著者
永井 玉藻
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.94-109, 2018 (Released:2019-03-15)

19世紀のパリ・オペラ座において、バレエの伴奏は弦楽器奏者の仕事だった。彼ら伴奏者は、当時のバレエ・カンパニーに必須の存在であり、日々のリハーサルのために、弦楽器伴奏者専用のリダクション譜も作成されていた。バレエ伴奏が弦楽器によって行われていたことは、ワイリーやスミス、デイらによって言及されてきたが、その詳細には未だ不明な点が多い。 そこで本稿では、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのオペラ座におけるバレエ伴奏者について、彼らの人物像や劇場での立場の解明と、弦楽器奏者によるバレエ伴奏が衰退した時期の特定を試みた。 今日、フランス国立文書館や、フランス国立図書館分館のオペラ座図書館には、19世紀のオペラ座に関する資料が多く所蔵されている。それらのうち、19世紀後半にオペラ座で稽古伴奏を行っていたバレエ伴奏者に関する書類を精査したところ、当該時期のオペラ座監督の義務書が、バレエの稽古のために伴奏者、あるいはヴァイオリン奏者を雇用すると定めていたことが明らかになった。 さらにこの職務は、ほとんどの場合において、オペラ座オーケストラの弦楽器奏者2?3人によって担われていた。彼らには、オーケストラ奏者としての給与とは別に、伴奏者としての給与も支払われていた。したがって、バレエ伴奏は、当時としては非常に珍しく、オペラ座から許可された副業として位置付けられていたと言える。しかし、その社会的地位は、オペラの稽古伴奏者に比べて極めて低いものだった。 こうした弦楽器のバレエ伴奏者は、1920年代ごろまで活動していた可能性が高い。その後はピアニストによる伴奏へ移行し、今日のようなピアノでの伴奏が一般的になった。しかし、バレエ伴奏は19世紀半ばからオペラ座の一役職として認知されており、その伴奏には、必要な才能や条件があると考えられていたのである。
著者
永井 玉藻
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-26

本研究「フランシス・プーランクのオペラ作品におけるドラマトゥルギー」は、20世紀フランの作曲家、フランシス・プーランクのオペラ《カルメル会修道女の対話》を題材に、作品の資料調査とその分析を行うことで、作品のドラマトゥルギーの変遷とその意義を考察するものである。当該作品は、これまで多くの研究が行われてきた一方で、最も基礎的な資料研究が完全に欠落していた。そのため、作品の一次資料に関する情報が正確でないだけでなく、作曲中に繰り返し行われた変更や、改訂の詳細が、全く明らかになっていなかった。にもかかわらず、先行研究では繰り返し、作品の書法研究などが行われてきたのである。こうした状況に基づき、平成26年度には、2014年5月に資料調査(イタリア・ミラノのブライデンセ国立図書館リコルディ・アーカイブにおける調査)を行った。これにより、作品の一次資料に関するほぼ完全なデータを収集することができた。これらの結果は、2014年11月に行われた日本音楽学会第65回全国大会にて発表し、作曲家の自筆楽譜資料に基づいた分析を発展させた実証的な論を展開することができた。発表では、これまで公開されていなかったプーランクの自筆譜を、日本で初めて紹介することができ、その資料的価値を改めて検証することができた。一方、昨年度に複数行った海外での研究発表で出会った海外の研究者とは、年度を通してさらに密な関係を築くことができた。こうした活動を元に、博士論文の本格的な執筆が順調に進み、執筆の大筋が終了した。現在は、フランス語の訂正と本文の見直しを行い、また審査員の先生がたにもアドバイスをいただくなどしている。