著者
加藤 英之 深井 朋樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.466, pp.31-38, 2000-11-17
被引用文献数
2

Abeles et al.(1993)によるサル前頭葉からの多電極神経活動測定により, 1msec程度の時間幅に集中した神経細胞の集団発火(パルスパケット)が集中度を保ったまま数十段のシナプスを伝わる現象が示唆された.Diesmann et.(1999)はパルスパケットの伝播における集中度の安定性が2次元空間内のアトラクターで表現できることを示した.我々は集中度の変化をFokker-Planck方程式で計算し, 2次元空間での特徴的な流れとそのアトラクターは自発神経活動によるシナプスノイズで決まることを示す.さらに, 伝播するパルスパケット同士の相互作用により, 同期検出や時間競合が可能となることを示す.
著者
青柳 富誌生 深井 朋樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

最近の生理学実験の結果から、神経ネットワークの発火の相関が視覚刺激の情報統合や注意の切り替え等の高次機能に重要な役割を果たしている可能性が示されている。本研究では、[1]神経ネットワークがどのように発火相関を制御するのか?[2]逆に、現時点で系統的な数理モデルの研究がほとんど無い、発火相関が神経ネットワークの機能を制御できるのか?という双方向の機構を理論的に検証し、最終的に両者の自律分散的な協調過程を通じて高度な機能が実現するメカニズムを探ることが目的である。現時点では、[1]に関して、大脳皮質に広く偏在している同種の抑制性ニューロン間のギャップ結合の存在意義について、多様な発火パターンの実現という観点から理論的に説明を試みた。結果として、抑制ニューロン間に通常の化学シナプス,結合とギャップ結合が共存することで、その結合強度比を生理学的に妥当な範囲で調整することにより、同期・非同期状態を多様に実現できることが解析により示された。[2]に関しては、例えば、カラム形成に重要な競合型神経回路網において、入力の発火タイミングの相関により機能を制御可能である点を理論的に示した。また、更に大脳皮質の回路構造を基礎に連想記憶モデルを構成し、想起パターンの切り替えが同期発火入力により制御可能である点を示した。これは、同期発火が神経活動の切り替わり(すなわち行動の切り替え等)の為のシグナルになり得る点を示した興味深い結果である。
著者
深井 朋樹 竹川 高志 姜 時友 寺前 順之介
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

測定技術の進歩により、脳研究は詳細な回路メカニズムを解明する段階に入りました。そこで多電極記録や光計測によって得られるデータから、多数の神経細胞の活動を半自動的に分離するための新しい数学的手法を提案しました。また大脳皮質回路の非ランダム構造が自発発火生成や、記憶と意思決定の情報表現において果たす役割を、神経回路モデルを構築して明らかにしました。また脳がそのような構造を獲得するシナプス可塑性機構を理論的に同定し、それを用いた聴覚野神経回路モデルが、雑音の存在下で複数の音声信号を分離して認識できることを示しました。これはカクテルパーティ効果と呼ばれています。