著者
北村 暁夫 池谷 知明 勝田 由美 小谷 眞男 柴野 均 高橋 利保
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究はイタリアの自由主義期を対象として、議会選挙やさまざまな立法活動などの際に見られる国家と地域社会との交渉や妥協の歴史的過程を具体的に分析することにより、イタリアの「国民国家」形成の特質を明らかにすることを目的としている。本研究は共同研究であり、研究代表者、研究分担者7名、研究協力者6名の合計14名の参加者から構成され、2年の研究期間に合計6回に及ぶ研究会(研究打ち合わせ1回、研究合宿4回、他の研究会(イタリア近現代史研究会)の年次大会とのジョイント1回)を行った。この間に史料や研究文献のリスト作成や年表の作成なども行い、こうした一連の作業の成果を大部に報告書に集約した。この二年間の研究成果として以下のことが明らかになった。(1)近年の研究では1880年代後半から1890年代半ばにかけてのクリスピ時代に統治機構の大規模な改革が行われたことに注目が集まっていたが、それに先立つデプレーティス時代に国民形成に向けてのある種の構造転換が起きていた。(2)議会が多様な地域利害が議論・調整される場として、エリート層のナショナルな統合を推進する役割を果たしていた。(3)南部問題は、「国民国家」形成にとって重要なモーメントの一つであった。(4)カトリック教会やカトリシズムは従来想定されていた以上に、ナショナルな統合に大きな役割を果たしていた。(5)多様な地域的利害を交渉・調整していくうえで、ローカル・エリートが果たした役割の重要性が明らかになった。以上の成果を踏まえたうえで、今後は本研究の方法を深化させるために、特定の地域社会やローカル・エリートを対象とした中央一地方関係の事例研究を推進していく必要性を確認した。
著者
池谷 知明
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_59-2_79, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
34
被引用文献数
1

イタリアの共和体制は政党によってつくられた。「政党の共和国」, 政党支配体制といった表現に示されるように, 政党は政治の中心に位置していた。1990年代半ばの選挙制度の変更と政党の交代によって第2共和制に移行したと言われるが, そこで現出したのは「政党の第2共和国」ではなく第1共和制において政党の陰に隠れていた大統領であり, 第2共和制は「大統領の共和国」と称されたりもする。第2共和制において左右の2極化と政権交代は実現したが, 安定した政党システムは確立されなかった。左右の対決政治が先鋭化したことによって, また, 多数決型政治と合意形成型制度の齟齬の中で大統領は政治過程に積極的に関与するようになった。公式の権限に加え, チャンピ, ナポリターノの二人の大統領は, 非公式の権限としてのコミュニケーション・パワーを行使し, その存在感を高め, 世論の支持を受けた。不安定な政治状況の下で, 大統領は「国の統一を代表する」 (憲法第87条1項) 役割を果たしている。
著者
池谷 知明
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.47-57,255, 2003

本論文は2001年イタリア上下両院選挙について,選挙制度と政党システムの変容に焦点を当てて検討する。1993年に導入された現行選挙制度は,上下両院とも小選挙区と比例代表の混合制度であるが,2極化とそれによる政権交代をめざした。多くの研究者によれば,2001年選挙ではこの目的は達成されたと言える。もし選挙競合の単位を選挙連合と考えるならば,この見解は正しい。1996年選挙の勝者である中道•左翼連合が破れ,中道•右翼連合のリーダーであるシルビオ•ベルルスコーニが1994年に続き第2次内閣を組織したからである。また2大選挙連合が小選挙区のほとんどすべての議席を占めたからである。しかし,選挙競合の単位を政党とみなすならば,政党システムは2極化にはほど遠く,なお破片化が確認される。破片化はとくに小選挙区で顕著である。というのも,比例区で議席獲得が困難な小政党が選挙連合内の戦略,交渉によって,小選挙区での議席獲得が可能になっているからである。1996年選挙で選挙連合の2極化と政党の破片化が示されたが,2001年選挙はこの傾向を確認する選挙であった。