著者
河野 和男
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.54-60, 1995-03-01

熱帯の大作物キャッサバ(Manihot esculenta CRANTZ)は, 農学研究先進地の温帯諸国には全くなじみのない作物であるのと, 熱帯でも小農がやせ地で作り貧乏人が食べる作物との伝統的なイメージが手伝って, 過去に組織的な研究の対象になる事は少なかった.食料としての重要性と, 加工性の高さから, 近年アフリカ及びアジアでの生産の増加が著しく, 原産地南米のコロンビアのCIATに世界を対象とする育種プログラム, アフリカ, ナイジェリアのIITAにアフリカを対象とする育種プログラムが1970年代初頭に設立された.その後, ようやく各国の育種研究体制も設立整備の方向に向かいつつある.アジアのキャッサバについては, CIATのアジア支所がタイ国研究機関と共同で基礎育種材料の育成を行い, 各国育種プログラムはこの育種材料を利用して育種を進めるという研究ネットワーク, 役割分担が効率よく進みつつある.ここから生まれた品種のいくつかは, タイ国, インドネシア等でそれぞれ数万ヘクタールに栽培面積を延ばし, 社会経済的効果を上げるところまで到達している.この間, 実際の育種遂行にCIAT側も積極的に加わる事により各国育種プログラムの育種能力は着実に向上した.著者はこれらのほぼ総ての過程に加わる事が出来た.本報文シリースでは, この仕事の奥行きと広がりを, 熱帯で農業技術協力プロジェクトに従事する研究者および技術者や, これから熱帯農業研究にたずさわる次代の農業技術者に, 経験を通して伝える事が目的である.初回はコロンビアCIAT, タイCIATの育種プログラムを, 遺伝資源の収集保全及び有用性検定とその利用を通じて紹介した.
著者
河野 和男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-15, 2012-03-01
被引用文献数
1

一般向け科学誌としては世界で最も影響力の大きいものの一つと思われる『Scientific American』の2010年5月号にキャッサバの報文が出ていた(Nassar and Ortiz2010)。内容は,キャッサバは8億人以上もの人々の食生活を支えている大作物であり,その更なるポテンシャルは最大級で,今後ますます社会の関心と研究の重要度が高まるべきものであるとする妥当なものであったが,記事のヘッドラインにもなっている「カロリー生産高で世界第3位の作物」という記述にはやや驚いた。同じ年の暮れには『品種改良の世界史―作物編』(鵜飼保雄,大澤良 編2010)という百科事典的な本が刊行されてここには21の作物種が論じられていたが,キャッサバが取り上げられていなかったのにはもっと驚いた。「世界史」というタイトルであり「人間社会を支えてきた代表的な作物を選んで」と書かれているので,この本の著者たちは世界の重要作物を何らかの客観性を持たせて選んだつもりであろう。仮にこれが今の日本の学識経験者の常識だとし,冒頭のキャッサバの扱いを世界の常識だとすれば両者の間に大きなギャップがある。これ自体興味深いが,世界の作物統計といったマクロデータと私自身の体験といういわばミクロのハードデータから,世界認識の違いや現在日本の内向き思考までを考えてみたい。