著者
五味 高志 戸田 浩人 木村 園子ドロテア 渡邊 裕純 浅野 友子 水垣 滋 布川 雅典 根岸 淳二郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-05-31

森林-渓流生態系の構成物質では、林床落葉の放射性セシウム濃度が最も高く、福島原発事故によって放出された放射性物質の多くは、陸域に現存していた。流域のCs-137空間分布は、林相、微地形、立地などに影響されていた。森林土壌では、農地土壌と比べて有機物に吸着したCs-137が多かった。森林から渓流に供給されたリターは、溶脱によって放射性セシウムが流出し、CS-137濃度は林床の25%程度であった。これに応じて、同じ栄養段階の生物では、林床に生息するものより渓流に生息する動物でCs-137濃度が高くなっていた。本研究結果から、有機物に付着したCs-137の長期的な観測の重要性を示唆できた。
著者
水垣 滋
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、湿原における過去約100年間の土砂堆積実態を明らかにし、1960年代を境に激変した流域の土地利用が土砂動態に与える影響を検討することである。本年度は、湿原内における堆積土砂の年代測定に基づいて土砂堆積量を推定し、昨年度までの流域土砂生産・流送・氾濫堆積過程の解析結果と併せて、土地利用変化に伴う流域土砂動態の変化実態を明らかにした。【調査及び分析】昨年度に引き続き、河床縦横断測量及び浸食量モニタリングと湿原土壌の放射能(^<137>Cs、^<210>Pb)測定を実施した。また、粒度、有機物含有率及び土粒子密度も測定した。【データ解析】湿原内の堆積速度は^<137>Cs及び^<210>Pb測定に基づく年代測定により推定した。また湿原堆積土砂量を推定するため、土層区分と^<137>Cs分析による1963年表土深との関係について検討した。さらに浸食量データより推定した年間土砂生産量を既存の土砂流送量データと比較検討した。【本年度の成果】河川湿原流入部では、明渠排水路工事期間(1960〜70年代)に顕著な土砂堆積が認められ、工事以前(1940〜50年代)と以降(1980年代〜)の堆積速度は十数倍に増加していた。湿原流入部における1963年以降の微細土砂堆積量(約7500t/year)は、土砂流送量(約9900t/year)と同オーダーであり、湿原流入土砂の大部分が湿原流入部で氾濫堆積していることが明らかとなった。一方、中流域で1985〜1990年以降に河床低下が進む流路直線化区間の微細土砂生産量は4400t/yearであり、土地利用開発後の新土砂生産源としての重要性が示された。さらに中流域氾濫原では土砂貯留量の減少が示唆された。以上から、流路直線化により中流域では微細土砂貯留量の減少と生産・流送量の増加がもたらされ、下流湿原内の堆積速度が大きく増加したものと考えられる。
著者
平岡 真合乃 恩田 裕一 加藤 弘亮 水垣 滋 五味 高志 南光 一樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.145-150, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
29
被引用文献数
14 18

ヒノキ人工林における地表の被覆物が浸透能に及ぼす影響を明らかにするために, 急峻な斜面の14地点で振動ノズル式散水装置による浸透能試験を行って最大最終浸透能を測定し, 下層植生をはじめとする地表の被覆物との間で回帰分析を行った。得られた最大最終浸透能は5∼322 mm h−1 であり, 最大最終浸透能と下層植生量, 植被率との間に有意な正の線形関係が認められた。植被率が50% を下回ると最大最終浸透能は45 mm h−1以下と低くなり, 自然降雨下においてホートン型地表流の発生する可能性の高いことが示された。また, 植被率をブラウン-ブランケの被度指標で読み替えた場合でも, 被度3以下で最大最終浸透能が急激に低下することが示された。本研究の結果から, 急峻なヒノキ林斜面では下層植生で被覆された地表面で高い浸透能を維持できること, また下層植生の被度区分を浸透能の指標とできる可能性が示唆された。したがって, ホートン型地表流を抑制する観点から浸透能の目標値を設定し, 下層植生の被度調査によってヒノキ林の荒廃度を評価できる可能性があり, 下層植生を指標とした水土保全機能の評価に基づいた, 施業計画の策定につながることが期待できる。