論モデルを成立させた理論にコミットさせることを試みた,小学校第6学年における実践的研究である。児童は,観察事実がこの理論モデルによく一致することから,上述した理論に対するコミットメントを形成できた。実際の観察と中心に地球をおいた一般的な月の公転モデルの間では,視点移動・空間認識の困難性が生じることが報告されているが,公転する月の中心に地球ではなく,観察者である「私」を直接に置くことで,その困難性から逃れることができた。また,このモデルでは,太陽を我々の周りを回る24時間時計として認識すると夜間の太陽の方位を推定できるので,夜間でも「太陽と月の関係」を知ることができた。さらに,月齢がわかれば,月の観察が可能な「時刻と方位」を決定できるので,月の観察を計画的・予測的に行うことが可能になった。