著者
西岡 拓哉 北 和之 林 奈穂 佐藤 武尊 五十嵐 康人 足立 光司 財前 祐二 豊田 栄 山田 桂太 吉田 尚弘 牧 輝弥 石塚 正秀 二宮 和彦 篠原 厚 大河内 博 阿部 善也 中井 泉 川島 洋人 古川 純 羽田野 祐子 恩田 裕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

背景・目的東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、原子炉施設から多量の放射性物質が周辺地域に飛散・拡散し土壌や植生に沈着した。地表に沈着した放射性核種が今後どのように移行するか定量的に理解していくことが、モデル等により今後の推移を理解する上で重要である。重要な移行経路の一つとして地表から大気への再飛散がある。我々のグループのこれまでの観測で、山間部にある高線量地域では、夏季に大気中の放射性セシウムが増加していることが明らかになっている。夏季の森林生態系からの放射性セシウム再飛散過程を明らかにすることが本研究の目的である。観測2012年12月より浪江町下津島地区グラウンドにおいて約10台のハイボリュームエアサンプラーによって大気エアロゾルを高時間分解能でサンプリングし、Ge検出器で放射能濃度を測定している。この大気エアロゾルサンプルの一部を取り出し化学分析及び顕微鏡観察を行っている。2015年よりグラウンドおよび林内で、バイオエアロゾルサンプリングを月に1-2回程度実施している。また、感雨センサーを用い、降水時・非降水時に分けたサンプリングも行っている。200mくらい離れた林内でも同様の観測を行っている。さらに、パッシブサンプラーによる放射性核種の沈着フラックスを測定するとともに、土壌水分と風速など気象要素を自動気象ステーション(AWS)にて、エアロゾル粒子の粒径別濃度を電子式陰圧インパクタ(Electric Low-Pressure Impactor, ELPI)、黒色炭素エアロゾル濃度および硫酸エアロゾル濃度をそれぞれブラックカーボンモニタおよびサルフェートモニタにて連続的に測定している。結果と考察2015年夏季に行った観測と、そのサンプルのSEM-EDS分析により、夏季の大気セシウム放射能濃度は炭素質粒子濃度と正相関していることが分かった。夏季には粒径5μm程度の炭素質粒子が多く、バイオエアゾルサンプリングとその分析の結果、真菌類の胞子、特にキノコが主な担子菌類胞子が多数を占めていることが分かった。但し、降水中には、カビが多い子嚢菌類胞子がむしろ多い。大気粒子サンプルの抽出実験を行った結果、夏季には放射性セシウムの半分以上が純水で抽出される形態(水溶性あるいは水溶性物質で付着した微小粒子)であることもわかった。そこで、2016年夏季には、大気粒子サンプル中の真菌類胞子の数密度と大気放射能濃度の関係を調べるとともに、キノコを採取してその胞子の放射能濃度を測定して、大気放射能濃度が説明できるか、また大気粒子サンプルと同様に、半分程度の純水抽出性を持つか調べた。その結果、大気放射能濃度と胞子と思われる粒子の個数とは明瞭な正相関を示し、降水時には子嚢菌類が増加することが示された。また、採取したキノコ胞子の放射性セシウムは、半分以上純水で抽出され、大気粒子サンプルと同様に性質を示すこともわかった。但し、採取した胞子は放射能は高いものの、それだけで大気放射能を説明できない可能性がある。
著者
恩田 裕一 高 翔 谷口 圭輔
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年の東日本大震災に起因して東京電力福島第一原子力発電所事故が起きたことにより,福島の周辺環境において放射性核種134Csや137Csが検出された.環境省は2011年8月から公共用水域について環境モニタリング調査を実施しており,2011-2012年環境省で取った底質サンプルは,多くの地点において減少傾向がみられるものの,増減にばらつきが非常に多く,場所によっては増加する地点も報告されている。従来の研究成果より,河川等の環境試料の時系列変化を解析する場合に,粒径補正を行うことが必要と考えられる。そこで,本研究では,それらの底質サンプルの粒径を分析することにより,粒度補正を施した後に河川の底質の実効減衰速度を考察した。 本研究によって,粒径補正前に見られて大きな変動は,ほとんど見られなくなった。また,時間とともに濃度が上昇している地点が,25地点から,7地点に減少した。底質における89個地域の減衰速度(λ)は平均1.15となり,河川底質の濃度減少傾向について解明することができた。さらに,福島県内の浮遊砂測定結果と比較すると,底質におけるCs濃度を粒径補正し懸濁態濃度を推定したところ,24地点の内,14地点で減衰変化が一致した。このことから,セシウムが河川中を流下する際の吸脱着により,多くの地点で懸濁態,底質,溶存態が平衡状態となっていることが推定された。
著者
脇山 義史 恩田 裕一 ゴロソフ ヴァレンティン コノプレフ アレクセイ 五十嵐 康記 高瀬 つぎ子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

