著者
猪狩 彬寛 小寺 浩二 浅見 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>Ⅰ はじめに<br></b>日本の国土の70%は山地で占められており、その中には火山も少なくない。火山体が有力な貯水能をもっているということは重要(山本 1970)で、本邦でも決定的な意味を持っている。当研究室では富士山周辺や伊豆諸島での研究も古くから継続されている。今日では2016年9月27日の噴火活動以前から調査を続けていた御嶽山を中心に活火山体周辺の水環境を研究している。浅間山では周辺の水質を把握し、地域特性を明らかにすることで、水環境形成の要因を考察することを試みる。 <br><br> <b>Ⅱ 研究方法<br></b> 第1回目の調査を2015年6月20日および25日に行ない、以降約1ヶ月おきに調査を実施している。ここでは2017年5月26日の第22回までの調査の結果をまとめる。調査地点は調査を重ねていく中で徐々に増やしていき、現在は河川と降水採取地点と合わせて48地点である。現地ではAT、WT、pH、RpH、ECの測定を実施。また水のサンプリングをして研究室に持ち帰り、ろ過を済ませたのちTOCおよび溶存成分の分析を実施した。<br> <b><br>Ⅲ 結果と考察<br></b> <b>1.&nbsp; </b><b>河川(北麓)<br></b><b></b> 湯尻川や泉沢周辺では重炭酸カルシウム(Ca-HCO<sub>3</sub>)型の水質が分布し、水温・EC値共に周辺に比べ低いことが確認された。pHは7.0~7.5前後の地点が多いが、その変動は泉沢周辺で大きく、季節ごとの人為的影響が強く出ている。ECは湯尻川や泉沢で100&micro;S/cm前後だが、東の地域では地点間の変動が激しく、高羽根沢と地蔵川で200&micro;S/cm、小滝沢と濁沢で300&micro;S/cmを超え、特に片蓋川では平均値が500&micro;S/cmを超えている。<br> <b>2.&nbsp; </b><b>河川(南麓)<br></b><b></b> 地点による水質の差が北麓に比べ顕著であった。EC値の大きい地点では、Na<sup>+</sup>やMg<sup>2+</sup>などの陽イオン、HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>やSO<sub>4</sub><sup>2-</sup>などの陰イオンの比率が大きくなり、濃度も高く、pH・EC値共に高い傾向にある。<b></b> <br><b>3.降水<br></b><b></b> 山体の東側に位置する六里ヶ原および鬼押出し園の降水は、西側に位置する降水と比べpHが低くEC値が大きくなる傾向が見られた。東西でこの傾向が入れ替わる場合もあり、風向および風速の影響が示唆された。<br><br><b>Ⅳ おわりに<br></b> 浅間山南斜面を流下する濁水や北麓の夏季に異常に低い水温を示す地点など、浅間山周辺河川の特色がつかめてきたと同時に、2年間の水質の変動についてもある程度把握することができた。今後は南麓を中心に、より上流域(山頂域)の地点を調査することを計画している。<br><br> <b>参考文献<br></b>鈴木秀和・田瀬則雄(2007):浅間山北麓における湧水温の形成機構と地域特性, 日本水文科学会誌, 37(1), 9-20 <br> 鈴木秀和・田瀬則雄(2010):浅間火山の湧水の水質形成における火山ガスの影響と地下水流動特性-硫黄同位体比を用いた検討-, 日本水文科学会誌, 40(4), 149-162.<br> 早川由紀夫(1995):浅間火山の地質見学案内, 地学雑誌, 104(4), 561-571<br>
著者
