著者
久我 清 浦井 憲 入谷 純 永谷 裕昭
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

現在の一般均衡理論(GE),就中,伝統的な企業理論がその記述に重要な理論構成要素であるはずの予算制約式・販売・産出投入・在庫活動等の記述を行っていない。そのような非現実的なあり方を改めて,企業は財を所有し,家計のように予算制約式をもち,産出投入・販売購入・在庫設備投資計画を策定し実行する森嶋(1950,1992,1996)型の構造をもつものと規定した。現在のGEにおける均衡解の存在とそのパレト効率性命題が企業を単なる利潤最大化原理に依る組織と見る法人擬制説に依存している事とは対照的に,我々は市場の構造を多期間型一時的均衡として追求し,企業がいずれの期間においても収支条件の制約下にあり,財所有を行う組織として利潤の現在価値の流れの総和を最大化するものと規定するとき,「厚生経済学の基本定理」が受ける制約を価格メカニズムの本質論として展開した。家族とその家計行動についても,複数のリーダーがそれぞれ異なった価値観をもって家族の意思形成を統合するメカニズムを一般均衡理論的に活写し,家族意志への連帯と個人の自由意志の共存の可能性を検証し,併せて,予算制約式のみならず,家計も産出投入・販売購入・在庫設備投資計画を策定し実行する経済活動主体たちの集まりとして規定した。このような流れと従来のアプローチを統合的な視野から検討することもまた重要である。完全予見的な動学理論において,明らかに企業というものの像は単純化されすぎており,また一時的一般均衡理論においては市場の非完備性という問題が(そもそも完備性などありえないという立場から議論が始まっているがゆえに)議論の中心にはならず,それゆえ市場構造が明確でないという欠点が存在する。一時的一般均衡モデルと完全予見型の非完備市場一般均衡モデルとを統合的に扱うことによって,動学的経済の運行を描く最も普遍的な枠組みを提供し,同時にその範疇に入らないものを浮き彫りにしたという作業は,本研究課題における重要な成果の一つである。租税論は従来法人の資産所有を認めないモデルすなわち法人擬制説にしたがって商品課税と効率性について検討してきたが,法人実在説を念頭に置けば,法人の資産所有が明瞭に考察されねばならない。この点で,企業の予算制約の有無が,法人実在説と法人擬制説のどちらの立場をとるかへの分岐点となるが,我々の研究プロジェクトでは,法人実在説にもとずいて法人所得への課税がどの経済主体への相対的に重い課税になるかという租税帰着を研究した。
著者
久我 清 永谷 裕昭
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
Journal of the Operations Research Society of Japan (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.275-305, 1984-12

銀行・証券・郵貯をとりまく競争の激化と企業・家計側の金利選好意識の強まりは我国の金融環境を激変させずにはおかない。アメリカの金融革命においても高利回りの清算総合口座のMMFなどが焦点となったように、我国の金融新機軸の切り札は「総合口座」である。現在、総合口座は銀行・郵貯・農協・労金など凡ゆる金融機関で取扱われており、公共料金その他を清算する普通預金口座と定期預金を担保とする自動貸越契約を連動させるシステムとなっている。金融機関側は家計のメイン・バンク化というテーマから「総合口座」をセールス活動の橋頭窒としているが、翻って、家計側からすれば、このシステムをどのように利用するのが最適であるか。本論文ではこの問題が、銀行については通常の凹計画として郵貯については非凹な折れ線計画として、解き得ることを示し、その最適運用法と日常利用可能な簡易ルールを確立した。結論:普通預金残高の計画期間にわたる流れを正確に予想せずとも、計画期問の凡そ95%の日数が赤字残高になるように定期預金残高を設定するのが最適である。より簡便な方法は、毎月給与振込の3日後ぐらいでの残高がゼロとなればよい。この方法を月収30万円の家計が採用すれば、年凡そ6、000円程度の追加的利息を得る。仮に、全家計が最適運用を始めた場合、金融機関側の追加的総負担額は約6、000億円に昇る。