浜通り北部を流れる新田川では、原発事故により上流域に比較的多量の137Csが沈着した。一方で、その下流域には市街地や農地が存在するため、この河川を通じた137Csの移動を把握することは地域住民の安全を担保するうえで重要な課題である。本報告では、新田川流域における137Cs動態の把握を目的として行った、浮遊土砂の137Cs濃度変化の観測結果を示す。観測は支流である比曽川(蕨平地点)、新田川上流(野手上北地点)、新田川下流(鮭川橋地点)に浮遊土砂サンプラーを設置して2014年7月から行っている。観測初期(2014年7~12月)の浮遊土砂の137Cs濃度は、それぞれ28.3、13.4, 17.5 kBq kg-1であったのに対して、2017年後半(2017年5月~10月)には、それぞれ11.9、6.8、5.9 kBq kg-1まで低下していた。137Cs濃度の時間変化傾向は、事故からの経過時間を変数とする指数関数によってあらわされた。これらの137Cs濃度の時間変化を表す式によって推定される値と実測の137Cs濃度の差は、浮遊土砂のFe2O3の割合が高いほど大きいという傾向が見られた。さらに、2016年8月、2017年10月の台風接近時に野手上北において採取した浮遊土砂の137Cs濃度は、水位上昇時において水位低下時により高いという結果が得られた。一方で、2016年8月の台風時に下流域の新田橋地点で採取した浮遊土砂の137Cs濃度は水位のピーク時に最も高い値を示した。これらの結果は土砂の供給源の違いが浮遊土砂サンプラーによる各観測期間の137Cs濃度変動に影響していることを示唆している。今後、浮遊土砂の粒径や元素組成の測定結果を踏まえて、137Cs流出プロセスを考察する予定である。
著者
金子 信博 中森 泰三 田中 陽一郎 黄 垚 大久保 達弘 飯塚 和也 逢沢 峰昭 齋藤 雅典 石井 秀樹 大手 信人 小林 大輔 金指 努 竹中 千里 恩田 裕一 野中 昌法
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.394, 2013 (Released:2013-08-20)

福島原発事故により汚染した森林の除染には、伐採や落葉除去だけでは十分でなく、処理した木材と落葉の処分も問題である。森林土壌から、安全に放射セシウムを除去する方法を提案する。落葉分解試験を、二本松市のコナラ林で2011年12月から2012年12月まで行った。6月には、落葉の放射性セシウム濃度は土壌の2倍から3倍となり、土壌の約12-18%が上方向に落葉へと移動した。この移動は、糸状菌が有機物上で生育する際に土壌からセシウムを取り込むためと考えた。落葉の代わりに伐採した樹木をウッドチップ化し、土壌のセシウムを糸状菌によってチップに集める方法を考案した。汚染地域の木材中の放射性セシウム濃度はまだ高くないので、森林を伐採し、現地で幹材をウッドチップ化しメッシュバッグに入れ、隙間なく置いて半年後に回収することで、低コストで安全に除染が可能である。半年程度経過したウッドチップはまだ分解が進んでいないので、安全な施設で燃焼し、灰を最終処分する。単に伐採して放置するのでなく、この方法で森林施業を積極的に継続しつつ、汚染木材をバイオ燃料として活用し、復興に活用することが可能である。
著者
平野 尭将 小林 達明 高橋 輝昌 鈴木 弘行 恩田 裕一 高橋 純子 山本 理恵 斎藤 翔
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.858, 2015 (Released:2015-07-23)

