著者
小林 修悟 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

Ⅰ はじめに河川流域の流域管理や環境保全を行うためには、流域単位での水域環境の把握が必要となる。近年はGISの普及により、河川流域の空間把握が格段に簡便となり、気候や地形等の河川の多様な水質形成因子の表現が可能となった。2000年以降、「水環境の地理学」の研究グループでは「河川流域の水環境データベース」作成が試みられている。当研究室では天塩川(清水ほか2006)、北上川(平山ほか2009)などの一級河川や大規模支流(信濃川支流魚野川、森本ほか2008)にて流域特性把握の研究が成された。本研究は水環境データベースの一環として尻別水系流域の流域特性把握を行うものである。当地域における羊蹄山湧水や公共水質観測による報告はあるが、支流を含めた水系全体の水質分析が成された例はない。主要溶存成分による水質分析とGISを利用した流域特性解析を紹介する。Ⅱ 流域概要 尻別川は支笏湖西方に位置するフレ岳(1,046m)に起源し、西方に流れ羊蹄山(1,893m)北麓を迂回し、蘭越町磯谷で河口へと達する、流域面積1,640km2、幹線流路長126km2の河川である。源流から喜紋別にかけての上流部では1/60以上と急勾配となっており流量は少ない。中流部から下流部にかけ支流合流と羊蹄山を中心とした湧水供給を受け、蘭越からの下流部では1/500‐1/5000程度と緩勾配となり、流量も増加し大河川となり河口へと注ぐ。 当地域は北海道有数の酪農、農業地帯となっており、主な農産品には馬鈴薯やアスパラガス等となっており、下流部は水田地帯が形成されている。観光面では羊蹄山湧水やラフティングといった、水資源による地域振興が成されており、尻別川が当地域に与える影響は大きくなっている。Ⅲ 研究方法国土数値情報等の公共作成データ等をGISソフト用いた流域規模での空間把握による自然地誌作成を行った。また、尻別川水系の水質特性把握を行うために、2012年5、7、9月下旬にて、本流、2次流以上の支流下流、湧水及びそれに準ずる河川最上流部の50点程サンプリングを行い、現地観測(気温、水温、流量、EC、pH、RpH)を行った。サンプルを濾過後、研究室にてTOC、イオンクロマトグラフィーによる主要溶存成分分析を行い、GISソフトによる図化により流域特性の鮮明な把握を行った。Ⅳ 結果と考察流域にはイワヲヌプリ(1,116m)に起源するpH4.0前後の硫黄川・ニセコアンベツ川等の酸性河川や、pH8.0前後の真狩川などを含み、湧水供給の高い河川など多様な河川が存在する。流域の大半が森林となっており5月下旬の河口部のECは95μm/cmと人為的影響が少ないことを示している。しかし、酪農地帯や耕作地流辺の小規模河川においてはpH、ECが高く人為的な影響を受けている。Ⅴ おわりに 本研究により尻別川水系には多様な特性を持つ河川が存在することが判明した。今後も調査を継続し年変動を把握し、水系特性及び各河川の水質形成の解明を行いたい。
著者
小寺 浩二 齋藤 圭 猪狩 彬寛 小田 理人 黒田 春菜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b> Ⅰ はじめに</b> 日本では高度成長期に水質汚濁が問題となるも法整備や環境意識高揚等で急速に改善されてきたが、地方でも都市化が進み水質汚濁が激しい地域が存在する。山村地域の排水処理施設の問題から大河川流域では下流部より上流部に汚染が目立つ。「公共用水域の水環境調査」、「身近な水環境の全国一斉調査」等の記録から日本の河川水質長期変動を検討してきたが、本稿では2020年の法政大学の「一斉調査」の結果を中心に考察を行う。</p><p><b>Ⅱ 研究方法</b> 「公共用水域の水質調査結果」、「身近な水環境の全国一斉調査」結果から長期変化を考察した。1971年以前は研究成果や報告書からデータを整理し、2018年以降は研究室の全国規模の観測記録を用い、2020年に研究室で実施した約2000地点の観測結果を対象とした。</p><p><b>Ⅲ 結果と考察 </b></p><p><b> 1 </b><b>.公共用水域の水質調査結果</b> 1971年の約1,000 点が1986年に5,000点を超え、その後6,000点弱の地点で継続されてきた。