著者
中岡 博史 細道 一善 光永 滋樹 猪子 英俊 井ノ上 逸朗
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.37-44, 2014-04-20 (Released:2014-04-20)
参考文献数
28

HLA領域の遺伝的多型は医学分野のみならず,人類の移住,混合,自然選択や遺伝的適応といった進化過程を推測する集団遺伝学においても重要なツールとして用いられている。日本人の起源については諸説あるが,約30,000年前の後期旧石器時代に日本列島へと移住してきた狩猟採集民である縄文人と,紀元前1,000年から西暦300年頃に朝鮮半島から日本列島へと移住してきた弥生人の祖先が混血して,現在の日本人集団の起源になったとする“混合モデル”が有力であると考えられている。本稿では,日本人集団の混合的起源を支持する遺伝的知見について概説するとともに,HLA遺伝子多型から日本人の祖先集団を推測する遺伝的痕跡の探索について,最新の研究を紹介したい。
著者
太田 正穂 浅村 英樹 高柳 カヨ子 福島 弘文 猪子 英俊
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度、HLA遺伝子多型について日本人と他の集団における遺伝子頻度、ハプロタイプ頻度の分布の比較を行い、そのデータベースを作成した。東北アジアに位置する日本民族は、韓国、東南アジアを経た幾通りの民族移動により形成されていることが、HLAの遺伝子頻度やハプロタイプ頻度、さらには対応分析から明らかであった。このような経緯から日本人には、近隣の民族と共通するHLA遺伝子やハプロタイプも存在するが、近隣の民族とは異なった日本人に特徴的なHLA遺伝子やハプロタイプも確認できた。実際の検査で、他民族と共通性の示すHLA遺伝子やハプロタイプが得られたときの解決策として、HLA領域内にあるマイクロサテライトの有用性を検討した。はじめに日本人、イラン人、ギリシャ人、ヨルダン人、イタリア人、カナダ人のDNAを用いてHLA-B座近傍のマイクロサテライトタイピングを行い、各ローカスの遺伝子頻度分布を作成した。つぎにHLA型がホモ接合体である64種類のセルラインを用いて、同型ハプロタイプ間でのマイクロサテライトのアリルの比較を行った。さらに、日本人で最も多く見られるハプロタイプをもつ人のDNAを用いて角解析を行った。これらの結果、HLAが一致したハプロタイプを保有していても、HLA遺伝子間に存在するマイクロサテライトを調べることにより、より詳細な識別が可能であった。以上から微量、陳旧性資料を日常扱う法医鑑定実務では、高感度で精度が良いHLA-SPP法によるHLAタイピングとHLA領域内にあるマイクロサテライト解析は人種判定に有効な方法であることが示唆された。しかし、HLA遺伝子多型では、十分条件ではないので、今後ミトコンドリDNA多型、Y染色体上のマイクロサテライト、常染色体上のマイクロサテライトに関して日本人を含めた世界的な規模でのデータベース作成が必要であると考える。
著者
猪子 英俊 岡 晃 遠藤 高帆 大塚 正人 良原 栄策 平山 令明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

摂食障害は90年代後半より若年層を中心に急増した精神疾患であり、治療法や予後予測法の確立が待ち望まれる。我々は、マイクロサテライトを用いたゲノムワイドな相関解析法により新たに見出した拒食症感受性遺伝子群について、その分子機能解明の鍵となる多数の相互作用を同定するとともに、83アミノ酸から成る領域等、創薬ターゲットとして有望な機能ドメインを特定した。

1 0 0 0 OA ペンギン

著者
津田 とみ 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.47-52, 2001 (Released:2017-03-30)
参考文献数
14

鳥類でのDNA研究はシブリーらによるDNA-DNAハイブリダイゼーションによる解析を経てその後多くはミトコンドリアDNAによる研究がすすめられてきた. 第4回の国際ペンギン会議(2000年9月, チリ)での演題も多くはペンギンの行動生理学や繁殖保護に関するものであり, DNAの分析の手法を用いた発表は, ミトコンドリアDNA, マイクロサテライトと私たちのペンギンMHC(Major Histocompatibility Complex主要組織適合抗原複合体, MHCと略す)の3件であった. いずれも参加者から高い関心と期待を寄せられた. MHC解析の有用性が関心を呼んだのだろうか, MHC分析をしてみたいとのいくつもの申し出があった. ペンギン研究の舞台へのMHCの初登場は成功をおさめたようである. 本稿では, MHCの舞台でペンギンとペンギンMHCを含めたペンギンDNA研究の現況を披露したいと思う.
著者
河田 寿子 成瀬 妙子 能勢 義介 安藤 麻子 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.10-15, 1995 (Released:2017-03-31)
参考文献数
9