里山生態系内での放射性セシウム(以下Cs)の動態を明らかにするため、川俣町山木屋地区の農家所有の里山と山木屋小学校の森林において樹体各部位と土壌のCsを調査した。農家所有の里山ではA0層の除去処理を行い、土壌中のCsの低下が里山生態系内にどのような影響を及ぼすのか調べた。コナラ・ミズナラは対照区で幹木部や葉のCs濃度が高かったのに対し、Cs除去処理区ではCs濃度が低いという関係が見られた。また、コナラとミズナラの全調査木の幹木部と樹皮の関係は見られなかったのに対し、幹木部と葉の間には明瞭な正の相関関係が見られた。そのため、Csの吸収は経皮吸収によらず、主に根から吸収され、樹液流によって幹木部から葉に運ばれていると考えられる。一方、アカマツの葉のCs濃度は、コナラやミズナラに比べると低く,幹木部のCs濃度は著しく低かった。コナラの葉は展葉前の葉のCs濃度が最も高い傾向が見られたがアカマツには季節変化は見られなかった。また、コナラでは辺材、心材でCs濃度に大きな差が見られたのに対し、アカマツではCs濃度に大きな差が見られなかった。
著者
謝 樹冬 恩田 裕一 加藤 弘亮 五味 高志 孫 新超 高橋 純子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.391, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

林地の中で土壌侵食が最も顕著なのは荒廃人工林であると考えられる。日本は国土面積約65%が森林であり、その約40%がスギやヒノキなどの人工林である。林地における土壌侵食を放置すれば、林内の荒廃が進み、斜面崩壊や土石流などの災害を引き起こす要因にもなる。そこで、人工林における土壌侵食や水流出について考察することが重要だと考えられる。 我々は栃木県佐野市にあるヒノキ・スギ人工林において間伐施業が与える土砂流出の影響を調査した。調査期間は2010年6月から2013年10月までの間である。そして、2011年と2013年に間伐した。本研究では、研究サイトに4m×10mの観測用プロットを三つ設置し、間伐前後のプロットから流出した土砂の量を観測と表面流量も測定した。結果として間伐後は土砂流出量が減少し、表面流出量が増加したことを示された。そこで、その原因を明らかにするために、魚眼レンズを使用した映像解析によってプロットの植被率を推定した。その結果、間伐後に下層植生が回復したことで、前述した現象を起こす要因の一つであると考えられた。
著者
小倉 晃 恩田 裕一 小松 義隆
出版者
石川県農林総合研究センター林業試験場
雑誌
石川県農林総合研究センター林業試験場研究報告 = Bulletin of the Ishikawa Agriculture and Forestry Research Center Forestry Experiment Station (ISSN:21874840)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-17, 2012-04

石川県では平成19年度から「いしかわ森林環境税」を導入し、水源地域を中心に手入れ不足人工林の強度間伐を行い、森林の公益的機能の確保に努めている。そこで、強度間伐による森林の水源涵養機能の回復効果について調査を実施した。調査対象林は石川県内のスギ、アテ(ヒノキアスナロ)人工林で、このうち間伐実施前、強度間伐実施後、目標林(下層植生が豊かで健全な森林)の合計42箇所で、振動ノズル型散水装置を使用して、地表流量や地表流中の土砂濃度を測定した。調査の結果、間伐実施前の手入れ不足人工林の浸透能は、強度間伐をすることによって高まり、流出水中の土砂濃度も減少することがわかった。
著者
田中 延亮 南光 一樹 加藤 弘亮 平田 晶子 恩田 裕一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

林地における豪雨時の表面流発生プロセスを理解する上で,豪雨時の林内雨量の空間分布の把握は重要であるが,既往研究では,その点について十分に調べられていない.我々は,愛知県内のヒノキ人工林で2010年7月に発生した豪雨イベントを対象にして,同林内17地点において30分間隔で観測された林内雨量の空間分布を調べた.具体的には,上記イベント中の豪雨前(最大30分間降雨強度9.0 mm),豪雨中(同57.0 mm),豪雨後(同5.5 mm)の各時間帯について,林内雨量の空間分布を調べた.豪雨前の時間帯から起算した各地点の積算林内雨量の変動係数は,豪雨のタイミングでほとんど変化せず,林内雨量の空間分布の変動の度合いについては,豪雨の影響をあまり受けないことがわかった.各地点の林内雨量の順位が時間帯の間で相関があるかどうかについて, Spearmanの順位相関係数(r)を用いて調べたところ,豪雨前と後の時間帯は高い相関(r=0.92)を示したが,両時間帯ともに,豪雨中とは比較的低い相関(r=0.79,0.67)を示した.これは,豪雨時には,通常の降雨時とは異なる地点に林内雨が集中することを示唆する.
著者
津旨 大輔 坪野 考樹 三角 和弘 立田 穣 豊田 康嗣 恩田 裕一 青山 道夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