BOD値の経年変化では当初3以上が半数だった(1971年)が1976年には2以下が半数となり、最近では2以下が約8 割である(2018年)。4以上の値が減少し1以下が全体の約半数に増えている。</p><p><b> 2 </b><b>.身近な水環境の全国一斉調査</b> 2004年の約2,500地点が2005年に約 5,000 地点、その後6,000地点前後で推移し2018年には約7,000地点でCOD4以下が約半数となった。2020年は新型ウイルスの影響で地点が減り法政大学の結果が含まれず3,802地点となったが、約2,000地点の調査結果を加えて解析した。</p><p><b> 3</b><b> </b><b>.</b><b>1971</b><b>年以前</b> 小林(1961)以外の系統的な水質データは入手しづらく過去の水質復元の困難さが浮き彫りとなった。</p><p><b> 4</b><b> </b><b>.</b><b>最</b><b>近</b><b>の水質</b> 2019年以前の全国2000箇所以上のデータに加え2020年のデータを吟味することで近年の特徴が明確となった。</p><p><b>Ⅳ </b><b>お</b><b>わ</b><b>り</b><b>に</b> 全国規模の長期観測結果に1971以前のデータを加え過去の水質を復元した。最近の水質は独自に全国で約2,000地点の観測を行い現況を明らかにした。今後もデータを継続して収集し精度を上げたい。</p>
著者
黒田 春菜 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2022 (Released:2022-03-28)

Ⅰ はじめに 本研究では、最新の現地調査(2021 年 11月)と過去のデータ及び既往研究との比較を行うことで、猪苗代湖の中性化の現状をより明らかにすることを目的としている。また、2021年11月に底泥採取および珪藻分析を行ったため、その報告も兼ねる。 Ⅱ 地域概要 猪苗代湖は、汽水湖であるサロマ湖を除けば、国内における湖面積第3位を誇る。流入河川としては主に北岸へ流入する長瀬川があり、総流入量の半分以上を占める。ついで南岸へ流入する舟津川がある。流出河川は日橋川と安積疎水がある。日橋川は天然の流出河川であり、安積疎水は人的に管理されている。 Ⅲ 研究方法 現地では気温、水温、pH、RpH、電気伝導度(EC)の測定をおこなった。試料は実験室で処理し、TOC やイオンクロマトグラフを用いて主要溶存成分(N+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl−、NO3−、 SO42−)の分析をしている。その他湖心の調査なども行った。また、採取した底泥は筒状に採泥し、上部5mm。下部5mmずつ削って珪藻プレパラートを作成した。 Ⅳ 結果と考察 猪苗代湖および浜では、とりわけ湖西部で生活排水や湖岸植生「ヨシ」の枯死によって人的もしくは自然的な影響によるpHの上昇が見られた。沼ノ倉2号橋では、放水が起こるとEC値が通常時の50µS/cm前後から150µS/cm以上にまで大きく上昇することがわかった。しかしこの放水が湖水にもたらす影響は微々たるものであるため、猪苗代湖の中性化は長瀬川の水質に大きく左右されることがわかった。長瀬川に合流する旧湯川(湯川橋)の水質は、強酸性である硫黄川とアルカリ性である高森川の2河川の水質に大きく左右されることもわかった。上下で2枚作製した珪藻プレパラートは、上下で出現珪藻に違いが見られた。上部における最多出現属はフラギィラリア(Fragilaria)属、下部ではナビィクラ(Navicula)属が最多であった。 Ⅴ おわりに 化学的分析および生物学的分析により猪苗代湖の中性化についての議論が深まったが、これらをより確固なものとするためにも今後も定期的な調査が必要である。特に珪藻分析の質を高め、流量の測定に一段と気を配りつつ、猪苗代湖および集水域の調査を継続していきたい。 参 考 文 献 小寺浩二・森本洋一・斎藤圭(2013):猪苗代湖および集水域の水環境に関する地理学的研究(4) -2009年 4 月~ 2012年 11月の継続観測結果から-, 2013年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.