HLA-DM遺伝子は, HLA-DQ,DP間に存在することが報告された新しいクラスII遺伝子であり, クラスII分子による抗原提示の過程, すなわち外来抗原ペプチドとの結合に重要な機能を担っていることが示唆されている. 本論文では, 日本人のDMB遺伝子の多型性の解析と, 他のクラスII抗原遺伝子との相関について検討した結果, 日本人においてDMB* 0101, * 0102, * 0103が確認され, さらに新対立遺伝子595newが存在することが明らかとなった. また, PCR-RFLP法での日本人一般集団の解析において, 白人とは異なる遺伝子頻度が観察された. また, 他のクラスII遺伝子との相関解析より, DMB* 0101とDPB1* 0402およびDRB1* 1502に連鎖不平衡が認められた. DMB遺伝子多型性解析は, クラスII分子が細胞膜上に発現して賦与される, いわゆる抗原提示能の解析に有用であると考えられ, また, 今後の移植医療や, HLAに相関する疾患のさらなる発症機構の究明に役立つものと期待される. HLA-DQ,DP間に存在の報告された新しいクラスII遺伝子であるHLA-DM遺伝子は, 他のクラスII遺伝子と同様にα鎖, β鎖のヘテロダイマーより形成され, mRNAでの発現は認められているものの, タンパクレベルでの同定がなされておらず, その機能は不明であった(1). しかしながら最近, DM遺伝子の欠損により, クラスII分子による抗原提示能の低下した突然変異細胞にDM遺伝子を導入すると, 抗原提示能が回復したという報告から, DM遺伝子それ自身が他のクラスII分子による抗原提示に重要な機能を担っていることが明らかにされた(2,3). DM遺伝子の多型性は, 他のクラスII遺伝子と異なり, DMA,DMB遺伝子ともに主として第3エキソンに存在する. 白人の解析ではDMA*0101〜串0104, DMB* 0101〜* 0104のそれぞれ4種の対立遺伝子の存在が報告されているが(4), 日本人での解析は行われていない. そこで我々は, 日本人HLA-DMB遺伝子について, その多型性の解析と, 他のクラスII抗原遺伝子との相関を検討したので報告する.
著者
吉川 枝里 宮原 詞子 成瀬 妙子 島田 和典 東 史啓 原 啓高 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.21-31, 2003 (Released:2017-03-30)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

蛍光ビーズを用いたLuminex法は, 簡便, 正確かつ短時間で多検体処理が可能(high-throughput)な新しい遺伝子多型判別法である. このLuminex法を用いて, HLA-A, HLA-BおよびHLA-DRB1遺伝子に関して, 日本人を対象とする4桁DNAタイピングを検討した. HLA-Aで33種類, HLA-Bで46種類, HLA-DRB1で44種類のプローブを1ウェルに混合し, 日本人集団で遺伝子頻度が0. 1%以上みられる対立遺伝子(allele)が4桁レベルで判別可能な方法を構築した. 遺伝子型が既知の138検体で検討した結果, HLA-AとHLA-Bで各々1検体, 増幅不良による判定不能があったもの以外は4桁の判定が可能であった. 本法は, HLA-AとHLA-Bについて1ウェル, HLA-DRB1について1ウェルの, 計2ウェルでタイピングが可能な, 迅速な方法であり, 計47検体について約5時間でHLA-A, -Bおよび-DRB1遺伝子の4桁レベルのタイピングが1名の検査員で行える. 特に, 大量検体を短時間で行うHLA検査方法として有用であると考えられる.
著者
津田 とみ 猪子 英俊
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.345-357, 2008