A series of accidents at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant following the Great East Japan Earthquake and tsunami of 11 March 2011 resulted in the release of radioactive materials to the ocean by two major pathways: direct release from the accident site and atmospheric deposition. A 6 years, regional-scale simulation of 137Cs activity in the ocean offshore of Fukushima was carried out by the Regional Ocean Model System (ROMS), the sources of radioactivity being direct release, atmospheric deposition, the inflow of 137Cs deposited into the ocean by atmospheric deposition outside the domain of the model, and river discharges.Direct releases of 137Cs were estimated for 6 years after the accident by comparing simulated results and measured activities adjacent to the accident site. In addition, river discharge rates 137Cs were calculated by multiplication between river flow rate and 137Cs activity. River flow rates were simulated by a water circulation analysis model for each catchment. Temporal change of 137Cs activity both of particle and dissolved forms were measured at 8 rivers and normalized by the inventory of 137Cs in each catchment. 137Cs activity in other 4 rivers were estimated by the normalized 137Cs activity and inventories of catchments. After 2013, direct release and river discharge were dominant for input of 137Cs to the ocean. Apparent half-life of direct release and river discharge of were estimated to be about 1 year and 2 years, respectively.Apparent half-life of measured 137Cs activity adjacent to 1F NPP was about 1 year, on the other hand, the ones in the coastal zone away from 1F NPP were about 2 years after 2013. Apparent half-life of simulated results with river discharge was in good agreement with the one in the coastal zone away from 1F NPP. River discharge affected on temporal change of 137Cs activity there. On the other hands, simulated 137Cs activities with river input were one order of magnitudes smaller than observations. This underestimation suggests modifications of river input process, such as estuary mixing process, removal from particle form 137Cs and inputs from small rivers around the 1F NPP.
著者
川崎 雅俊 安部 豊 恩田 裕一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2017年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.99, 2017 (Released:2017-12-01)

強間伐が流出に及ぼす影響を評価する為、隣接する2つの小流域を用いて強間伐の有無による流域比較試験を行った。その上で、林内雨量、表面流量の強間伐前後の変化も踏まえ、強間伐が流出に及ぼす影響発生メカニズムの考察を行った。その結果、強間伐施業を行った流域で総流出量が増加したが、その増分は渇水時に発生しており、豊水時の変動は僅かであった。渇水期に流量が増加した原因として、流域内貯留量、特に渇水時に安定的に水を供給する岩盤中の地下水の増加が推測される。そこで、岩盤地下水の地下水位とのよく相関する先行降雨指数(API)を用いて解析を行った。その結果、強間伐実施後、特に夏期の降雨シーズン後において、同じAPIでも流量が増加する傾向が見られた。この結果は、強間伐による林内雨量の増分が、貯留量、特に岩盤中の地下水貯留量の増加に寄与したことを示していると考えられる。APIに対する岩盤地下水位や流出の応答特性は、地質によって異なることが知られている。本サイトで基底流出と良い相関がみられたAPIの半減期(10日)は、堆積岩サイトと比べて長く、この緩やかな降雨流出応答の特性が、強間伐による林内雨量増を渇水時の流量増に変換した可能性が考えられる。今後は、地質の異なる他流域の観測結果との比較を行い、強間伐による流況の平準化に必要な要素について、検討を試みる予定である
著者
恩田 裕一 谷口 圭輔 脇山 義史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島原発事故後5年間のモニタリングによって,福島河川中の放射性セシウム濃度は激減した。本発表では,その低下要因および濃度がチェルノブイリより1桁低いことをを紹介する。また,除染の効果についても算定したのでその結果も報告する。
著者
加藤 弘亮 恩田 裕一 Saidin Zul 山口 敏朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

