著者
佐藤 宏之 鈴木 保宏 奥野 員敏 平野 博之 井辺 時雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2001-03-01
参考文献数
20
被引用文献数
2 11

イネ (<I>Oryza sativa</I> L..) 品種コシヒカリの受精卵に, メチルニトロソウレア (MNU) 突然変異原処理を行って育成された品種ミルキークイーンの低アミロース性の遺伝子分析を行った. ミルキークイーンとその野生型であるコシヒカリを正逆交雑したF1種子のアミロース含量は両親の中間値を示したが, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF1種子よりも, コシヒカリ/ミルキークイーン由来F<SUB>1</SUB>種子の方が高いアミロース含量を示した. 従って, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子には量的効果があることが分かった. また, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF<SUB>2</SUB>集団のアミロース含量は, コシヒカリ型とミルキークイーン型が3: 1に分離し, さらにミルキークイーン/コシヒカリ//ミルキークイーン由来の戻し交雑集団のアミロース含量が, 野生型と低アミロース型が1: 1に分離したことから, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子は単因子劣性であると考えられた. 次に, イネのアミロース合成に関与する既知の遺伝子, <I>wx</I>並びに<I>du</I> 1, 2, 3, 4及び5との対立性を検定した結果, ミルキークイーンにおいて突然変異を生じた遺伝子は, <I>wx</I>の対立遺伝子であることが示唆された.
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-7, 2005-03-01
参考文献数
23
被引用文献数
4 9

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し,イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した.日本の寒冷地域で作付けされている,「ミルキークイーン」(<i>wx-mq</i>保有),「彩」(<i>du(t)</i>保有),および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と,「山形84号」(<i>wx-y</i>保有),「探系2031」,対照としてうるち品種の「つがるロマン」(<i>Wx-b</i>保有)を供試した.人工気象室,ガラス温室および自然条件を組み合わせ,低,中,高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した.「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12~23%(高温区~低温区)であり,登熟気温変動1 &deg;C当たりのアミロース含有率の変動幅(&Delta; AM/ &deg;C)は0.8~1.1%であった.これに対し「ミルキークイーン」由来の系統,ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった.一方,「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なる <i>Wx</i>座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」の1.4~1.9倍であった.「探系2031」のアミロース含有率は,「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」とほぼ等しかった.「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と,「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は,その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された.<br>
著者
田中 勲 小林 麻子 冨田 桂 竹内 善信 山岸 真澄 矢野 昌裕 佐々木 卓治 堀内 久満
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.39-47, 2006-06-01
参考文献数
31
被引用文献数
18

イネ日本型品種コシヒカリとアキヒカリの交雑F<sub>1</sub>の葯培養に由来する半数体倍加系統群を用いて,食味に関与する量的形質遺伝子座(quantitative trait loci: QTLs)の検出を試みた.食味は食味官能試験による「外観」と「粘り」,アミロース含量およびビーカー法による炊飯光沢によって評価した.その結果,第2染色体のDNAマーカーC370近傍,OPAJ13および第6染色体のR2171近傍に,コシヒカリの対立遺伝子が食味官能試験の「粘り」を増加させるQTLが検出された.また,第2染色体のOPAJ13近傍にコシヒカリの対立遺伝子がアミロース含量を低下させるQTL,第2染色体のC1137近傍にコシヒカリの対立遺伝子が炊飯光沢を増加させるQTLが検出され,「粘り」を増加させるQTLとの関連が示唆された.以上の結果から,コシヒカリの良食味には,第2染色体に見いだされる一連のQTLが大きく影響していると推察された.<br>
著者
河野 和男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-15, 2012-03-01
被引用文献数
1

一般向け科学誌としては世界で最も影響力の大きいものの一つと思われる『Scientific American』の2010年5月号にキャッサバの報文が出ていた(Nassar and Ortiz2010)。内容は,キャッサバは8億人以上もの人々の食生活を支えている大作物であり,その更なるポテンシャルは最大級で,今後ますます社会の関心と研究の重要度が高まるべきものであるとする妥当なものであったが,記事のヘッドラインにもなっている「カロリー生産高で世界第3位の作物」という記述にはやや驚いた。同じ年の暮れには『品種改良の世界史―作物編』(鵜飼保雄,大澤良 編2010)という百科事典的な本が刊行されてここには21の作物種が論じられていたが,キャッサバが取り上げられていなかったのにはもっと驚いた。「世界史」というタイトルであり「人間社会を支えてきた代表的な作物を選んで」と書かれているので,この本の著者たちは世界の重要作物を何らかの客観性を持たせて選んだつもりであろう。仮にこれが今の日本の学識経験者の常識だとし,冒頭のキャッサバの扱いを世界の常識だとすれば両者の間に大きなギャップがある。これ自体興味深いが,世界の作物統計といったマクロデータと私自身の体験といういわばミクロのハードデータから,世界認識の違いや現在日本の内向き思考までを考えてみたい。
著者
Chotechuen Somsong Watanesk Orapin Chitrakon Songkran
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.61-64, 2009-06-01
被引用文献数
1

タイは513,115km2の面積と約6500万人の人口を持つ国であり、主要な産業は農業である。76の州に分かれ、それらは北部、北東部、中央部、南部の4つの地域グループに分類されている。ほとんどの地域は熱帯に属し、2つの季節を持つ。暖かく多雨で曇りがちの南西モンスーン(5月中旬から10月まで)と、涼しくて乾燥した北東モンスーン(11月から4月中旬まで)である。しかし南部の地峡地帯はいつも高温多湿である。極めて多様な種類の農作物が栽培されているため、農業が行われている地域ではさまざまな生態型が見られる。いくつかの在来種の作物、なかでも特にコメが、かつて栽培されていたし、現在も栽培され続けている。コメの在来種としてはPlai Ngahm、Nahng Mon、Leuang Pratew、Jek Chuey、Sang Yodなどがある。農業生態学的な分類方法によると、タイの国土は4つの生態系に分けられる。つまり灌漑農耕地域、天水農耕が行われる低地、地下水利用地域、そして高地である。コメの栽培が一番多いのは天水農耕が行われる低地であり、次いで灌漑農耕地域、地下水利用地域、高地が続く。コメ栽培が行われる地域の80%以上が天水農耕地域にあり、そこではモンスーンの降雨が唯一の水源であるため、年に一度、雨季にだけコメが栽培される。残りの20%以下の土地で灌漑農耕が行われており、そこでは灌漑用水のおかげで雨季だけでなく乾季にもコメが栽培されている。
著者
吉田 俊雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.103-107, 2003-09 (Released:2011-03-05)