<p>現存のペンギン類は, 9,000種にもおよぶ多種の鳥類のなかで, 陸上を移動するときの動作の特色ばかりでなく, 成鳥が空を飛ばないことや, ヒナは親の保護に完全に依存して成長する就巣性であることなど, の特色を有する. ペンギン類の棲息地は南半球に限られている. 約5,000万年前から現在に至るまで分岐と進化を重ね, 極寒の南極から, 赤道直下のガラパゴス諸島まで, 厳しい自然環境に適応しつつ進化してきたことが推測されている. 一方, 主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;MHC)は脊椎動物の免疫応答において外来抗原を捕捉しT細胞に提示するという重要な役割を担い, 遺伝的多型性を獲得してきたことがよく知られている. ペンギン類は極域から熱帯域へと分布が広く, 外来抗原とのかかわりも他の動物種とは異なりその結果, 特徴的なMHC多型を持つであろうと私たちは予測した. MHC遺伝子の多型解析はヒト, マウスなどで近年急速に進み, 特にヒトでは疾患感受性との関連など応用範囲を広げている. しかし鳥類でのMHC解析は, ニワトリおよびウズラではMHCのB領域の全配列が決定されたが, 他の鳥での報告はまだ稀である. 私たちは, ペンギン類を含む海鳥類のMHC遺伝子多型解析がペンギン類の進化を系統的に検討するための有効な手段になることを報告し, 現在までにアデリーペンギン属の3種やフンボルトペンギン属の2種, 他の属についても, MHCクラスII第2〜第3エクソン領域のゲノム塩基配列の解析をすすめてきた. 本稿では, ペンギンMHCの全容を述べることは果たせないが, ペンギンMHC(SpLA)を興味ある, そして価値ある研究対象として紹介したい.</p>
著者
小牧 元 岡 晃 安藤 哲也 猪子 英俊
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

摂食障害、特に神経性食欲不振症(AN)は遺伝性が強いにもかかわらず、いまだにその原因遺伝子が同定されていない。そこで、ANの家族症例を対象に全エクソンをシークエンシングするエクソーム解析を実施し、その原因遺伝子の同定を試みた。その結果、家族内の罹患者に共有するアミノ酸置換を伴う複数の変異が見出され、その中でも特に神経伝達物質のレセプターをコードするこの遺伝子上に、神経性食欲不振症の原因変異が蓄積されている可能性が示唆された。さらにこの変異はこのタンパクの相互作用に影響を及ぼすことが推定された。今後はこの遺伝子ファミリーに限定した、さらなる変異の追及と、機能的な解析が必要であると考えられる。
著者
猪子 英俊 間野 修平
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

生活習慣病をはじめとする多因子疾患の感受性遺伝子を同定する方法として30,000個のマイクロサテライトを用いたゲノムワイドな相関解析法と事後同祖性による集団を用いた連鎖解析法を開発し、30以上感受性遺伝子を同定した。これらの感受性遺伝子の創薬に向けての機能解析として、in silicoネットワーク解析と新酵母ツーハイブリッド法の開発を行った。
著者
舘野 義男 山崎 正明 小林 薫(深海 薫) 猪子 英俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

MHCは原索・脊椎動物が偶然に獲得し進化的に精緻化を重ねてきた生物機能であるが、MHC遺伝子群だけではなく、その周りのゲノム配列を進化的に解析することにより、その進化的起源や過程を明瞭に示すことができる。この研究では、ヒト(H)、チンパンジー(C)並びにアカゲザル(R)の3種について、MHCクラスI遺伝子群中のBとC並びにクラスI関連遺伝子MICAとMICBの2組の遺伝子の起源と進化に注目をして解析を行った。2組の遺伝子は2組のゲノム重複断片に存在することが分かっている。これらの重複が進化的に何時起こったか正確に推定することにより、2組の遺伝子の起源を明らかにすることが可能となる。ただ、ここで問題になるのは、これらの遺伝子は自然選択を強く受けているので、一定の速度で進化してはいないことである。従って、重複ゲノム断片中でこれらの遺伝子と一緒に進化している中立的な配列部分を選択する必要があり、私達はLINEの断片配列に注目して解析を行った。分岐時間の推定にはLINE断片の進化速度を求める必要があるが、私達はHとCの種分岐時間を、他の研究から得られた値、5.4百万年、をもとに推定した。この速度は、中立遺伝子の速度の範囲内にあることを確認して、BとC遺伝子の分岐時間を、2.23千万年と推定した。同様にMICAとMICB遺伝子の重複時間を1.41千万年と推定した。ゲノム解析の難点は、特定のゲノム領域に存在する遺伝子や他の配列がそれぞれ異なった進化要因を受けて進化しているので、一様に解析する訳にないかないことである。従って、問題としている領域の基本的な進化関係を正確に把握しないと誤った結論に導かれる危険性がある。そこで、H、C、Rのオーソログ領域のそれぞれの進化距離を求め、Rの分岐時間を2.70千万年と推定した。このような方法でRの分岐時間を推定したのは、おそらく世界で初めての試みであり、推定値も妥当と考えられる。上記の推定値もこの推定値に照らして妥当と結論される。