本研究では、福島第一原子力発電所事故後4年間にわたって、森林樹冠に捕捉された放射性セシウムの林床への移行状況の観測を実施してきた。スギ人工林の2林分(31年生壮齢林及び18年生若齢林)とコナラ・アカマツからなる広葉樹混交林を対象として、樹冠通過雨、樹幹流、落葉等に含まれる放射性セシウム濃度を測定した。また、サーベイメータと可搬型ゲルマニウムガンマ線検出器を用いて、林内の異なる高度における放射性セシウムの計数率と空間線量率の測定を行った。調査対象森林において、林内の空間線量率は、樹種や林齢によって異なる特徴的な垂直分布を示した。また、林内空間線量率はいずれの森林においても時間とともに指数関数的な低下傾向を示したが、測定高度や樹種によって異なる低下速度を示した。樹冠(およそ10 m高)の空間線量率は物理減衰速度よりも早く低下したが、林床(1 m高)の空間線量率は調査森林によって異なる低下傾向を示した。本研究の観測結果から、林内空間線量率は樹種や林齢による樹冠から林床への放射性セシウム移行状況の違いを反映して空間的・時間的に異なる時間変化を示すことが示唆された。また、林内空間線量率の低減は、原発事故後4年間(平成23年~26年)とその後の2年間(平成26年~27年)で異なる傾向が認められた。このことから、林内空間線量率の長期変化傾向を予測するためには、林内の放射性セシウムの移行メカニズムと空間分布の時間変化を解明することが必要であることを示した。
著者
恩田 裕一 山本 政儀 山田 正俊 北 和之 竹中 千里 浅沼 順 中島 映至 篠原 厚 神田 穣太 五十嵐 康人
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

1.領域内の相互啓発と情報共有:全計画研究班の研究が円滑に進むよう統括を行った。WEB中継会議システムを活用して全構成員間のより緊密な連携を図った。 2.研究支援活動:「データベースワーキンググループ」を統括し、事故発生以降の環境データ、モデリングデータ、分析データを使いやすい形で整理し、関係研究者に提供した。また「分析チーム」を統括し、分析がIAEAスタンダードになるようproficiency testの結果を反映させた。3.公募:各計画研究の補完・推進を目的として採択した第ニ期公募案件について研究支援を行った。
著者
恩田 裕一 辻村 真貴 野々田 稔郎 竹中 千里
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 = JOURNAL OF JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY & WATER RESOURCES (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.688-694, 2005-11-05
被引用文献数
9 18

近年,林業労働力の不足,材価の低迷のため,適切に管理されずに放置され荒廃した林分が年々増大している.従来の研究によれば,人工林,特にヒノキ一斉林では,樹冠の閉鎖が進むと下層植生が消失し,浸透能が低下することが知られていたが,従来の浸透能測定法では,裸地化した林床における浸透能を正確に表現していない恐れがある.そこで本研究では,冠水型浸透計,霧雨散水型浸透装置,樹幹上から散水をする大型の浸透計を用い林内における浸透能の把握をすることを目的に研究を行った.その結果,霧雨散水型が294-670 mm/h,冠水型浸透計での測定値は,210-456 mm/h程度とかなりばらつきが多く,また,非常に高い浸透能を示す.これに対し,降雨強度35-45 mm/hの人工降雨を4回,林冠上から散水した結果,浸透能は26-34 mm/hと一桁低い値で比較的安定した値を示した.人工降雨型の浸透試験器は,スプリンクラーにより樹冠上から散水されるために,雨滴径も大きく,林内雨を再現していると考えられるため,人工降雨型を用いた場合の値が,林床が裸地化したヒノキ林の浸透能を示すとするのが妥当であり,他の方法では過大な値を得る結果となる可能性が高い.
著者
恩田 裕一 湯川 典子
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.399-407, 1995-09-01
被引用文献数
22

われわれは第1報において,ヒノキ林において下層植生の失われたところではクラストがあり,浸透能が低いことを示した。そこで,室内実験において,下層植生のクラスト形成抑止効果に関する実験を試みた。実験材料は現場A層(鈴鹿山地の花崗岩土壌および古生層土壌)を4mmの篩でふるったものを用い,28.5cm×17.0cm×14.0cmの容器にさまざまな植生を植えて降雨実験を行った。その結果,花崗岩土壌では,被度と浸透能の相関が高いことがわかった。一方, 古生層土壌では, 被度と浸透能の相関は低いが,それぞれの植生の葉面積と浸透能の関係には高い相関が認められた。中古生層土壌の方が団粒百分率が大きく,クラストが形成されやすいと考えられることから,雨滴エネルギーを抑止しクラスト形成を妨げる効果は,被度により支配されるが,葉の面積が大きいほど効果的であることがわかった。