著者
水嶋 崇一郎 平田 和明
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.19-29, 2013 (Released:2013-06-21)
参考文献数
69

本研究では,性別判定における大腿骨骨幹部の有用性について論じるため,大腿骨骨幹中央部断面形状の性的二型性について調査した。資料は愛知県保美貝塚遺跡出土の縄文人31体(男性14体,女性17体,約3000~2300 BP),明治・大正期の関東地方人42体(男女各21体,年齢範囲20~50歳)の個体骨格を用いた。内部断面計測ではマイクロCT装置を導入した。画像処理にはImageJとCT-Rugleを使用した。解析に際しては断面特性値ごとにWilksのλと男女的中率を算出した。その結果,2集団に共通して,大腿骨骨幹中央部では骨質断面積が最良の性判別指標であることがわかった(縄文人:λ = 0.230,的中率96.8%,現代日本人:λ = 0.469,的中率85.7%)。また縄文人では骨体中央矢状径,外周,外形断面積,最大断面2次モーメント,断面2次極モーメントにおいても90%超の高い確度で男女が正判定された(λ:0.311~0.362,的中率:93.5~96.8%)。一方,現代日本人では骨質断面積以外の項目を個別に適用しても信頼性の高い判別はなされなかった(λ:0.514~0.876,的中率:61.9~81.0%)。本研究では,性別不明のヒト骨格において,大腿骨骨幹中央部の骨質断面積が非常に有力な判別指標となることが示唆された。
著者
水嶋 崇一郎 坂上 和弘 諏訪 元
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.112, no.2, pp.113-125, 2004-12-01
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

縄文時代晩期に属する盤状集積葬の特徴と意義を論じるため,愛知県保美貝塚の盤状集積2例(1号集積人骨87標本,B集積人骨52標本)について基礎データを示し,同貝塚出土の個体埋葬人骨31体と比較した。具体的には盤状集積人骨群の全標本について再鑑定を行ない,最小個体数,部位構成,年齢構成を求めた。また両盤状集積で最も多く保存されている大腿骨を用いて性構成を推定した。性別の判定に当たっては,寛骨の形態特徴により性別が決定された個体埋葬人骨群において基準を設け,それを盤状集積人骨群に適用した。中でも大腿骨骨幹中央部の断面積が性別判定の有力な指標となり得ることが判明し,本研究においては性構成推定の確度の向上に貢献した。保美貝塚の盤状集積葬の骨構成については,保存部位が下肢主要長骨に偏っていること,1号集積には14個体以上(成人男性4体,成人女性6体,成人性別不明1体,幼若年3体),B集積には6個体以上(成人男性3体,成人女性2体,幼若年1体)の人骨が含まれていることが明らかとなった。また,盤状集積葬と個体埋葬の男女それぞれについて形態特徴と力学的な頑丈さを調べたところ,両埋葬人骨群間では大腿骨のサイズや力学的な頑丈さに明確な違いが見られなかったが,盤状集積人骨群の男性大腿骨が有意に柱状性を示した。盤状集積葬の時代的地域的分布の偏りと本研究における部位構成と個体数情報は,盤状集積葬が意図的な再発掘と再葬に基づいていたことを示唆するものである。柱状性の発達した男性大腿骨が本盤状集積で卓越している理由は幾通りか考えられるが,一つの解釈として,生前に特定の社会的地位や生業に属していた集団,もしくはある血縁集団に対して盤状集積葬が適用された可能性が考えられる。<br>
著者
水嶋 崇一郎 諏訪 元 平田 和明
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.97-113, 2010 (Released:2010-12-21)
参考文献数
60

成人期縄文人の四肢骨骨幹部は現代日本人より断面が太く扁平であることが知られている。本研究では,胎生8ヶ月から生後3ヶ月にわたる縄文人と現代日本人の主要四肢骨を用いて,骨幹中央部の各種の断面特性値を群間比較することにより,従来指摘されてきた頑丈性と扁平性の成因について改めて考察した。資料は縄文人49個体,現代日本人185個体の上腕骨,橈骨,尺骨,大腿骨,脛骨,腓骨を用いた。内部断面計測では高精細のマイクロCT装置を導入した。解析においては各四肢骨の骨幹長を相対的な年齢指標とみなし,骨幹長を共変量とする共分散分析を実施した。その結果,全身の四肢骨にわたり,縄文人の骨幹は一貫して現代日本人より外径が太く,断面上の骨量が多く,力学的に頑丈な傾向にあり,さらには二集団の断面拡大パターンの間に有意な違いはないことがわかった。二集団の外部形状と骨分布形状は胎児・乳児期を通じてほとんど変化しておらず,大半の四肢骨の断面示数において有意な集団差は認められなかった。ただし,縄文人の大腿骨の外部形状は一貫して現代日本人より前後方向に扁平であることがわかった。本研究では,成人期縄文人で指摘されてきた骨幹部形質のうち,外径の太さ,骨量の多さ,さらに大腿骨骨体上部の相対的に前後径が短い(内外側方向に長い)扁平さに関しては,既に胎生期にそれらの傾向が存在し,発生初期におけるパターン形成の影響が示唆された。
著者
平田 和明 長岡 朋人 澤田 純明 星野 敬吾 水嶋 崇一郎 米田 穣
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

赤星直忠博士を中心とする横須賀考古学会は,1967~1968年に神奈川県三浦市所在の雨崎洞穴遺跡(弥生~古墳期)において発掘調査を行った。本研究で出土人骨の整理を行なった結果,非焼骨について,大腿骨がもっとも残存する部位であり,その最小個体数は19体であった。死亡年齢や性別の構成を見ると,本人骨群には少なくとも成人男性3体,成人女性1体,性別不明成人11体,未成人5体の20体が含まれた。焼成人骨について,各部位の出土点数に基づく個体数の算定と焼成状況の復元を試みた。人骨は少なくとも33体からなり,主体は成人であるものの,未成人骨が複数確認された。