著者
森木 良太 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.113, 2008

新河岸川は江戸時代から舟運が盛んであり、流域には舟問屋が建ち並んでいた。東上線開通後は水上交通が衰退しつつあったが、流域には水田が広がり、現在でも河川との関わりは深い。一方、支流上流部や河川から離れた地域においては、江戸時代から茶や芋の生産が盛んである。畑作中心の地域では、本川や流域下流部とは異なり、河川への関わりはあまりない。本研究では流域全体の小学校の校歌を調べ、自然景観との関わりの地域差を明らかにする。 小学校は、川越市、ふじみ野市、富士見市、志木市、朝霞市、新座市、和光市、所沢市、狭山市、入間市の公開分の校歌を使用した。 新河岸川流域について歌われている小学校は108校中28校であった。富士見市、朝霞市、新座市の小学校で多く歌われていることがわかった。一方、同じ流域であっても、所沢市、狭山市ではあまり歌われていない。新河岸川流域は、戦後のベットタウン化により新設された小学校が多いが、昭和以降に新設された小学校ほど流域の表現が歌詞に出てこない傾向があった。 新河岸川流域の歌詞が存在する小学校の多くが、明治時代からあった小学校だということがわかった。ただし、歴史のある小学校でも新河岸川流域の表現が歌詞に出てこない小学校はあった。流域で最も歴史のある小学校は川越や志木、所沢にあり、いずれも明治初期に開校しているが、いずれも新河岸川流域が歌われていない。川越で最も古い中央小学校では、歌詞には入間川の表現が使われ、新河岸川の表現が出てこなかった。
著者
猪狩 彬寛 小寺 浩二 浅見 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>Ⅰ はじめに<br></b>日本の国土の70%は山地で占められており、その中には火山も少なくない。火山体が有力な貯水能をもっているということは重要(山本 1970)で、本邦でも決定的な意味を持っている。当研究室では富士山周辺や伊豆諸島での研究も古くから継続されている。今日では2016年9月27日の噴火活動以前から調査を続けていた御嶽山を中心に活火山体周辺の水環境を研究している。浅間山では周辺の水質を把握し、地域特性を明らかにすることで、水環境形成の要因を考察することを試みる。 <br><br> <b>Ⅱ 研究方法<br></b> 第1回目の調査を2015年6月20日および25日に行ない、以降約1ヶ月おきに調査を実施している。ここでは2017年5月26日の第22回までの調査の結果をまとめる。調査地点は調査を重ねていく中で徐々に増やしていき、現在は河川と降水採取地点と合わせて48地点である。現地ではAT、WT、pH、RpH、ECの測定を実施。また水のサンプリングをして研究室に持ち帰り、ろ過を済ませたのちTOCおよび溶存成分の分析を実施した。<br> <b><br>Ⅲ 結果と考察<br></b> <b>1.&nbsp; </b><b>河川(北麓)<br></b><b></b> 湯尻川や泉沢周辺では重炭酸カルシウム(Ca-HCO<sub>3</sub>)型の水質が分布し、水温・EC値共に周辺に比べ低いことが確認された。pHは7.0~7.5前後の地点が多いが、その変動は泉沢周辺で大きく、季節ごとの人為的影響が強く出ている。ECは湯尻川や泉沢で100&micro;S/cm前後だが、東の地域では地点間の変動が激しく、高羽根沢と地蔵川で200&micro;S/cm、小滝沢と濁沢で300&micro;S/cmを超え、特に片蓋川では平均値が500&micro;S/cmを超えている。<br> <b>2.&nbsp; </b><b>河川(南麓)<br></b><b></b> 地点による水質の差が北麓に比べ顕著であった。EC値の大きい地点では、Na<sup>+</sup>やMg<sup>2+</sup>などの陽イオン、HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>やSO<sub>4</sub><sup>2-</sup>などの陰イオンの比率が大きくなり、濃度も高く、pH・EC値共に高い傾向にある。<b></b> <br><b>3.降水<br></b><b></b> 山体の東側に位置する六里ヶ原および鬼押出し園の降水は、西側に位置する降水と比べpHが低くEC値が大きくなる傾向が見られた。東西でこの傾向が入れ替わる場合もあり、風向および風速の影響が示唆された。<br><br><b>Ⅳ おわりに<br></b> 浅間山南斜面を流下する濁水や北麓の夏季に異常に低い水温を示す地点など、浅間山周辺河川の特色がつかめてきたと同時に、2年間の水質の変動についてもある程度把握することができた。今後は南麓を中心に、より上流域(山頂域)の地点を調査することを計画している。<br><br> <b>参考文献<br></b>鈴木秀和・田瀬則雄(2007):浅間山北麓における湧水温の形成機構と地域特性, 日本水文科学会誌, 37(1), 9-20 <br> 鈴木秀和・田瀬則雄(2010):浅間火山の湧水の水質形成における火山ガスの影響と地下水流動特性-硫黄同位体比を用いた検討-, 日本水文科学会誌, 40(4), 149-162.<br> 早川由紀夫(1995):浅間火山の地質見学案内, 地学雑誌, 104(4), 561-571<br>
