- 著者
-
池田 貴儀
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.4, pp.119, 2023-04-01 (Released:2023-04-01)
多くの図書館では,○○文庫や○○コレクションと称する特定のテーマに基づいて収集された資料群を所蔵しています。これらは一般コレクションとの対比から特別コレクションと呼ばれます。資料的,学術的に価値のあるものや,オリジナルが一点しかなくて失われると二度と入手できない貴重な資料も含まれていることも多くあります。さらに個々の価値に加え,ひとまとまりの資料群として構築されたことで生まれる価値も大きいものです。そこで本特集では,コレクションの成り立ち,寄贈資料の収集・整理,デジタル保存,連携・協力,資金調達・広報など,多角的な視点から特別コレクションについて取り上げることで,その意義,役割,価値,もたらす可能性について改めて考えてみたいと思います。まず,牧野元紀氏(東洋文庫)には,モリソン文庫や岩崎文庫などを所蔵する東洋文庫の事例から,複数にわたるコレクションの成り立ちを紹介いただくとともに,特別コレクションの特色をさらに強化する収集方針,モリソン文庫受入時からの資料保存の理念,整理・利用について概説いただきました。次に,森川嘉一郎氏(明治大学)には,寄贈資料の受入・整理・活用の観点から,大規模な個人コレクションを中核とした2館のマンガ専門図書館を並行して運営するに至るまでの流れと,マンガという資料の特性について,明治大学での教育研究の位置づけや施設構想にも触れながら解説いただきました。続いて,瀬川結美氏(東京学芸大学)には,大学全体の教育デジタルコンテンツを収集・公開する東京学芸大学教育コンテンツアーカイブについて,学内他部署と連携して構築することの意義や背景,多様なコンテンツの共存による効果,システム面における対応についてご紹介いただきました。次に,小嶋悦子氏(名古屋大学)には,名古屋大学附属図書館における特定基金やクラウドファンディングなどの外部資金獲得の取り組みを中心に,広報活動,外部資金を活用したコレクションの修復やデジタル化事業についてご紹介いただきました。最後に,杉本重雄氏(筑波大学)には,図書館などにおける文化的資源の長期保存について,デジタルアーカイビングの重要な要素であるデジタル保存の観点から,基本的な特性,機能や要素などの技術的な側面,メタデータの役割や国際標準について解説いただきました。今日,特別コレクションの資料群は,紙媒体,デジタルコンテンツ,そして両者の共存という状況にあります。今後さらなるデジタル化が進むと,資料の在り方とともに,収集,整理,保存などの在り方も変化していくのではないかと考えます。多種多様な取り組みを取り上げた本特集が,今後の特別コレクションについて考えるうえでの一助となれば幸いです。(会誌編集担当委員:池田貴儀(主査),安達修介,鈴木遼香,野村紀匡,水野澄子)