著者
森田 大 河野 龍而 黒岩 敏彦 冨士原 彰
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.309-319, 1995-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,以下SAHと略す)発症時の多彩な心電図変化はよく知られている。このうち,ST上昇を呈する症例の冠動脈所見ならびに左室壁運動に注目した報告はない。1988年10月から1994年2月に経験したSAH226例のうち21例(9.3%)に入院時心電図でST上昇が認められ,このなかの8例に検討を加えた(ST群)。対象は頭部CTにてFisherのgroup分類がST群のそれに類似し,入院時にST上昇を認めない5症例とした(C群)。冠動脈造影と左室造影は破裂脳動脈瘤確認造影時に引き続き,ST群はST上昇の持続している入院9.3±6.4時間に,C群は入院9.1±4.5時間後に行った。左室局所壁運動の解析にはcenterline法を用いた。ST上昇はST群全例にV4からV6誘導にみられた。ST群の冠動脈には攣縮や器質的病変による閉塞所見は認めなかった。ST群の左室心尖部の局所壁運動はC群に比べ有意に低下していた(-2.58±1.03 vs -0.45±1.61, p<0.04)。ST群の1例は入院2日目に死亡した。経過中の心超音波検査にて壁運動は回復傾向にあった。ST群のうち3例に発症3週後の慢性期冠動脈,左室造影を行ったところ,局所壁運動は急性期のそれに比べ改善していた(-3.15±0.10 vs -1.22±0.72, pp<0.05)。発症3週後の心電図ではST群5例にT波の陰性化と,その5例のうち3例に新たな異常Q波が認められた。C群ではT波の陰性化やQ波の出現はなかった。ST上昇を伴うSAH症例にみられた一過性の左室心尖部における壁運動低下は気絶心筋といえるが,その機序は不明である。