著者
小島 千鶴 小寺 浩二 濱 侃 齋藤 圭
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.61-70, 2017-08-28 (Released:2017-09-20)
参考文献数
29
被引用文献数
1 3

本研究では群馬県大間々扇状地における地下水の硝酸態窒素(NO3--N)汚染に着目し,9ヶ月の定期調査から,NO3--N濃度の空間分布及び,季節変動について考察を行った。分析の結果,27の調査地点のうち7割以上が人的汚染の影響を受けていることが示唆され,その中でも農用地が多い地域の地下水からは高濃度のNO3--Nが確認された。さらに,NO3--NとCl-・SO42-が強い相関を示したことから地下水のNO3--N汚染は施肥に起因していることが示唆された。また,地下水のNO3--N濃度及び水位の季節変動は降水量とほぼ対応しており,雨期は土壌からの溶脱によってNO3--N濃度が上昇したと考えられる。加えて,井戸の中には調査期間を通して環境基準値を超過した地点も複数確認され,地下水への汚染は一過性のものでは無く,ある程度長期的に生じていることが明らかとなった。
著者
諸星 幸子 小寺 浩二 浅見 和希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>Ⅰ はじめに</b><br>&nbsp;&nbsp; 北海道の中心にほど近い十勝岳は、上川管内の美瑛町・上富良野町、十勝管内の新得町にまたがる標高2,077mの活火山である。十勝岳では、1857年安政噴火、1887年明治噴火、1926年大正噴火、1962年噴火、1988~89年噴火と30年弱~40年弱の間隔で周期的な噴火が起きており、現在(2016年)は、直近の噴火より26年目となっている。水蒸気噴火がこれから起こる可能性が非常に高い活火山であると判断し、調査を行う事とした。当研究室では、噴火後の複数の地域で水環境変化の調査を行っているが、今後噴火の可能性のある地域として選定したものである。<br> <br><b>Ⅱ 研究方法</b><br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;調査は2016 年11 月11~16 日で実施し、現地調査項目はAT,WT,pH,RpH,EC 等である。採水したサンプルは、研究室にてTOC, 主要溶存成分の分析を行った。主要溶存成分の分析結果、特にリチウム濃度について、その他成分との相関などを調べる。また、モリブデン青比色法によってSiO2の測定を行い、溶存成分との関係も解析した。<br> <br><b>Ⅲ 結果と考察</b><br><b>1.EC、WT、pH、RpH、溶存成分について</b><br>&nbsp;&nbsp; 十勝岳周辺の水質は、pHが低くECが高い傾向である。また水温も高く、温泉の影響が考えられる。pHとR-pHの差が大きい地点も温泉がほとんどである。北西の十勝岳周辺の低pH、高EC、高WT は温泉の影響が出ていると考えられる。十勝岳温泉、吹上温泉、吹上露天の湯、白金温泉、フラヌイ温泉などがあるが、泉質はそれぞれ異なっている。<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp;トリリニアダイヤグラムやシュティフダイヤグラムの分析によると、地域による水質のバラツキが大きく、主に地質の影響と考えられる。<br> <br><b>2.Li 濃度、Li/Cl 比について</b><br>&nbsp;&nbsp; Li濃度は、温泉地ではかなり高い値となっている(図1)。Li/Cl比についてもスラブ地殻深部流体の影響があると考えられる(風早ほか、2014)0.001 を超えている地点がかなり多くある(図2)。十勝岳周辺にも集中しているが、十勝川流域の十勝平野でも多くの地点で検出された。これについては、原因を探る必要がある。<br>&nbsp;&nbsp; 最高値はフラヌイ温泉で0.00522、次いで爪幕橋(然別川)で、0.00300、次が清水大橋(十勝川)で0.00277である。<br><br> <b>Ⅳ おわりに</b><br>&nbsp;&nbsp; 十勝岳周辺の水質分析の結果、Li濃度及びLi/Cl比の高い地点が、温泉地と周辺河川にみられた。十勝岳自体の活動は、現在小康状態であるが、これは地殻深部流体の影響と考えられる。こうした調査を継続的に行うことで、火山噴火と地殻深部流体の影響が明らかになる可能性がある。<br> <br><b>参 考 文 献</b><br>&nbsp;&nbsp; 風早康平, 高橋正明, 安原正也, 西尾嘉朗, 稲村明彦, 森川徳敏, 佐藤努, 高橋浩, 北岡豪一, 大沢信二, 尾山洋一, 大和田道子, 塚本斉, 堀口桂香, 戸崎裕貴, 切田司(2014):西南日本におけるスラブ起源深部流体の分布と特徴. 日本水文科学会誌44(1). pp.3-16.
