著者
ドル クレメンス 山﨑 みのり
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

かつて広く使用された5弦チェロの衰退は、音楽史の推移からチェロに求められる音量と音質の変化が最大の理由と推察されるが、その詳細な資料は少ない。本研究は「多弦隆盛時の名工の5弦チェロ製作値をもとに現代の良質な素材で5弦チェロを製作、音響特性を試奏し、4、5弦楽器の為の多様な楽曲を5弦チェロで演奏する可能性の追求」を目的としたものである。結果、その音響特性は想定を下回るもので、一部例外を除き、5弦チェロは4弦チェロに比肩する楽器たり得ないことが判明した。しかしながら、本研究で得た楽曲製作や試奏結果などの詳細なデータは、多弦楽器の使用を試みる奏者、製作者の考察の一助となったこともまた明らかである。
著者
楢崎 洋子
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筆者の区分による三善晃(1933〜)の作曲活動の第1期(1950年代から1960年代半ばまで)を対象にした平成18年度の研究に引き続き、平成19年度は1960年代後半以降を対象に器楽作品と声楽作品の相互関係を考察した。その結果、第2期(1966年〜1971年)には合唱作品において、複数の声の響きと器楽による言葉のアーティキュレーションと音響化が認められ(たとえば《四季に》《王孫不帰》)、その手法は第3期(1972年〜1984年)における合唱とオーケストラのための3部作(《レクイエム》《詩篇》《響紋》)の合唱とオーケストラにも認められる。第4期(1985年〜1994年)における、合唱を2群に分けるほかピアノを2台にする等の編成の大規模化は、第2期、第3期における声と器楽の響きによるデクラメーション手法の延長にとらえられる。第5期(1995年〜)には三善にとって初のオペラとなる《遠い帆》(1999)を書くが、《遠い帆》では歌唱パートが朗唱に徹する傾向にあるのに対し、合唱とオーケストラのための《三つのイメージ》(2002)においては、言葉の音響化に創出的なデクラメーションが認められる。三善の構想する「オペラではないオペラ」は、オペラと銘打った作品においてよりも、声と器楽を複合させた作品において具現されている。また、声を伴わないオーケストラのための4部作(《夏の散乱》《谺つり星》《霧の果実》《焉歌・波摘み》)においては、三善がそれまで追求していた死と生の関係、あるいは個々の人間存在とそれらの関わりが、独奏楽器とオーケストラの関係やオーケストレーションに追求されている。
著者
楢崎 洋子
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本の作曲界が活発になる1930年代から第二次大戦後にかけての日本の作曲家によるオーケストラ作品を対象に、交響曲と題する作品と、交響曲と題さない作品との間に、どのような意識の違いと作風の違いがあるかを、作曲家の言説のほか第三者による評価、および実際の作風を通して考察した。その結果、交響曲と題する作品においても、モデルとされた独墺の交響曲の諸手法と形式を用いながらも、それらを凌駕するような日本的要素に由来すると思われる諸特徴が支配していることを指摘した。
著者
志内 一興
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

「古代ギリシア・ローマ世界における呪詛行為の持つ社会的効用についての基礎研究」と題して研究を進めた。古代ギリシア・ローマ社会におけるコミュニティ内の緊張の緩和、及び紛争解決の方法理解には、従来は法に基づく「公的・合理的」な解決策の図式が重視されてきた。しかし多数発見されている「呪詛文書」は、公的なレベルに浮かび上がることの稀な、「私的・非合理的」緊張関係の緩和方法が、古代社会において重要な働きをしていたことを示唆していたからである。三年にわたる研究の結果、古代社会における紛争解決を、これまでとは違った視点から理解するための、あらたな視点の基礎を築くことができたものと思う。
著者
楢崎 洋子 阿部 正樹 橋本 遼平
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

オーケストラ作品や器楽作品にオリジナルな作風が認められるとともに、声楽作品やオペラ作品も書いている日本の作曲家の作品を対象に考察すると、たとえばオペラ作品において言葉に声、オーケストラが重なって、複数のメディアの複合的というよりも一元的な関係が認められるため、その関係を表す適切なジャンル名称の必要性を示唆する。