著者
綾部 仁士 山内 康太 石村 博史 海塚 安郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】中等度から高度侵襲の外科術後においては、早期に異化亢進が起こり、体重が減少する。そこで術後の身体機能を速やかに回復させるためには異化を最小限に抑止し、同化を促進することが重要である。今回、腹部大動脈瘤切除・再建術と肝切除術後患者において、早期経口摂取と疼痛管理下による早期離床と運動療法が、体重減少と術後在院日数に与える影響について検討した。<BR>【方法】平成17年1月から平成19年4月の間に十分な疼痛管理の下、周術期理学療法を実施し、早期に経口摂取を開始した群(以下:理学療法実施群)38名(再建術22名、肝切除術16名)と平成14、15年度に周術期理学療法を実施せず、かつ早期から経口摂取に努めなかった群(以下:非実施群)39名(再建術25名、肝切除術14名)を対象とした。再建術、肝切除術ともに理学療法実施群における離床は、術後1日目より開始し、術後4~5日目には運動療法を開始した。非実施群の離床は看護師によって個別に行われた。そこで再建術、肝切除術の各群間で(1)経口開始時期、(2)術後2週目での体重減少率、(3)術後在院日数を比較検討した。理学療法実施群においては、術後身体機能の回復度を6分間歩行試験で評価した。また患者背景因子と手術関連事項については両手術群間で差を認めなかった。<BR>【結果】(1)再建術は、理学療法実施群で1.9±0.9日、非実施群で5.9±2.6日、肝切除術は、理学療法実施群で2.0±0.8日、非実施群で3.3±1.0日となり両手術とも理学療法実施群で有意な短縮を認めた。(2)再建術は、理学療法実施群で3.4%、非実施群で5.0%となり非実施群で体重が減少する傾向を認めた。肝切除術は、理学療法実施群で3.4%、非実施群で4.5%となり、両群間で有意な差を認めなかった。(3)再建術は、理学療法実施群で17.4±5.3日、非実施群で25.8±9.5日となり理学療法実施群で有意な短縮を認めた。肝切除術は、理学療法実施群で18.2±5.0日、非実施群で21.0±5.9日となり理学療法実施群で短縮する傾向を認めた。再建術の術後身体機能は退院時で91.1%、肝切除術は97.4%まで回復した。<BR>【考察】再建術では、早期離床と運動療法が、腸蠕動回復を促し、早期経口摂取に寄与したと考えられた。また早期経口栄養と運動療法が、異化亢進を抑止し、同時に同化を促進することで体重減少を最小限に防止できたと考えられた。その結果が身体機能を速やかに回復させ、在院日数を短縮させたと考えられた。肝切除術では、体重減少からは早期経口摂取と運動療法の効果を評価することが困難である。それは切除後の肝機能低下による水分・電解質の貯留による体重変化が起こる可能性が考えられる。よって体重は代謝のパラメーターとして重要であるが、手術臓器によっては評価に注意が必要であると思われる。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>
著者
海塚 安郎
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.671-682, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
57

急性呼吸不全は肺酸素化障害が主病態であり、原因は細菌性肺炎、誤嚥性肺炎、間質性肺炎、刺激性のガスの吸入、敗血症、多発性外傷、ショックなど数多くあり、それらは肺の直接障害によるものと全身性炎症反応の標的臓器となり発症する場合がある。治療は、原因への治療と呼吸循環をはじめとする全身管理で構成される。侵襲に伴い神経-内分泌-免疫系が賦活され代謝動態は異化亢進となる。さらに呼吸不全では呼吸仕事量の増加、挿管による新たな感染症のリスク、広域抗菌薬使用による正常細菌叢の乱れ、ステロイド使用による高血糖、喀痰力の維持改善の点からも全身管理の一環として代謝・栄養管理が重要であり、早期からの経腸栄養が推奨される。初期投与設定では、熱量は25kcal/kg/日 (20≤BMI≤25) とし、使用する栄養剤は1.5~2.0kcal/mL濃度、タンパク質投与量は1.0-1.2g/kg/日、脂質含量15~30%を基準とし、血糖値は120~160mg/dLとする。炭酸ガス産生抑制が必要な病態では脂質含量を増やす。その後は血液生化学データの推移を確認し電解質および体液の厳密な管理を行い、その上で患者の個別性を反映 (投与熱量、タンパク質量の調節) した栄養管理を行う。ALI/ARDS症例へのn-3系脂肪酸、γリノレン酸、抗酸化物質を強化した栄養剤は現状では「考慮すべき」レベルである。
著者
山内 康太 島添 裕史 石村 博史 鈴木 裕也 熊谷 謙一 海塚 安郎 東 秀史
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.387-394, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

【目的】早期離床は術後管理において重要な構成要素の1つであるが,起立性低血圧(orthostatic hypotension, OH)をきたした場合,理学療法の介入が遅れ早期離床の阻害因子となる。本研究では胃癌に対し待機的胃切除術を施行した症例を対象に,術後1日目離床時におけるOHの発症率および発症因子を調査した。【方法】2004年4月から2011年8月までに胃癌で待機的手術を施行し,周術期理学療法を実施した211例を対象とした。調査項目としては,OH発症の有無および術前,術中,術後の3期においてOHに影響したと想定されるすべての因子を診療録より抽出した。【結果】胃癌術後1日目におけるOHは78例(37.0%)であった。多重ロジスティック回帰分析において,OH発症に有意に影響した因子は虚血性心疾患の既往の有無〔odds ratio(OR)2.317,95%confidence interval(CI)1.118~4.805,P=0.024〕,術後血清アルブミン値(albumin, Alb)(OR 0.362,95%CI 0.180~0.725,P=0.004),術後WBC(OR 1.008,95%CI 1.000~1.017,P=0.043),術後平均動脈圧(mean arterial pressure, MAP)(OR 0.968,95%CI 0.947~0.991,P=0.006)であった。【結論】胃癌術後におけるOHは37.0%と高率であり,虚血性心疾患,術後Alb,術後WBC,術後MAPが関連していることが示唆された。