著者
宮脇 慎平 高橋 俊章 江川 廉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3030-A4P3030, 2010

【目的】<BR> 我々が食物を取り込む時,手と口が互いに近づき,この時,頸部・体幹・股関節の運動が起こり,また食物形態,食事道具の違いにより運動様式の違いがみられる.先行研究では,摂食時の姿勢分析に関する研究は散見されるが,食物取り込み時の頸部・体幹・股関節運動を同時に分析し,また食物形態,食事道具の違いによる運動の比較をしている研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,食物形態,食事道具の違いによる頸部・体幹・股関節運動の分析を行い,食事介助時の誘導を検討するための基礎データを得ることである.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は,右利き手の健常男性成人10名(平均年齢21.7±0.7歳)である.測定は三次元動作解析装置(VICON370)を使用し,反射マーカーは頭頂部,両側耳介上側頭部,両側肩峰,第7頸椎棘突起,第12胸椎棘突起,第1正中仙骨稜,両上前腸骨棘,両大転子,両大腿骨外側上顆,右上腕骨外側上顆,右橈骨茎状突起,座面の四隅ABCDに貼付し,頸部及び体幹の屈伸・側屈・回旋,骨盤前後傾・側方傾斜・回旋,右股関節屈伸,右肘関節屈伸の運動角度を算出した.また,動作所要時間,最大角度を呈した時期を計測した.食物形態は海苔巻き,ヨーグルト,水の3種類とし,食事道具は割り箸,スプーン,平皿,深皿,コップを使用した.課題は,海苔巻を箸で食べる(NC),海苔巻をスプーンで食べる(NS),ヨーグルトをスプーンで食べる(YS),水をスプーンで飲む(WS),水をコップで飲む(WG)の5種類とした.統計処理は,反復測定による分散分析を行い,各課題間の差の検定は多重比較検定(Tukey法)を行った.各項目での食物取り込み時角度と最大角度の差の検定は対応のあるt検定,最大角度の時期の偏りはχ<SUP>2</SUP>適合度検定を使用した.有意水準は5%とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 参加者には紙面および口頭にて研究の目的,方法,参加・協力の拒否権,もたらされる利益と不利益,個人情報の保護,研究成果の公表について十分説明を行い,同意書を得た.<BR><BR>【結果】<BR> 食物取り込み時角度では,頸部屈曲はWS(22.4±7.5:単位°)が,NC,YS,WGより有意に大きかった(p<0.05).体幹屈曲はWS(18.9±7.2)がNC,NS,WGより有意に大きく,YS(14.6±7.0)が,NC,WGより有意に大きかった.また,NS(13.5±5.5)がWGより有意に大きかった(p<0.05).骨盤前傾はWG(4.1±6.3)が,WS,YSより有意に小さかった(p<0.05).右股関節屈曲はWS(8.9±3.3)が,NC,NS,WGより有意に大きかった(p<0.05).また,YS(8.6±4.0)が,NS,WGより有意に大きかった(p<0.05).食物取り込み時角度と最大角度の比較は,頸部・体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲の多くの課題間で有意に差があった(p<0.05).最大角度の時期では,頸部屈曲の各課題が他の部位よりも「前」の割合が高く,体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲では「同じおよび後」の割合が高かった.<BR><BR>【考察】<BR> NCでは,固形物は箸で挟むと口に近づけて取り込めるため,他課題に比べ各関節の屈曲角度が小さかったと考えられた.NSでは,スプーン上方から食物を覆うようにして取り込むため,頸部屈曲が大きく,体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲角度が小さかったと考えられた.YSでは,半固形物はこぼれる可能性は高いが,スプーンに留められるため,体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲角度がWSよりも小さい.また取り込み時,口腔内にスプーンごと入れる必要があり,頸部屈曲が小さくなったと考えられた.WSでは,液体は半固形物に比べてこぼれやすく,スプーンの位置を固定しながら全身を屈曲させて食物に近づくため,他課題よりも,頸部・体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲角度が大きいと考えられた.WGでは,ほぼ上肢の運動のみでコップを口に近づける.頸部屈曲位での飲水は困難であるため,頸部・体幹屈曲,骨盤前傾,股関節屈曲角度が小さかったと考えられた.また,頸部屈曲において全課題で最大角度が食物取り込み前に呈する割合が高かったことから,頸部が先行して食物に近づくことが多いと考えられた.以上のことから,食物形態,食事道具の違いによって食事介助時の誘導を考慮する必要があると考えられ,今後,臨床における食事介助の誘導方法についてさらに検討を行いたい.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 食事は生きるために重要なことであり,楽に摂食できることが望まれる.本研究では自立的な食事動作の分析を行ったが,この運動が本来食物の取り込みやすさにつながる.本研究の運動分析を,実際の食事介助の誘導に応用することにより,患者様に快適な摂食支援を提供できると考える.
著者
渡邊 慎吾 須賀 康平 小野 修 江川 廉 茂木 崇宏 櫻井 佳宏 小関 忠樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 東北ブロック協議会
雑誌
東北理学療法学 (ISSN:09152180)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.66-73, 2018-09-01 (Released:2018-09-14)
参考文献数
27

脳卒中後の痙縮は,運動機能の回復を阻害する可能性を有することから,早期に痙縮発症の要因を同定することが重要であると考えられる。そこで,本レビューは脳卒中後早期の痙縮発症の予測因子を調査することを目的とし,論文レビューを実施した。データベースはPubMedを用いた。論文検索は,“spasticity”,“post stroke spasticity”の2つの用語に“stroke”,“cerebrovascular accident”,“CVA”,“predictors”,“risk factors”を組み合わせて実施した。すべての検索は2017年5月22日までに終了した。最終的に15編の論文が採用された。痙縮発症の予測因子は,運動機能に関する報告が最も多かった。その他に,感覚機能,疼痛,年齢等の患者属性,臨床経過および脳の損傷部位が挙げられた。痙縮発症の要因を早期に同定し,リハビリテーションおよび薬物治療を実施することは,さらなる運動機能の回復や介護負担の軽減および治療コスト削減をもたらす可能性がある。