諸星 幸子 小寺 浩二 浅見 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>Ⅰ はじめに</b><br>&nbsp;&nbsp; 北海道の中心にほど近い十勝岳は、上川管内の美瑛町・上富良野町、十勝管内の新得町にまたがる標高2,077mの活火山である。十勝岳では、1857年安政噴火、1887年明治噴火、1926年大正噴火、1962年噴火、1988~89年噴火と30年弱~40年弱の間隔で周期的な噴火が起きており、現在(2016年)は、直近の噴火より26年目となっている。水蒸気噴火がこれから起こる可能性が非常に高い活火山であると判断し、調査を行う事とした。当研究室では、噴火後の複数の地域で水環境変化の調査を行っているが、今後噴火の可能性のある地域として選定したものである。<br> <br><b>Ⅱ 研究方法</b><br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;調査は2016 年11 月11~16 日で実施し、現地調査項目はAT,WT,pH,RpH,EC 等である。採水したサンプルは、研究室にてTOC, 主要溶存成分の分析を行った。主要溶存成分の分析結果、特にリチウム濃度について、その他成分との相関などを調べる。また、モリブデン青比色法によってSiO2の測定を行い、溶存成分との関係も解析した。<br> <br><b>Ⅲ 結果と考察</b><br><b>1.EC、WT、pH、RpH、溶存成分について</b><br>&nbsp;&nbsp; 十勝岳周辺の水質は、pHが低くECが高い傾向である。また水温も高く、温泉の影響が考えられる。pHとR-pHの差が大きい地点も温泉がほとんどである。北西の十勝岳周辺の低pH、高EC、高WT は温泉の影響が出ていると考えられる。十勝岳温泉、吹上温泉、吹上露天の湯、白金温泉、フラヌイ温泉などがあるが、泉質はそれぞれ異なっている。<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp;トリリニアダイヤグラムやシュティフダイヤグラムの分析によると、地域による水質のバラツキが大きく、主に地質の影響と考えられる。<br> <br><b>2.Li 濃度、Li/Cl 比について</b><br>&nbsp;&nbsp; Li濃度は、温泉地ではかなり高い値となっている(図1)。Li/Cl比についてもスラブ地殻深部流体の影響があると考えられる(風早ほか、2014)0.001 を超えている地点がかなり多くある(図2)。十勝岳周辺にも集中しているが、十勝川流域の十勝平野でも多くの地点で検出された。これについては、原因を探る必要がある。<br>&nbsp;&nbsp; 最高値はフラヌイ温泉で0.00522、次いで爪幕橋(然別川)で、0.00300、次が清水大橋(十勝川)で0.00277である。<br><br> <b>Ⅳ おわりに</b><br>&nbsp;&nbsp; 十勝岳周辺の水質分析の結果、Li濃度及びLi/Cl比の高い地点が、温泉地と周辺河川にみられた。十勝岳自体の活動は、現在小康状態であるが、これは地殻深部流体の影響と考えられる。こうした調査を継続的に行うことで、火山噴火と地殻深部流体の影響が明らかになる可能性がある。<br> <br><b>参 考 文 献</b><br>&nbsp;&nbsp; 風早康平, 高橋正明, 安原正也, 西尾嘉朗, 稲村明彦, 森川徳敏, 佐藤努, 高橋浩, 北岡豪一, 大沢信二, 尾山洋一, 大和田道子, 塚本斉, 堀口桂香, 戸崎裕貴, 切田司(2014):西南日本におけるスラブ起源深部流体の分布と特徴. 日本水文科学会誌44(1). pp.3-16.
著者
竹本 統夫 浅見 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>日本と比べ広い範囲で降雪が観測できるスウェーデンでは、春になると融雪によって河川の流量が大幅に増加し、時には水害を引き起こす。この融雪出水はヴォールフロードと呼ばれ、スウェーデンを代表する自然災害の一つに数えられている。しかし近年では、その発生傾向に変化が見られる。特に南部では冬季の積雪が減り、発生規模の縮小が著しい。北部を流れるカリクスエルヴェンと南部のエムオーンの二つの河川の流量とその周辺の気象データの1961年~2013年の推移を調査したところ、北と南の両方で気温が上昇傾向にあり、北部で融雪次期が2週間から1ヶ月ほど早まっている一方で、南部では冬季の積雪または降雨が短時間で流出し、融雪出水の規模が小さくなる傾向にあることが明らかとなった。また南部では、夏に集中豪雨が増え年間の流量のピークが春から夏に移動する傾向も見られた。</b>