著者
浅井 禎吾
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.5, pp.439-446, 2022-05-01 (Released:2022-05-01)
参考文献数
36

Discovery of natural products that possess novel chemical structures and pharmaceutical activities increases opportunities of drug development. Filamentous fungi have been recognized as an attractive source for pharmaceutically beneficial natural products. Genome sequencing innovation represented by Next-generation sequencer opened fungal genomes one after another, suggesting that one fungal strain has far more biosynthetic gene clusters than that are estimated from the number of previously isolated natural products. In addition, bioinformatics analyses have indicated that most biosynthetic gene clusters are silent under laboratory culture conditions and there are a huge number of natural products hidden in the fungal genome. Therefore, we focused on those silent biosynthetic gene clusters as a potential source for novel natural products and developed methods to activate silent biosynthetic gene clusters by using low molecular weight molecules. In this review, we describe on discovery of novel natural products through activating fungal silent biosynthesis by addition of epigenetic modifiers and plant hormones.
著者
浅井 禎吾 塚田 健人 橋元 誠 藤井 勲 五味 勝也 大島 吉輝
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p> 生物が作り出す二次代謝物、いわゆる天然物は、その化学構造の多様性は言うまでもなく、合成ライブラリーとは異なるケミカルスペースを占有していることから、依然として新規医薬品開発における魅力的な資源である。そのため、天然物をベースとした新しいケミカルスペースの開拓が重要な課題の一つとなっている。例えば、休眠遺伝子を活用した新規二次代謝物の創出に加え<sup>1,2</sup>、コンビナトリアル生合成<sup>3</sup>や天然物を起点とした多様性指向型合成<sup>4,5</sup>によるpseudo-natural productの創生などの研究も盛んに行われている。</p><p> 天然物の構造多様性は、一次代謝から供給される基本構成要素を原料とした骨格構築に始まり、続く多段階の修飾や転位反応を経る分岐的な生合成経路に起因する(図1)。すなわち、生合成上流の中間体が代謝過程で様々な構造へと変化していくことで、分子多様性が生み出されている。例えば、糸状菌のazaphilone類やmeroterpenoid類の生合成において、非還元型ポリケタイド合成酵素 (NR-PKS) が作る単環式の芳香族中間体は、実に様々な化合物へと変化する(図2)<sup>6,7</sup>。しかし、このような中間体 (multi-potent intermediate<sup>8</sup>)の活用は、もともとの生物資源での代謝だけでは、限定的なものにとどまる。そこで、生合成工学および化学反応を用いた人工的な手法により、multi-potent intermediateを多様なpseudo-natural productに変換できれば、新たなケミカルスペースの開拓に繋がると考えた (図1)。</p><p> </p><p> </p><p> </p><p> 本発表では、"Chemical Epigenetics"を利用する天然物探索法を用いて取得した構造多様なchaetophenol類<sup>9</sup>の、生合成における最初の中間体であるPM-1をmulti-potent intermediateとして着目し、Aspergillus oryzaeでの異種発現系や簡便な化学反応を用いた、多様性に富んだ新規pseudo-natural productへの展開について報告する(図3)。</p><p>① Aspergillus oryzae異種発現系を用いたポリケタイドオリゴマーの作成</p><p> これまで、Chaetomium indicumのドラフトゲノム解析およびAspergillus oryzaeでの異種発現により、 pksCH-2がPM-1の生合成NR-PKS遺伝子であることを明らかにしている<sup>9</sup>。A. oryzae−pksCH-2高発現株を各種条件にて培養し、培養液中の生成物を追跡したところ、PM-1からイソクロメン型環化体PM-2への変換が確認された。さらに、いくつかの条件では、二量化したPO-1およびPO-2の蓄積が認められた。PM-1とPM-2の野生型A. oryzae培養液への添加実験の結果、PM-1からPM-2への環化はA. oryzae内因性酵素により、PO-1およびPO-2はPM-2が非酵素的に二量化することで生成することがわかった。一方、ジアセチル化体PM-2aは二量化しなかった。また、PM-2からPO-1</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
浅井 禎吾 大島 吉輝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.112-116, 2014 (Released:2016-04-05)
参考文献数
19

天然物探索研究,いわゆる“ものとり”の醍醐味は,ヒトの想像力をはるかに超える新規な構造や薬理活性を持つ化合物を手にするところにある.しかし,今では胸躍るような新規物質との出会いはなかなか期待できず,やっとの思いで単離したものが既知化合物であったということは,天然物研究者なら誰もが経験したであろう.最近,次世代シーケンサーの登場によってゲノム科学が目覚ましく進展した.その結果,これまで多種多様な二次代謝物が見いだされた放線菌や糸状菌にあっても,そこにはいまだに多くの生合成遺伝子が利用されないまま埋もれていることが分かってきた.未利用生合成遺伝子は新規天然物の新たな鉱脈かもしれない.ここ数年,ゲノム情報に基づく手法や転写制御を利用する手法に加え,難培養微生物ゲノムを利用するメタゲノム法など,未利用生合成遺伝子を活用して新規物質を取得する新しいスタイルの天然物研究が急速に進んだ.本稿では,我々が近年力を入れている,エピジェネティック制御による未利用生合成遺伝子の活用と,そこで得られた多様な天然物を紹介したい.