著者
小寺 浩二 濱 侃 齋藤 圭 森本 洋一
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.237-249, 2014-08-30 (Released:2014-10-21)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
澤田 律子 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.161, 2011

<B>I はじめに</B><BR> 周囲を海域に囲まれた島嶼の環境では、表流水は即座に海洋へと流出し、それと共に様々な物質が同時に海洋へと流出している。中でも亜熱帯気候に属する八重山諸島では、島の周囲にはサンゴ礁等が発達し、貴重な環境が形成されているため、島を流下し、海洋へと流出する陸水が沿岸域に及ぼす影響は大きい。石垣島においては赤土流出が以前から問題視されており、名蔵川や轟川の土砂や栄養塩の流出解析が流域単位で行われているが、本研究は流域単位にとどまらず、陸水を広域的にとらえ、その季節変動や降雨イベントによる変動を明らかにすることを目的とする。<BR><B>II 対象地域概要</B><BR> 東京から2000kmの距離に位置し、人口、産業の面から見ても八重山諸島の中でも中心的な島として存在する。気候は亜熱帯海洋性で、平均気温は23.7℃、平均降水量は2127.2mmであり、梅雨期と台風時の降雨が年間降水量の6割を占める。北部には県最高峰の於茂登岳(525.8m)を始めとする於茂登連峰が連なり、雨の降り方に地域差が見られる。一級河川は存在せず、主要河川には宮良川、名蔵川、轟川が挙げられ、その他には大小100ほどの名前のついた川や沢が存在する。人口は南部に集中する。<BR><B>III 研究方法</B><BR> 石垣島の諸河川約90地点において2009年2月より、約3か月に1回の頻度で計8回の現地水温観測を実施し、2010年9月の台風接近時には宮良川流域の5地点で3時間ピッチの集中観測、9点で24時間ピッチの観測を実施した。観測項目は、水温、電気伝導度(以下EC)、DO、TURB、TDS、pH、RpH、流量で、サンプルを用いて、イオンクロマトグラフによる主要溶存成分測定、TOC分析計による全溶存炭素量分析を行なった。月一回の頻度で、河川水と降水のサンプリングも実施している。<BR><B>IV 結果と考察</B><BR> 標準偏差が20以下と変動が小さい地点は於茂登岳周辺部に集中し、変動が大きい地点のECの地点平均値は高いことが特徴として挙げられる。石垣島の水質組成は主にアルカリ土類炭酸塩型に分類される。大半がCa-HCO<SUB>3</SUB>型のパターンを示し、特に顕著なのが轟川で、石灰岩地域の特徴が表れたと思われる。一部でNa-Cl型と特異な性質を示すが、これはCa<SUP>2+</SUP>、HCO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP>の含有量が少ないだけでありNa<SUP>+</SUP>、Cl<SUP>-</SUP>の含有量はCa-HCO<SUB>3</SUB>型の他の地点と同程度である。<BR>降雨後には、ECは急激に減少し、9月4日の正午ごろEC250μS/cm以下の最小値が観測された後、ECは増加し始めるが、平常値までの回復には数日間の時間を要した。下流より川原橋(支流の振興橋)、ハルサ農園前(水路)、仲水橋、竿根田原橋と分布しているが、竿根田原橋、仲水橋、川原橋という順で上流ほどECの回復速度が早く、下流に近づくにつれて回復は緩やかなスピードで起こっている。それに連動してCa<SUP>2+</SUP>、Mg<SUP>2+</SUP>、Cl<SUP>-</SUP>も増減しており、地点によってはNa<SUP>+</SUP>、SO<SUB>4</SUB><SUP>2-</SUP>も増減している。降雨イベントによるECの変動は降雨に伴う溶存物質の流出が引き起こしているが、地点によってその大きさに差異が生じていることから、土壌成分が流出しているところと、していないところが存在することが分かった。<BR><B>V おわりに</B><BR> 雨量強度に対する土壌流出の関係性が見いだせれば、降雨時のECの値から雨量を算出することが可能となる。傾斜や地質といった様々な要因から、土壌成分の流失強度を導き、河川のECと雨量の関係を明らかにしていく必要がある。<BR><B>参 考 文 献</B><BR>澤田律子・小寺浩二(2010):八重山諸島石垣島諸河川の水質変動に関する研究,陸水物理研究会発表会,.