1 0 0 0 OA ペンギン

著者
津田 とみ 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.47-52, 2001 (Released:2017-03-30)
参考文献数
14

鳥類でのDNA研究はシブリーらによるDNA-DNAハイブリダイゼーションによる解析を経てその後多くはミトコンドリアDNAによる研究がすすめられてきた. 第4回の国際ペンギン会議(2000年9月, チリ)での演題も多くはペンギンの行動生理学や繁殖保護に関するものであり, DNAの分析の手法を用いた発表は, ミトコンドリアDNA, マイクロサテライトと私たちのペンギンMHC(Major Histocompatibility Complex主要組織適合抗原複合体, MHCと略す)の3件であった. いずれも参加者から高い関心と期待を寄せられた. MHC解析の有用性が関心を呼んだのだろうか, MHC分析をしてみたいとのいくつもの申し出があった. ペンギン研究の舞台へのMHCの初登場は成功をおさめたようである. 本稿では, MHCの舞台でペンギンとペンギンMHCを含めたペンギンDNA研究の現況を披露したいと思う.
著者
津田 とみ 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.345-357, 2008

<p>現存のペンギン類は, 9,000種にもおよぶ多種の鳥類のなかで, 陸上を移動するときの動作の特色ばかりでなく, 成鳥が空を飛ばないことや, ヒナは親の保護に完全に依存して成長する就巣性であることなど, の特色を有する. ペンギン類の棲息地は南半球に限られている. 約5,000万年前から現在に至るまで分岐と進化を重ね, 極寒の南極から, 赤道直下のガラパゴス諸島まで, 厳しい自然環境に適応しつつ進化してきたことが推測されている. 一方, 主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;MHC)は脊椎動物の免疫応答において外来抗原を捕捉しT細胞に提示するという重要な役割を担い, 遺伝的多型性を獲得してきたことがよく知られている. ペンギン類は極域から熱帯域へと分布が広く, 外来抗原とのかかわりも他の動物種とは異なりその結果, 特徴的なMHC多型を持つであろうと私たちは予測した. MHC遺伝子の多型解析はヒト, マウスなどで近年急速に進み, 特にヒトでは疾患感受性との関連など応用範囲を広げている. しかし鳥類でのMHC解析は, ニワトリおよびウズラではMHCのB領域の全配列が決定されたが, 他の鳥での報告はまだ稀である. 私たちは, ペンギン類を含む海鳥類のMHC遺伝子多型解析がペンギン類の進化を系統的に検討するための有効な手段になることを報告し, 現在までにアデリーペンギン属の3種やフンボルトペンギン属の2種, 他の属についても, MHCクラスII第2〜第3エクソン領域のゲノム塩基配列の解析をすすめてきた. 本稿では, ペンギンMHCの全容を述べることは果たせないが, ペンギンMHC(SpLA)を興味ある, そして価値ある研究対象として紹介したい.</p>