著者
須賀 康平 伊橋 光二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P3499, 2009

【目的】<BR> 咳嗽機能は呼吸器系の感染防御の重要な機構の一つである.喘息、肺がん術前、肺炎軽快後の高齢者を対象とした咳嗽力低下に関する報告では、肺実質および末梢気道の特性変化、呼吸筋の筋力低下と相互協調性低下、声門閉鎖不全などを咳嗽力低下の要因に挙げている.咳嗽力低下の要因のうち呼吸筋の筋力低下を電気刺激で補う研究は脊髄損傷を対象としたものはあるが、寝たきり高齢者を対象としたものは見当たらない.そこで今回は、寝たきり高齢者を想定し、その基礎研究として健常者を対象に擬似的咳嗽力低下状態を電気刺激で改善できるか研究を行った.咳嗽力の指標としては咳嗽時最大呼気流速(以下PCF:Peak Cough Flow)と咳嗽時最大呼気筋力(以下PEmax:Peak Expiratory max)を用いた.<BR>【方法】<BR> 本研究は内容を説明し,同意の得られた健常男性20名(年齢21.3±1.1歳、身長169.7±5.5cm、体重65.2±13.7kg、肺活量4.62±0.45L、努力性肺活量4.49±0.41L)を対象に行った.測定には呼吸機能検査機器Multi-Functional SPIROMETER(HI-801 CHEST社製)を用い、FVCモードでPCF、呼吸筋力測定モードでPEmaxを測定した.まず背臥位にて、安静吸気からの最大努力咳嗽をPCFとPEmaxにて測定し、その50%の値での咳嗽を練習させ、±10%の誤差範囲内で3回連続成功した状態を擬似的嗽力低下状態とした.この状態での咳嗽を12回行い、ランダムに6回の腹直筋電気刺激を加圧相に行い、この時のPCFとPEmaxを測定した.電気刺激の強度は10段階ペインスケールの8程度となるまで上げるという説明を対象者に対して行い、不快感を与えない程度の最大強度の設定を試みた.電気刺激条件は縦9cm横7cmの電極を腹直筋の4箇所に貼付し、周波数は50H<SUB>Z</SUB>とした.統計処理はPCFとPEmaxの各指標について電気刺激のない条件とある条件の各6回のデータを平均した.Shapiro-Wilk検定で正規性を確認し、PCFはWilcoxon の符号付順位検定で、PEmaxはt検定で検定を行い、各指標において電気刺激のない条件とある条件の差を比較した.有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】<BR> PCFの電気刺激のない条件(中央値121.55L/min四分位範囲46.00L/min)と電気刺激のある条件(中央値156.90L/min四分位範囲74.95L/min)において有意な差を認めた.PEmaxでも電気刺激のない条件(43.54±11.30cmH<SUB>2</SUB>0)と電気刺激のある条件(50.55±13.53cmH<SUB>2</SUB>0)において有意な差を認めた.<BR>【考察とまとめ】<BR> 腹直筋電気刺激によりPCFとPEmaxのどちらにも有意な増加が見られ、この方法を用いて咳嗽の介助を行える可能性が示唆された.今後、異なる電気刺激条件や、実際に高齢者を対象とした研究を行って効果を検証していく必要があると考えられる.
著者
渡邊 慎吾 須賀 康平 小野 修 江川 廉 茂木 崇宏 櫻井 佳宏 小関 忠樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 東北ブロック協議会
雑誌
東北理学療法学 (ISSN:09152180)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.66-73, 2018-09-01 (Released:2018-09-14)
参考文献数
27

脳卒中後の痙縮は,運動機能の回復を阻害する可能性を有することから,早期に痙縮発症の要因を同定することが重要であると考えられる。そこで,本レビューは脳卒中後早期の痙縮発症の予測因子を調査することを目的とし,論文レビューを実施した。データベースはPubMedを用いた。論文検索は,“spasticity”,“post stroke spasticity”の2つの用語に“stroke”,“cerebrovascular accident”,“CVA”,“predictors”,“risk factors”を組み合わせて実施した。すべての検索は2017年5月22日までに終了した。最終的に15編の論文が採用された。痙縮発症の予測因子は,運動機能に関する報告が最も多かった。その他に,感覚機能,疼痛,年齢等の患者属性,臨床経過および脳の損傷部位が挙げられた。痙縮発症の要因を早期に同定し,リハビリテーションおよび薬物治療を実施することは,さらなる運動機能の回復や介護負担の軽減および治療コスト削減をもたらす可能性がある。